筋肉のように伸縮する柔らかいロボット部品が、“生物のように動く機械”の第一歩になる

伸縮によって力を伝達する筋肉の仕組みをヒントに、柔軟性をもちながらも硬化できるロボットの部品を米国の研究者たちが開発した。生物のように動くロボットの実現に向けた大きな一歩となる可能性を秘めている。
筋肉のように伸縮する柔らかいロボット部品が、“生物のように動く機械”の第一歩になる
Photograph: skyfotostock/Getty Images

これまでロボットの関節部分に利用されてきたアクチュエーター(入力されたエネルギーや電気信号を物理的な運動に変換するモーターなどの機構)は、硬くて変形しない素材ゆえに柔軟性や適応性、安全性において限界があった。そこでロボット工学の研究者たちは近年になって、筋肉のような柔軟性をもつソフトアクチュエーターと呼ばれる機構に注目している。

「筋肉のように伸び縮みする素材があれば、本物の生き物のように動くロボットをつくれるのではないかと考えました」と、ノースウェスタン大学で材料工学や機械工学を研究するライアン・トゥルービーは説明する。

トゥルービーらの研究チームは、人間の筋肉のように伸張と収縮が可能なソフトアクチュエーターを開発した。さらに、この新型のソフトアクチュエーターをミミズ型のロボットに組み込んで、狭く曲がりくねった管の内部を自律移動させることにも成功した。

柔軟性と強硬性を併せもつ部品

新型のソフトアクチュエーターを開発するにあたり、エンジニアチームは熱可塑性ポリウレタンを使って「Handed Shearing Auxetics」(HSA)と呼ばれる円筒状の部品を3Dプリンターで構築した。HSAは繊維が複雑に絡み合ったような構造物で、ねじると伸張する特性をもつ。ちなみに、熱可塑性ポリウレタンはゴムのような伸縮性のある柔らかいプラスチックで、スマートフォンケースの素材などに使われている。

このソフトアクチュエーターの内部はふいごのような蛇腹構造になっており、それが可変式の回転軸として機能する。サーボモーターによって軸にトルクが生じるとアクチュエーターが伸縮する仕組みだ。ソフトアクチュエーターをより多様なロボットに活用するためには、全体の伸縮運動を単一のモーターで制御できる構造が重要であると、この仕組みを考案した博士研究員のキム・テギョンは説明している。

ソフトアクチュエーターを伸縮させながらガイドに沿って進むミミズ型ロボット(写真左)。このソフトアクチュエーターを筋肉のように伸縮させることで、腕のようなアームを動かす様子(写真右)

Photograph: Ryan Truby/Taekyoung Kim/Northwestern University

研究チームによると、これまでにもHSAを使ってソフトアクチュエーターの開発を試みたケースはあったが、サーボモーターで素材そのものをねじって伸張させるものがほとんどだった。しかし、この方法ではHSAのパーツごとにモーターを配置しなければならず、アクチュエーターの柔軟性を損なうという欠点があった。

さらに今回、一般的に普及している熱可塑性ポリウレタンを安価な家庭用のデスクトップ3Dプリンターで加工することで、従来のアクチュエーターに比べて製造コストを大幅に抑えている。従来の硬いアクチュエーターの製造には数百ドルから数千ドルの費用がかかっていたが、今回のソフトアクチュエーターはわずか3ドル(約430円)程度でつくれるという。

新型のソフトアクチュエーターの性能を実証するために、研究チームは全長26cmのミミズ型ロボットを製作した。このロボットは毎分32cmの速度で前進と後退が可能で、曲がりくねった狭いパイプの中を巧みに自律移動できる。また、このソフトアクチュエーターで再現した人工の二頭筋は、500gのおもりを連続して5,000回持ち上げることに成功したという。

「このソフトアクチュエーターは柔軟性をもちながら、ねじることで筋肉のように硬くなります」と、トゥルービーは説明する。人間の筋肉は柔軟性をもちながら緊張して硬くなることで力を伝達できる。その仕組みを熱可塑性ポリウレタンの柔軟性とHSAの構造で再現したというわけだ。トゥルービーによると、柔軟性を重視したソフトアクチュエーターは数あれど、多くの場合において硬化できる特性はこれまで見過ごされてきたのだという。

生物のように動くロボットは多様なタスクをこなせる可能性を秘めている。人間の筋肉のように機能するソフトアクチュエーターは、生物を模倣したロボットの実現に向けた大きな一歩になるだろうと、トゥルービーとキムは信じている。

(Edited by Daisuke Takimoto)

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