3Dプリンター製の臓器から腫瘍を“嗅ぎ分ける”手術器具まで。未来の医療を象徴する8つの新技術

3Dプリンターや機械学習、仮想現実(VR)などの技術は、医療の現場でも活用されている。未来の医療現場を想像する手がかりとなる、新技術をいくつかご紹介しよう。
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Photograph: Donato Fasano/Getty Image

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英国で国民保健サービス(NHS)が設立された75年前と比べると、医療の現場は随分と進化した。当時の病院で働いていた医師や看護師に現代の病棟の設備を見せても、何が何なのかまったく理解できないだろう。同様に、未来の病院の姿もいまとは大きく異なるはずだ。ここでは今後数年のうちに起こりそうな変化をいくつか紹介しよう。

完全自律型の手術ロボット

ジョンズ・ホプキンス大学の研究者チームは、人間の助けを借りずに手術を実施する完全自律型ロボットの開発に取り組んでいる。このロボットには3Dの画像認識システムと機械学習アルゴリズムが搭載されているので、手術中にロボット自身が次の行動を考えたり、不測の事態に対応したりといったことが可能なのだという。「Smart Tissue Autonomous Robot(STAR)」と名付けられたこのロボットは、2022年にブタの組織モデルを使った腹腔鏡手術に挑み、腸管の両端を巧みに縫合して手術を成功させた。

病気を発見してくれるスマートトイレ

スマート家電メーカーのWithingsは、尿検査デバイス「U-Scan」を23年3月に発表した。丸い小石のような形をした直径90mmのこの装置を便器に取りつけておくと、尿に含まれるケトン体やビタミンCの濃度といったバイオマーカー(体内の生物学的変化を示す指標)が自動的に測定される。1回の充電で3カ月間の連続使用が可能だ。ほかにも黄体形成ホルモンの濃度やpH値も測定可能なので、女性が毎月のホルモン変動を把握するためにも活用できる。

VRセラピー

オックスフォード大学と医療テクノロジー企業Oxford VRの共同研究チームは、広場恐怖症患者に対して仮想現実(VR)を取り入れたセラピーを実施し、従来型のセラピーに比べて症状緩和により有効であることを確認したと、医学誌『The Lancet』に掲載された研究論文のなかで発表した。「gameChange」と名付けられたこの心理療法では、カフェやバス車内を再現したバーチャル環境で時間を過ごすことで患者の症状緩和を促す。このセラピーは、英国NHS傘下のGreater Manchester Mental Health Foundation Trustで実際に活用されている。

3Dプリンター製の臓器

22年2月、テキサス州サンアントニオに住む女性が、3Dプリンター製の右耳を使った外耳再建手術を受けた。この耳は、患者自身の左耳から採取した軟骨細胞を使ってつくられたものだ。まず採取した軟骨の細胞を培養して数十億倍に増やし、それをもとに再生医療テクノロジー企業3DBio Therapeuticsのバイオプリンター「GMPrint」で耳の形に出力したという。この種のインプラント手術としてはこれが初めての事例だが、すでに世界中でいくつもの研究室が3Dプリンターを使った皮膚や骨、小型の臓器の作製に成功している。

非接触の血圧モニター

オーストラリアとイラクの技術者が参加する共同チームが、患者に触れることなく血圧を測定できるモニターを開発した。まず患者の顔を近距離から10秒間撮影し、画像処理アルゴリズムを使った映像分析により、額の2カ所から健康に関する生体信号を読み取るしくみだという。このチームは、同じように非接触で体温や酸素飽和度を測定できるモニターも開発している。

臨床メモを作成するAI

すでに50万人以上の医師が、音声認識ソフトウェアを使い、コンピューターの操作や患者のカルテ検索にかかる時間を短縮している。マイクロソフト傘下の音声認識ソフトウェア企業Nuanceは、医師が患者を診察している間に臨床メモを自動作成するソフトウェアのアップデート版を23年3月に発表した。このソフトウェアは「DAX Express」という名で、環境知能を活用し、Open AIの大規模言語モデル「GPT-4」が搭載されている。

運べるMRIスキャナー

医療機器メーカーのHyperfineは、可搬型の磁気共鳴画像(MRI)スキャナー「Swoop」を製造している。Swoopには小さな車輪が付いており、患者の病室に運び込み手近な壁のコンセントにつなぐだけで、即座に脳の断層写真を撮影できる。所要時間は30秒ほどだ。磁場の強さが従来型MRI装置の25分の1ほどしかないので、出力される画像の解像度は低い。しかし、25万ドル(約3,500万円)という価格は、フルサイズ装置の6分の1と格安だ。

腫瘍を“嗅ぎ分ける”手術器具

「インテリジェント手術器具」を使えば、がんなどの疾患をほんの数秒で検知できる。「iKnife」もそのひとつだ。インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが開発したiKnifeは、電気メスと質量分析計を組み合わせた手術器具だ。メスの先端から生体組織に電流を流し、そこから立ち上る煙を化学的に分析するしくみだ。最新の研究報告によると、iKnifeの子宮がん診断精度は89%に達するという。

(WIRED US/Translation by Mitsuko Saeki/Edit by Ryota Susaki)

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