“ゲームコントローラー”が米軍の必須装備になっている

兵器や戦争の機械を操るのに複雑なボタンやスイッチ、トグルに頼った数十年を経て、米国防総省はもっと一般的な道具にたどり着いた。ゲームコントローラーだ。これは何百万人もの入隊候補者にとって、すでに使い慣れた装置だ。
U.S. Air Force Senior Airman Thomas Giglio a 36th Civil Engineer Squadron explosive ordnance disposal team member...
グアムの太平洋地域訓練センターでのFMCU(行動の自由制御ユニット)の実演。Photograph: Courtesy of U.S. Air Force/Senior Airman Jasmine M. Barnes

未来の戦争で米軍が最新兵器を操るのは、大きなコントロールパネルやSFっぽいタッチスクリーンではない。自宅にあるXboxやPlayStationで育った者なら誰でもよく知る、ゲームのコントローラーになるのだ。

米国国防総省は数年間にわたって、段階的に各種「FMCU(行動の自由制御ユニット)」をさまざまな最新鋭兵器システムの主要制御ユニットに統合してきた。このことは国防総省の視覚情報配布システム・メディアハブに公表された画像からわかる。

新たなシステムには、陸軍の新しい機動近距離防空システム(M-SHORAD)がある。これは歩兵戦闘車両ストライカーに、FIM-92スティンガーやAGM-114ヘルファイヤといったミサイルと30ミリ機関砲を装備し、東欧でロシアと対峙する事態になった際の重要な防空能力として位置づけられている。また、空軍のMRAP装甲車を基盤とした兵器による空軍基地奪還車両(RADBO)は、即席爆発装置や不発弾の除去にレーザーを使用する。さらに海兵隊は、ハンヴィーに搭載する高エネルギー遠征レーザー(HELEX)兵器システムの試験を実施中である。

FMCUはまたさまざまな実験的無人車両でも使われており、2023年版の海軍契約によると、“I-Stalker”と呼ばれるAN/SAY-3A電子光学センサーシステムの運用でも不可欠なものとなる。I-Stalkerは、海軍の次期コンステレーション級誘導ミサイルフリゲート艦の外敵追跡攻撃能力向上のために設計されている。

戦闘に耐えるよう頑丈にデザイン

人と機械のインターフェイスを専門とする英国の防衛企業、ウルトラの子会社であるMeasurement System Inc(MSI)が製造するFMCUは、一般的なXboxやPlayStationのコントローラーと似た仕様でできている。だが、米軍兵士がどのような戦闘状況に置かれようともセンシティブな電子機器が守られるよう頑丈にデザインされている。

連邦政府関連の契約情報プラットフォームであるGovTribeによると、MSIは長年さまざまな米海軍のシステムや航空機で使われるジョイスティックを開発してきた企業だという。ジェネラル・アトミックス、ボーイング、ロッキード・マーティン、BAEシステムズといった“主要”防衛企業の下請けとして働き、“さまざまな航空機や車両プログラム” に手持ちコントロールユニットを提供してきた。

ウルトラは「今日の兵士にとって最も使いやすい仕様は何かを把握する先見性によって最上級に強く、設定範囲の広いFMCUをつくり続けてきました」と標榜する(ウルトラは何度要請しても『WIRED』の取材に応じなかった)。

ゲーム世代には馴染みやすい

いかようにもカスタマイズできるFMCU自体は新しい技術ではない。ウルトラによると、システムは遅くとも2010年以降、米海軍のMQ-8 Fireスカウト無人自律ヘリ(すでに退役)と、陸軍と海兵隊がともに対テロ戦争で使ってきた地上運用監視システム(GBOSS)で使われてきた。しかし近年、あらゆる形の高度な新兵器プラットフォームでコントローラーが普及しているのは、単に運用上、触覚的であったり、人間工学に基づいたコントロールを求めるというより、次世代の兵士が入隊を考える前から馴染んでいるものを採用しようという傾向が強まっていることの反映だ。

「RADBOのオペレーターは概して若いのです」と空軍広報官は『WIRED』に語る。「ですから、FMCUのようなPlayStationやXbox型のコントローラーに、ゲーム世代はごく自然に慣れることができるようです」

2018年、潜水艦USSコロラド艦で電子光学マストの操作に使用されたXboxゲームコントローラー。Photograph: Courtesy of U.S. Navy/Mass Communication Specialist First Class Steven Hoskins

確かに、米軍が特別製のゲーム型コントローラーを採用していることに違和感は無いかもしれない。各軍は長らく新しいシステムに市販のコントローラーを試してきた。陸軍と海兵隊は10年以上、地上の爆発物処理目的の小型無人車両からドローンまで動かすのにXboxコントローラーを使ってきた。大型のものではM1075パレット化ローディングシステム後方支援車両まで。伝統的な潜望鏡に代えて新しいバージニア級潜水艦で「電子光学マスト」を導入した海軍も、安価なXboxコントローラーを使っている。さらに海軍は、戦場での損傷からドックでのメンテナンスまであらゆる局面で水上艦に使える多機能自動修繕システムロボットでもXboxコントローラーを使っている。

国防総省から新規の契約を取り付けたい防衛産業関係者の間でもこの傾向は強まっている。陸軍のP-HEL(パレット化高エネルギーレーザー)システムに使われるBlueHalo社のLOCUSTレーザー兵器システムを見れば、兵士が向かってくるドローンに照準を当てて空から焼き落とすのに使うのはXboxコントローラーだと明確に示してある。これまで開発を試みてきたレーザー兵器と同様に。

「2006年には『HALO』のようなゲームで遊ぶのは軍内で定着していました」。当時iRobotのプロダクトディレクターだったトム・フェルプスは2013年、『Business Insider』に語っていた。iRobotがつくるPackbot爆発物処理ロボットで標準的なXboxコントローラーを採用することについて語っているくだりだ。「ですからわたしたちはこのコンセプトを軍と相談しながら、社会化して標準化しました(中略)。大成功でした。ゲームで育った若い兵士たちは即座に使いこなすことができたのです」

商用ゲームのコントローラーの使用が広がっているのは米軍だけではない。英陸軍の遠隔操作ポラリスMRZR全地形対応車両から、イスラエル・エアロスペースインダストリーのカーメル戦車まで人気は高い。カーメル戦車は、伝統的な戦闘機型ジョイスティックよりも標準的なゲームコントローラーを好む10代のゲーマーからのフィードバックを得て開発された。より最近では、ウクライナ軍がPlayStationのコントローラーとSteam Deckで無人武装ドローンと回転砲塔を操って、侵攻してくるロシア軍に対抗した。

こうしたコントローラーには、少し変わった非軍事の使い方もある。悪名を挙げたのは2023年6月、タイタニック号の探索で壊滅的内爆発を起こした潜水艇「タイタン」で、当時のCBSニュースによると、LogitechのF710コントローラーの一種を使っていたという。

カーメル戦車のコントロールを若い兵士のために最適化することについて、イスラエル軍大佐ウディ・ツァーは2020年ワシントン・ポストの取材にこう答えていた。「若いオペレーターは試す意欲満々で、テクノロジーを恐れなくなっています(中略)。彼らにはごく自然なものなのです。『フォートナイト』で遊ぶのとまったく同じではないけれど、似たようなものです。驚くことに彼らはゲームスキルをすぐに作戦に活かすことができるのです。正直に言うと、こんなに早く実現するとは思っていませんでした」

人間工学にかなう操作性

高度な兵器システムを運用するのに安いゲーム型コントローラーを使うことには、明らかなメリットがある。まず第一に、そのまぁ……コントロールだ。ゲームコントローラーは人間工学にかなっているだけでなく、コントローラーのボタンの集積やジョイスティックには、例えば米軍で広く使われているタッチスクリーンでは得難い触覚的フィードバックがある。これに関して、米海軍は、2017年シンガポール沖でマーレイバーク級の駆逐艦USSジョン・S・マケインと石油タンカーが衝突したときに苦い教訓を得た。事故後、海軍は誘導ミサイル駆逐艦隊全体でブリッジタッチスクリーンを機械式のスロットルに交換した。全米運輸安全委員会の事故報告書が、水兵は「オペレーターに即座に触覚的で戦術的なフィードバックをくれる」スロットルの方を好むと指摘したからだ。

もちろん米兵が“ランブル”機能の付いたXboxコントローラーを動かすわけではないが、FMCUのようなゲーム型コントローラーの触覚的(そして戦術的)メリットは、ダイナミックタッチスクリーンよりもはるかに大きい。そして複数の研究が同じ結論に達している模様だ。

だが、国防総省にとってゲームコントローラーの真の利点は、何といっても軍幹部や防衛産業関係者長らが言うように、一般兵士にとっての親しみやすさだ。エンターテイメントソフトウェア協会(ESA)の年次報告書によると、2024年の時点で1億9060万人以上のアメリカ人(人口の61%と言い換えてもいい)が、ビデオゲームで遊んだことがある。ピュー研究所が5月に出したデータによると、アメリカの10代の85%がゲームをし、41%が毎日プレイする。

では、どのゲームシステムが好まれているのか。ESAの報告書によると、ジェネレーションZとジェネレーションα(アメリカの次の大きな戦争を担わされる運命にある世代)が圧倒的に好むのは、コンソールとそれに付随する特徴的なコントローラーだ。

軍事テクノロジスト、ピーター・W・シンガーに言わせると、国防総省は何十年もの間アメリカ人を馴染みのコントローラーと人間工学で訓練してきたゲーム業界に“ただ乗り”してきた。少なくとも1990年代にPlayStationが細長いグリップを導入して以来ずっと、これがゲームシステムのスタンダードだ。

「ゲーム会社は何百万ドルもかけて、視覚的で直感的ですぐに使いこなせるインターフェイスを開発してきました。そして何年もかけてユーザを米軍のために訓練してきたようなものです」。シンガーは2023年3月のインタビューでこう語った。「こうしたデザインは偶然の産物ではありません。ゲーム業界が引き寄せたい若者は、軍が狙うのと同じ集団……そして基本的に訓練は終わっているのです」

現時点で正確にどのくらい米軍のシステムがFMCUを使っているのかはわからない。国防総省にコメントを求めたところ、NMESIS、M-SHORADとRADBOの兵器プラットフォームで使われているとし、詳しくは各軍に問い合わせるようにとの返事だった。空軍はRADBOでの使用を認め、海兵隊はGBOSSでの使用を確認している(なお、海兵隊はその後、NMESISではFMCUを使用していないことを明確にした)。海軍は現在はFMCUを使っていないと回答。陸軍は返事をしなかった。

FMCUと市販版コントローラーがどのぐらい米軍に広がっていくのかはまだわからない。だが、人間のインプットを効率よく機械の動作に変換する制御装置は導入から何十年もの間続く傾向がある。結局、ジョイスティックは、導入されて以来、軍の航空部門で定着した。次の大きな戦争が始まるまでに、国防総省が任天堂のパワーグローブに心を移していないことを祈るばかりだ。

(Originally published on wired.com, translated by Akiko Kusaoi, edited by Mamiko Nakano)

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