MITが開発:体にフィットする次世代宇宙服「BioSuit」

マサチューセッツ工科大学の研究者が、スーパーヒーローが着用するような宇宙服の開発を進めている。動きやすいだけでなく、スーツに傷が付いたときなどの安全性も高いという。
MITが開発:体にフィットする次世代宇宙服「BioSuit」
MITのデイヴァ・ニューマン教授は注目のファッションデザイナーだが、彼女の作品はレッド・カーペットには登場しない。レッド・プラネットに宇宙飛行士たちが足を踏み入れるとき、きっと彼らはこの服に身を包んでいることだろう。Photo: Dava Newman

現在の宇宙飛行士が装着する宇宙服は、かさばって作業がしづらいうえ、そのデザインも、大人用おむつのように魅力がない。また、船外活動ユニット(EMU)という名称もパッとしない。

こうした状況を変えようとするのが、マサチューセッツ工科大学のデイヴァ・ニューマン教授が開発を進める「BioSuit」だ。スーパーヒーローのスーツにちょっと似ているが、体にびったりとフィットさせるための「数学」の成果だ。

これまで行われてきた船外活動の数は、全体で500回強だが、火星有人探査が行われるようになれば、ひとつのミッションで1,000回以上の船外活動が必要になる。また、将来の宇宙飛行士は、エヴェレスト山の3倍の高さがある火星のオリンポス山を登ったりするだろう。そのためには、着脱が簡単で、動きも自由であり、長いミッションでも快適なスーツが必要なのだ。

「以前、NASAの管理者が、『宇宙服を着ていて、男性か女性かを見分けられるのはいいことだ』と言っていた。わたしもその通りだと思う」とニューマンは言う。Photo: Marla Aufmuth

人間の体が、宇宙空間の真空を生き延びるには圧力が必要だ。EMUは、ジェット機の機内のミニ版のような加圧容器を作ることでこれを解決している。それに対してBioSuitは、全身を覆う半剛体のうねを採用することで、十分な可動域を維持しながら、逆方向の圧力を機械的にかけている。

生命を維持する圧力のためには、膨大な長さのうねが必要だ。うねはスーツの重要な歪みポイントを通りつつ、140,000針以上の縫い目で留められている。金の繊維も織り込まれており、管制センターがクルーの状態を把握するデータ収集のためのバイオメトリクス・センサーと組み合わせる。

BioSuitはEMUより安全性が高い、とニューマンは述べる。EMUの場合、微小隕石や宇宙ゴミが貫通したりすると、急速に圧力が下がり、なすすべがない。しかしBioSuitなら、次世代のダクトテープで修繕できる可能性があるからだ。

うねはスーツの重要な歪みポイントを通りつつ、140,000針以上の縫い目で留められている。Photo: Dava Newman
「3Dプリンティングのいいところは、デザインプロセスの初期のコンセプト作りに使えることです。むかしのように、完成されたデザインを出力するためだけではなくて」とニューマンは述べる。Photo: Dava Newman

BioSuitは、既存のさまざまなアイデアをベースにしつつ、形状記憶合金や、受動性弾性力をもつ素材、エレクトロスピニング法によるナノ繊維など、現代的な諸技術が活用されている。

ニューマンのチームはこのスーツの開発にあたって、宇宙飛行士たちの意見を聞きつつ、人間の動きを完全にシミュレートできるロボットも開発した。適切なフィットの追求に必要な、無数に繰り返される不快な「突っつき」に耐えてくれるロボットだ。

また、実地テストとしては、ネヴァダ州にある米空軍基地「エリア51」近くの荒れた土地を、BioSuitを装着した状態で探索した。

「宇宙探索は、いまもっともエキサイティングなことで、ヒーローのような宇宙服によって、もっと世間に注目されるきっかけをつくりたい」とニューマンは語る。Photo: Marla Aufmuth

ニューマンは、BioSuitを、単に機能的なだけでなく魅力的なものにもするために、オートバイやエクストリームスポーツ向けの高性能ウェアを手がけるイタリアのDainese社や、ロードアイランド造形大学の学生グループと、デザイン面での提携を模索してきた。

スーツの機械的な側面に関する作業は大部分が完了しているが、宇宙空間の過酷な真空の中でテストするには、生命維持システムの統合をさらに進める必要があり、そのためには多額の資金調達が必要だ。過去にはNASAがこの研究に資金を提供したが、Virgin Galactic社やジェフ・ベゾス氏のBlue Origin社も、自社の客室係のためにクールなスーツが欲しいのではないだろうか?

なお、BioSuit開発に伴う革新的な技術の一部は、脳性小児麻痺の子どもや、深刻なバランス障害のある高齢者向けに応用されている。

Photo: Dava Newman

TEXT BY JOSEPH FLAHERTY

TRANSLATION BY RYO OGATA, HIROKO GOHARA/GALILEO