○漁民の怒りが押し返す「水産特区」構想/「撤回」へさらなるたたかいを
今日のしんぶん赤旗の論説と、参考になると思ったインタビューを引用しておきます。
2011年8月21日(日)「しんぶん赤旗」
漁民の怒りが押し返す
宮城県震災復興計画最終案
水産特区「創設」明記できず
「撤回」へさらなるたたかいを宮城県震災復興計画最終案(17日決定)は、最大の焦点だった「水産業復興特区」を「検討課題」にとどめ、特区「創設」の明記は見送られました。
これは、沿岸漁業秩序を破壊する「特区」構想への地元漁業者らの厳しい批判とたたかいが、県の強硬姿勢を押し返したものです。最終案は一方で、「検討課題」として導入の余地を残しました。県の漁業振興課は「浜によっては『特区』受け入れの可能性はある」としています。漁業者の分断、切り崩しの意図を隠しておらず、「撤回」へさらなるたたかいが求められる状況となっています。
相談もなく
同「特区」案については村井嘉浩知事が、地元漁協に何らの相談もないまま5月段階から政府方針に取り入れるよう強く主張。政府の復興構想会議の「提言」(6月25日)にも、政府の「復興基本方針」(7月29日)にも、「地元漁業者が主体の法人が漁協に劣後しないで漁業権を取得できる特区制度」と明記されました。復興構想会議「提言」に「特区」が盛り込まれたとき村井知事は「満足だ」と語りました。
宮城県漁協は、1万4千人分の反対署名を村井知事に手渡し、「浜に混乱と対立を引きおこす」「復興への意欲、希望を打ち砕くもの」(6月21日)と厳しく撤回を申し入れました。全漁連も7月6日の集会で「反対決議」をあげました。
同集会であいさつした日本共産党の志位和夫委員長は、浜の絆と秩序を破壊する特区反対のたたかいに固くスクラムを組む決意を表明しました。宮城では震災復旧・復興支援県民センターや県革新懇が、県漁協の代表を招いて「特区」問題での学習集会を開くなど、漁業者と市民の連帯を広げてきました。
しかし村井知事は、「(漁協から)反対の要望書も寄せられた。しかし、県の水産業における将来的な繁栄を考えれば、ここも一方的に譲るべきではない」(雑誌『Voice』8月号)と、漁業者の反発を無視する姿勢を示していました。
構想の本質
漁業者の怒りは、同構想の本質に向けられています。
漁協中心の沿岸秩序は歴史的に形成されてきました。養殖、定置網、共同漁業が重層的に広がり、相互に連関する沿岸漁業で、権利調整、環境や資源の保全を総合的に管理するには漁協を中心にする以外にないのです。
民間企業に漁業権を開放する「特区」は、その秩序を無視して民間資本の「自由」な活動を認めよというもので、そもそも「復興政策」ではありません。財界勢力がかねて主張してきた「構造改革」や規制緩和要求を、被災した漁業者の窮状に乗じて実現しようというのは、"火事場泥棒"と同じ主張です。
国と県が財源も含め具体的な復旧支援策を示さないもとで、一日も早く漁に出たいために民間資本の活用を考え、悩む漁業者の多くも「特区」に反対しています。「特区」構想を撤回し、がれき撤去、船の修理、港湾や養殖施設の整備など、真の復旧策を急ぐことこそ求められています。
(中祖寅一)
2011年7月5日(火)「しんぶん赤旗」
「水産特区」識者に聞く
漁業権金持ち買い占め東大社会科学研究所教授・加瀬 和俊さん
大震災被災地での漁業復興をめぐり、民間企業に対し沿岸域の漁業権を「開放」する「水産復興特区」が争点になっています。その問題点について、加瀬和俊・東大社会科学研究所教授に聞きました。
経済同友会は「漁業権の証券化」を主張して、漁業を営む権利を売買する仕組みを提言しています。日本経団連系のシンクタンク・日本経済調査協議会(日経調)は、個々の漁業者に割り当てられた漁獲量の権利を売買する仕組みを提案しています(ITQ制度)。
これらの提言は新しい主張などではなく、戦前に戻ろうとする古めかしいものです。戦前、沿岸での漁業権は借金の担保にもなり、売買もされました。免許の方針が資本の所有者を重視していたので、経営的に有利な漁業権は地主などの金持ちが独占し、漁業者はその漁業を操業できないか、漁業権保有者に安い貨金で履われるほかありませんでした。
この状況は、戦後漁業法によって打破されました。地元の海で実際に働いている漁業者を組合員とする漁協が優先して漁業権を免許され、組合員がその漁業権を行使できることになったのです。金持ちの漁業権買い占めを防ぐため、漁業権の貨付・売買が禁
止されました。日経調の「提言」は、外国人を含めた「投資者」などの利益を重視することが、漁業復興につながると主張しています。もうかる漁業権を金持ちが買い集められる仕組みに変えるものであり、戦前の状態に戻すという主張です。
彼らが具体的に期待しているのは、定置網漁業と養殖業だと思います。外部の企業は、資本規模の大きい企業の方が適切だとして漁協に優越して免許を受けたい。「特区」制度でまず被災地でそれをできるようにし、次いで全国化しようという計画でしょう。
また、外部企業が漁業権を受けると海が売られる危険性が強くなります。原発をつくったり、基地や空港を海に拡張するためには周辺海域の漁業権を消滅させなければなりませんが、専業的な漁業者はこれに強く反対します。一生働くつもりの漁場がなくなってしまうから当然です。
このため日本の原発はどれも建設前に漁業者・漁協との交渉に長い期闘をかけています。これに対して大企業1社が「証券化」した漁業権を買い集めてしまえば、原発企業にこれを高く売って撤退するりことはすぐにできます。定置網や養殖業の権利をもっていても電力会社はそれよりはるかに高い値段で漁業権証券を買ってくれるでしょうから、外部の企業は確実にもうかるでしょう。
つまり外部企業が本当に漁業をすれば沿岸漁業者の権利がそれだけ失われますし、漁業をやらないで海を売るとすれば、沿岸漁業そのものがその地域からなくなるということになってしまうのです。
(聞き手 中祖寅一)
2011年7月7日(木)「しんぶん赤旗」
「水産特区」識者に聞く
漁協管理は"先人の知恵"北海道大学名誉教授・廣吉 勝治さん
三陸の漁業復興をめぐって「水産業復興特区」構想が争点になり、"沿岸秩序"を重んじる漁業者が猛反発しています。その理由について聞きました。
震災を機に「漁業権開放」の問題が出てきました。「民間企業への開放」を強く主張する村井嘉浩・宮城県知事は、沿岸の漁業権制度が、長い歴史のなかで漁業者が"血肉"にしてきたものだということを理解しているのか、疑問です。
スペースが限られた沿岸漁場は、全国的に平均すれば海岸から数マイル程度の範囲です。生きた自然が相手の漁業で、持続的に資源を管理・保全し、再生産を確保するには、好き勝手な利用を許さず、地域の自然特性や秩序を踏まえた、手間ひまのかかる丁寧な対応が必要です。
それには漁業者集団を代表する漁協の「自治」管理が、合理的かつ効果的です。これは江戸、明治期をも通じて営々と横み上げられてきた"先人の知恵"が、今日にまで到った制度だと思います。
沿岸の漁業権は基本的に「共同漁業」、「区画漁業」、「定置漁業」の3種類あります。このうち、「共同漁業権」と「区画漁業権」のなかの「特定区画漁業権」は「組合管理漁業権」と呼ばれ、漁協が共同して資源・漁場を管理・保全しながら利用するものとして、もっぱら漁協に免許することになっています。
三陸で言えば、カキの垂直式養殖業や、ワカメの藻類養殖業などが「特定管理漁業権」の一例として有名です。漁協の管理・調整を前提にして、組合員個々が海面を区分して利用しあっています。
いずれも漁協は自らは営まず「漁業権行使規則」というルールを策定し、組合員個々に営ませることを想定しています。漁業権者は、漁具や漁法、漁期や漁の時間、漁獲量の上限、稚貝や稚魚を取り尽くさないように魚体のサイズ規程など、各種の義務付けを課されています。
こうした"沿岸秩序"を認めない形で、地元漁業者・漁協と対立し、それを助長するかのように民間企業が参入するのでは、漁業者が怒るのは当然です。野放図な漁業で、資源はいっぺんに根絶やしにされ、生産と再生産が根底から破壊される要因をつくってしまいかねません。
村井知事はそれを崩すというならば、別の実効性ある資源の管理と保全の新しい仕組みを示す義務がありますが、まったく示そうとしていません。
(聞き手 竹原東吾)
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