「誰かなんとかしてク~ダサ~イ!」というフレーズで一斉を風靡したセカチュー。
まあ、世間一般ではやたら支持されまくったわけで、 一躍泣ける小説、映画ブームを引き起こしたのも 記憶に新しいところじゃないでしょうか。 でまあこの泣けるブームというものを 苦々しく見ていたのが、われわれオタク連中というわけで、 やれ「泣けるだけで内容がない」だの やれ「人が死んで悲しいのは当たり前じゃないか」だの やれ「そんなに泣きたきゃ、泣きゲーやれよ!」 といったメジャーものに対する嫉妬と怨念をたぎらせて、 セカチューブームの台風一過を待っていたわけです。 さて、話は変わって今回紹介する漫画は 「ぼくらの」 鬼頭莫宏 この春よりTVアニメもスタートした、「IKKI」連載のSFコミックであります。 ストーリーは、夏休みの自然教室で海に行った中学生14人の男女が、 海岸の洞窟内にある不思議な施設を見つけたところから始まります。 そこで、ココペリという謎の男から「ゲーム」しようともちかけられ、 巨大ロボットに乗り込み、謎の怪物らしき存在と戦うという契約をします。 なんとか勝利を収める少年たち。 しかし、彼らは明らかにされていない恐ろしい契約を知ることになります…。 この漫画、読めば分かるんですが、 とにかく絶望感と陰鬱な雰囲気に包まれています。 というのも、先述の契約内容。 これが 「ロボット”ジアース”のパイロットはランダムで持ち回り」 「一度先頭を終えると、パイロットになった少年は死ぬ」 「敵に勝つと地球は助かるが、負けたり48時間以内に決着がつかないと、 地球は滅亡する」 というもので、 生き残るために、強制的に自己犠牲を強いられるという状況に13~14歳の 少年少女が向き合わなくてはならないのです。 次のパイロットに選ばれた彼らは、望むと望まざると 残り少ない日常を過ごし、 「生きる意味、死ぬ意味」を考え 「これまでの人生」を振り返ることになるのです。 そして、「自分が誰のために戦うのか。何のために戦うのか」を知っていきます。 もちろん、素直に状況を受け入れられず最後まであがき まともに戦えない少年もいますが、 戦おうが、戦うまいが平等に死は彼らに訪れるのです。 日常と極限状況を違和感なく、隣り合わせに描く本作は もはやSF、ロボットものというジャンルを超えて、 人間ドラマとして圧倒的なスケールで読者の胸に迫ってきます。 ちなみに、この「ぼくらの」という漫画はIKKIで連載されていると最初に書きましたが、 皆さんは「イキガミ」という漫画をご存知でしょうか。 こちらはヤングサンデーで連載中の、これまた話題の漫画として 人気が急上昇中の作品。 内容は、 「若者に命の価値を気づかせることで国を豊かにするという「国家繁栄維持法」。 日本政府は1000分の1の確立で若者に死を宣告し、 宣告された者は残りの24時間をどう生きるか」 というドラマを描くものです。 やや乱暴ながらエッセンスを抽出すると、 「ぼくらの」も「イキガミ」も 「強制的に死を意識させられる状況になった人間がどう生きるか」 を描いたものといえます。 そしてこれは、とりもなおさず「世界の中心で愛をさけぶ」と 同じ物語構造を持っているということになります。 そして、これらの作品を発行しているのが 小学館ということです。 ソースなしの推測に過ぎないのですが、 おそらく小学館は「セカチュー」ではなく、その中身である 「死に向かう人間のドラマ」が「普遍的なフォーマット」として 非常に有効だと再発見したのではないでしょうか。 一般層には「セカチュー」原作、映像化云々でアピールし、 ドラマなんか見ない男性に対しては「イキガミ」でアピールし、 我々のようなすれたオタクには「ぼくらの」でアピール。 うまいですね。 っつうか、アレですな。 オタクって、美少女とロボットが出てればOKなのか! 普通作品を作る側としては、「人が死ぬドラマ」なんて明らかに悲しませようとする 作り手の手の内が見え見えで、とりあえずお手軽なドラマを作りたいときに使う、 インスタントなものという程度の印象なんですが、 悪いのは「人が死ぬドラマ」をキーワードにどういう味付けをするか、 というブレーンストーミングを放棄した人間だということでしょうか。 マーケティングを生かし、なおかつそれを元に、 幅広くアピールできる企画力は、素直に見習いたいと思います。 でも、実際大変なんだよな~。 「○○が売れたからこんな感じで~」と言いがちなので、 もっと企画力を養っていきたいもんです。
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暖冬暖冬といわれてますが、妙に寒い今日この頃。
先日は伊豆大島で「幻の初雪」が降ったみたいですし、 都心でもちらほらと粉雪が待っていましたしね。 とりあえず 「こなああああああああああゆきいいいいいいいいいいいねえ」 と歌っておきました。 まあ、そこしか知らないんですけどね。 えーと、歌ってたの誰でしたっけ。 で、今日紹介するのは 『傭兵ピエール』原作:佐藤賢一、漫画:野口賢 です。 ええ、冬とかまったく関係ないんですけどね。 この作品はつい先日までウルトラジャンプで連載されていた 漫画で、歴史上の人物・ジャンヌ・ダルクが活躍した時代を 扱った大河コミックです。 舞台は15世紀の百年戦争真っ只中のフランス。 そこで傭兵団のボスを勤める傭兵・ピエールが主人公です。 彼は戦場で見つけたある少女を、当然のごとく陵辱しようとします。 しかし、その少女は「神から与えられた使命を果たせたら、処女をくれてやる」と言い、ピエールはなぜか見逃すのです。 そう、その少女こそがジャンヌ・ダルクその人だったのです。 運命的な出会いから数年、ピエールはジャンヌと再会します。 しかし、ジャンヌはかつてのか弱い少女ではなく、 鎧を着た聖女として扱われているのでした…。 この作品において、主人公はあくまでもジャンヌの傍にいる 一様兵であるピエールです。 ゆえに聖女ジャンヌの心情や内面は描かれることはありません。 しかし、徐々に「聖女」としての重圧につぶされ、 「少女」に戻っていくジャンヌの姿は ピエールを通してどこまでも鮮やかに描かれています。 その描かれようは、男の視点を通し、どこまでも女としてジャンヌは 作中に立ち現れてきます。 その様はどこまでもエロティックで、ストイック。 力強く、そしてそれゆえにいつ折れてもおかしくないほど儚げ。 一見矛盾している「女」ジャンヌ・ダルクの姿は、 他のジャンヌダルク作品になはい、 この作品ならではの見所だと思います。 また、この作品は、 徹底的にリアルに描写される中世ヨーロッパ世界を舞台に 描かれています。 その方向性としては、 リュック・ベッソンの映画『ジャンヌ・ダルク』や、 幸村誠『ヴィンランドサガ』と似たものとなっています。 傭兵は農民をごみのように殺し、陵辱し、略奪します。 戦争はどこか牧歌的であり、凄惨な様相を呈します。 これだけでも歴史もの好きにはたまらない魅力かと思います。 ただ、この漫画ならではの魅力というと、 野口賢の描く、 「エロ」「グロ」「バイオレンス」描写にあるといえるでしょう。 この野口賢という漫画家。 週刊少年ジャンプ連載時から、やたら肉感的なセクシー美人剣士を書いたり、 前作『KUROZUKA』でも、ボイーンなお姉ちゃんが大股開きで アクロバティックなアクションを見せたり、 その美女の腕やら足がぶっ飛んだりと、 リビドー方面に突き抜けた描写がやたらと 上手な作家だったりするのです。 そんな作家がリアルな中世ヨーロッパの戦争を描くってんだから、 そりゃもうリョナ寸前のアレげな描写がポンポン出ます。 (童顔美少女が真っ黒こげになる、 みたいなアレなシーンはさすがに目が点でした) とはいえ、どこかしら愛嬌のある氏の画風のおかげで ただのエログロにならないという、非常に奇跡的なバランスで 成立している作品だといえます。 大河歴史コミック好きも、エログロバイオレンス好きも 大満足の本作。 漫画読みならぜひ一度は読んどいて損はない佳作といえます。 個人的には大満足な本作。 今日は85点!
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