原発のコストが火力発電より高くなったので色々と小細工したでござるの巻
政府は昨年12月に電源別のコストを検証した報告書を作成した。
コスト等検証委員会報告書(平成23年12月19日)
政府は2004年に試算したコストに「聖域なき検証」をしたと言っているが、実際は原発のコストが最も安くなるように様々な細工(トリック)が施された「聖域だらけの検証」となっている。
まずは、日本の主要電源である原子力、石炭火力、LNG火力について報告書が試算したコストをご覧いただこう。
<2030年時点のコスト(カッコ内は2004年試算時のコスト)>
原子力発電 8.9円以上/kwh(5.7円/kwh)
石炭火力発電 10.3~10.6円/kwh(5.9円/kwh)
LNG火力発電 10.9~11.4円/kwh(6.2円/kwh)
「聖域なき検証」をしたにも関わらず、2004年試算時と同様に原発のコストが最も安くなっているのがわかる。
「聖域なき検証」でこれまで無視してきたコストの一部を原子力発電のコストに上乗せしたことによって、原発のコストが8.9円以上となってしまったが、それでは火力発電よりコストが高くなってしまうので、政府を牛耳る原子力ムラは様々な涙ぐましい努力により火力発電のコストを引き上げたのだ。
以下では、原子力ムラが使ったトリックとウソの一部を紹介しよう。
①CO2対策費用のウソ
2004年試算時にはなかったCO2対策費用(化石燃料を利用した火力発電に関しては環境対策費用)を追加することで火力発電のコストを大幅に引き上げている。
火力発電はCO2をたくさん出すので、火力発電にCO2の排出量に応じた税金等をかけるべきではないかという議論は確かにある。しかし、まだ検討の段階であり、実際にCO2対策費用を徴収している国はない。CO2対策費用をコスト計算にいれるのがグローバルスタンダードかというと、そういうわけでもない。
CO2対策費用を除いたコストは以下の通り。
<CO2対策費用を除いたコスト(カッコ内はCO2対策費用)>
原子力発電 8.9円以上/kwh
石炭火力発電 7.3~7.6円/kwh(3.0円/kwh)
LNG火力発電 9.6~10.1円/kwh(1.3円/kwh)
原子力発電のコストが石炭火力発電より高くなってしまうと都合が悪いので、まだ国民的レベルで議論すらされていないCO2対策費用をこれでもかと大胆に盛り込むことにしたのだ。
②運転維持費及び資本費トリック
発電コストの内訳には「運転維持費」「資本費」がある。2030年のコスト試算にあたっては、2010年時点のコストをベースに推計をしているのだが、ここで原子力を安く見せるトリックが使われている。
原発の「運転維持費」「資本費」は2030年でも2010年時点と変わらないという試算をする一方、石炭火力発電の「運転維持費」「資本費」は2030年には大幅に増加するという試算をしているのだ。年々発電所の安全基準等が厳しくなり「運転維持費」「資本費」が増加する傾向にあるのは確かであろう。しかし、それは原子力発電も例外ではないはずだ。
このようなトリックがあると正当な比較ができないため、「運転維持費」「資本費」は2010年時点の数字を使って比較することにする。
<運転維持費及び資本費トリックを是正したコスト(カッコ内は是正前に上乗せされていたコスト)>
原子力発電 8.9円以上/kwh
石炭火力発電 6.6~6.9円/kwh(0.7円/kwh)
LNG火力発電 9.6~10.1円/kwh
ちなみに、原発のコストには福島の事故を受けた追加的安全対策コストが0.2円/kwh入っているのだが、石炭火力発電の「運転維持費」「資本費」増加分の0.7円/kwhに比べるとわずかなものである。
このように、ウソやトリックを是正すると原発のコストは石炭火力よりかなり大きいし、LNG火力とはそう変わらないことがわかる。
コスト検証のトリックとウソはこれだけではない。
③廃炉費用のウソ
原子力発電所は通常の発電所に比べて使用しなくなった発電所の処分が難しい。発電所自体が放射性廃棄物になるためだ。
試算では廃炉費用を680億円としている(原発コストの資本費2.5円/kwhに含まれている)が、これまでに廃炉の実績がないため本当に680億円で済むかどうかはわからない。
ちなみに、事故を起こした福島第一原発では廃炉費用として既に計上した費用だけで1兆2000億円を見積もっている。1号機から4号機まであるので1基当たり3000億円である。福島の廃炉費用は今後も膨らむ可能性がある。
そのような現実を考えると、正常に廃炉する場合でも、当初の見積もりよりも桁違いの廃炉費用がかかるのではないか。廃炉費用は実際より相当安く計算されている可能性がある。
④使用済み燃料処分費用のウソ
原発でやっかいな問題のひとつが使用済み燃料をどう処分するかである。試算では使用済み燃料は直接処分ではなく全量再処理をするという計算を行っている。(原発コストの核燃料サイクル費用1.4円/kwhに含まれている)
直接処分であろうが再処理であろうが、実は日本はこれまでに使用済み燃料を実際に処分した経験がない。そのため、試算のコストはあくまで推計でしかない。六カ所の再処理工場の建設費用が当初の予定費用を大きく上回っていることに象徴されるように、この試算のコストは後から2倍増、3倍増とどんどん大きくなっていく可能性が高い。
原子力ムラが都合の良い推計で出した下限値と思っておいた方が良いだろう。
⑤事故リスクへの対応費用トリック
今回の試算から新たに事故リスクへの対応費用(0.5円以上/kwh)が原発コストに追加された。
福島の事故で明らかになったように、原発は過酷な事故が起こった場合の補償額がとてつもなく大きくなる。そのため、事故に備えて一定の保険料を積み立てる必要がある。その保険料に相当する費用が事故リスクへの対応費用である。
しかし、この0.5円という数字はもっと大きくなる可能性がある。
まず、検証委員会が認めている通り、福島の事故の賠償費用は確定しておらず、1兆円賠償額が増えれば0.1円/kwh費用が上がるとしている。
また、賠償額を5兆円と借り置きして事故リスクへの対応費用を0.5円以上/kwhと計算しているが、事故リスクをどうみるか、リスクプレミアムをどうみるかによって変わってくる。実際に、その程度の保険料で引き受けてもらえるかどうかはよくわからない。原子力ムラによる都合の良い試算である可能性は否定できない。
⑥政策経費のウソ
今回の試算から新たに政策経費(1.1円/kwh)が原発コストに追加された。これは原子力発電に関わる税金投入を原発コストに入れるべきという意見を踏まえたものである。
これまでの試算ではこうした費用が無視されていたことは驚きであるが、今回もコストに追加したとはいえ、政策経費の一部を追加したに過ぎない。
政策経費の約半分をしめるのは研究費用であるが、項目名を見ると「将来発電技術開発」となっている。原発研究に不可欠な処理・処分に係る研究費用は発電には直接関係ないという理由で入っていないのだ。原子力ムラによるこの小細工は、検証委員会の委員も気づかなかったようで、コストが少なく計算されることになった。
政策経費の約半分をしめ研究経費に次いで大きいのは立地費用である。これは、迷惑施設である原発施設を受け入れた自治体に政府が支払っている立地交付金などの費用のことである。
試算では現在の支払い実績を積み上げて計算しているのだが、将来はさらに大きくなる可能性が大きい。なぜなら、使用済み燃料が増える将来、使用済み燃料の処分施設や中間貯蔵施設を新たに建設する必要が出てくるからだ。そうした核のゴミを引き受ける施設に対する立地費用がいかほどになるのか、まだ実績がないからわからないが、地元に大きな雇用をもたらす発電施設以上に立地費用がかかるのは間違いないだろう。
以上、コスト検証のウソとトリックを紹介してきた。そこからみえてくるのは、火力発電では不確定なコストを算入している一方、原発に関しては不確定でよくわからないコストは参入しないという一貫した姿勢である。
「聖域なきコスト検証」どころか「聖域だらけのコスト検証」である。
今一度、コスト等検証委員会がとりまとめたコストをご覧いただこう。
<2030年時点のコスト>
原子力発電 8.9円以上/kwh
石炭火力発電 10.3~10.6円/kwh
LNG火力発電 10.9~11.4円/kwh
「原発って一番コストが安いんだね!」、、、って誰が思うか。もはや都市伝説並みのうさんくささが満載です。
「信じるか、信じないかはあなた次第です。」
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