自衛隊による防疫活動
先日の記事「豚インフルのパンデミックに自衛隊の出番は?」に対して、さむざむ。氏から今年の予算からパンデミック対応関連予算が消えた内情などについてコメントを頂きました。
コメントで返すことが本来でしょうが、内容が深くなるので、記事にすることにしました。
頂いたコメントの細部については、先日の記事をご覧下さい。
自衛隊が防疫活動を含む災害派遣を実施するにあたっては、「災害派遣の3要件」と言われるものを満たしている必要があります。
この災害派遣の3要件とは、「公共性」「非代替性」「緊急性」の3つです。
この内で、「非代替性」以外はなんとなく理解できるでしょう。「非代替性」とは、平たく言えば「他に有効な手段がない」という事です。
例を挙げると、行方不明者が出た場合、まずは警察が対処すべき事なので、警察が余力がある状態では非代替性も満たしていないということになります。
なんとなく災害派遣できそうですが、この「非代替性」を満たしていないということから災害派遣が行われていない例としては、移植用臓器の輸送なんかもあります。この場合、民間機のチャーターなどにより迅速に輸送する手段がないとは言えないため、災害派遣はできないという訳です。
縁あって、災害派遣の担当者となったことが何度かありましたが、実際に派遣の打診を受けながら、この3要件を満たしていないことから断ったケースもありました。
伝聞として聞いた話も含め、派遣の打診を断ったケースでは、やはり自治体等の担当者が、この「非代替性」を十分理解していないと思える事が多数でした。
さて、なぜこの3要件について書いたかと言うと、今年度予算の概算要求に載っていた予算項目「新型インフルエンザのパンデミック対応」が、実際の予算案から落とされた理由が、この「非代替性」に問題があったからだ、というお話だったからです。
「防疫」は本来厚生労働省の仕事で、厚生労働省関係の機関に同様の予算を付けるより先に防衛省に予算をつける事はおかしい、ということでしょう。
ただし、これは理由というより、建前のようです。要は、厚生労働省が自分の領分を防衛省に犯されることを懸念した、というところにあるようです。
私の考えとしては、防衛省が「非代替性」に問題があるからと言って、この新たな予算項目を削る必要はないと思っています。
というのも、以前は災害派遣は自衛隊の「本来任務」ではなく、「付随的な業務」でしたが、現在では自衛隊法の改正により「本来任務」の一つとなっているからです。
もともと、災害派遣の実施にあたり、前記の3要件が求められた主旨も、災害派遣が自衛隊の「本来任務」ではなく、「付随的な業務」であり、「本来の任務に支障のない範囲でやれば良い業務」だったからです。
しかし現在では、災害派遣も「本来やるべき仕事」となっています。当然、必要な投資は行ってしかるべきモノです。防疫に関しては、主担当が厚生労働省であることは疑うべくもないですが、防衛省・自衛隊も関与してゆく根拠(自衛隊法改正による災害派遣の本来任務化)は出来ていると思うのです。
災害派遣の3要件が、派遣に当たって求められなくなったという話は聞きません。ですが、主旨を考えれば厳密に3要件を満たしている必要はなくなったはずです。
実際に、3要件を厳密に適用しないことは、災害派遣が本来任務とされる以前から流れとして定着している感がありました。
これは、地域との関係を重視する陸自に顕著で、私が現役自衛官だった頃にも「ホントにコレを受けたのか?」と思うような災害派遣要請を受け(基本的に事前に打診があり、派遣を受けるとなった時に、初めて派遣要請が出される場合が普通)、派遣している事が良くありました。
この流れのエポックとしては、雲仙普賢岳における災害派遣があります。雲仙での災害派遣では、消防の活動が限界とは言えない状況で、つまり「非代替性」が怪しい状況で災害派遣が実施されています。
この件については、「自衛隊の災害派遣について知ることのできるページ」様のコチラ のページを覗いて見てください。
この雲仙のケースに限らず、実際に3要件が怪しい状況で災害派遣を行っている訳ですから、自衛隊が災害派遣として防疫を行う装備を買っても建前上でも問題ないはずです。
問題は、政府が行う防疫活動の内、自衛隊がどのあたりを行うか、という点かもしれません。
この辺は、「災害派遣なんか自衛隊の仕事ではない」という意見の方もおりますし、汚れ仕事ばかり押し付けられるケースが多いことから、異論も多いと思いますが、私は汚れ仕事(感染した家畜の処分など)をも主体となって動くつもりで良いと思っています。
検知や指揮は厚生労働省所轄の機関が行い、消毒薬の散布などを含めて自衛隊が行うという分担で良いのではないでしょうか。
交通統制などによる汚染地域の封鎖などは、アメリカでは軍が行いますが、日本の場合は市民が銃を持ち出してくることはありませんし、一般市民に対して強圧的になることに慣れている警察が行った方がスムーズなような気がします。
ただし、自衛官が汚染地域に入ることになる訳ですから、装備も抗ウイルスマスクやディスポーザブル防護衣程度ではなく、空気呼吸器を供えた完全気密型の防護衣を備え、教育訓練についても十分に行っておく必要があるでしょう。
そして、そこまで行っておけば、炭疽菌などの生物兵器による攻撃やテロが行われても対処できるはずです。
とりあえず装備がないと出来ることは限られてしまいます。
来年(22年度)は、買いましょう。
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1 ■無題
失礼します。
汚れ仕事(感染した家畜の処分など)
以前、鳥インフルエンザ関連の事案で、活動した陸自隊員にPTSDが続発したので(家畜を処分するのも楽じゃない)、あの任務は結構後味が悪いですね・・・・自衛隊のメンタルヘルス関係者の間でも参考事案として語られています・・・・・
仕事ですが・・・隊員のメンタル面も細心注意が必要のようです。
投稿: 海族 | 2009年5月10日 (日) 23時09分
2 ■PTSDとメンタルヘルス
鳥インフルエンザの時の災害派遣ですが、あんな装備で行かせたのでは、PTSDも尤もかと思います。
実際に活動した隊員もきつかったでしょうし、命じた指揮官も不安だったでしょうね。
自衛官がPTSDを発症した他の事例としては、御巣鷹山が有名でしたが、目に見えない恐怖に対しては確かにメンタルヘルスも重要でしょうね。
自殺者が多いのでメンタルヘルスに対する取り組みも大分やっているようですが、おっしゃられるように、これからはこういった任務に際してもメンタルヘルスを気にすべきだと思います。
http://ameblo.jp/kuon-amata/
投稿: 数多久遠 | 2009年5月11日 (月) 00時13分