ちょっと遅れてしまいましたが、今回は「日本海クライシス2012」中で提起している問題点についてまとめてみました。
多少ネタバレになりますので、まだお読みでない方はご注意下さい。
1 MDによるアメリカの安全保障
MDは、日本を弾道ミサイルの脅威から防護するものですが、同時にアメリカを防護するものでもあります。しかも、アメリカの防護を考えた場合、日本の協力は非常に重要です。
個人的に、日米安全保障条約が偏務条約であることには反対で、MDによってアメリカの安全保障に寄与することに、むしろ賛成です。ですが、多くの日本人はそのことを認識していません。MDについての論議は、技術的な可能性とコストばかりが論じられますが、日米両国の安全保障のあり方を含め、もっと本質的な議論が必要です。
「日本海クライシス2012」では、日米両国の安全保障のあり方にフォーカスが行くよう、日本列島がアメリカにとっての不沈イージス艦であることを描きました。
2 北朝鮮による米本土攻撃
映画「1941」や9.11同時多発テロに対するアメリカの反応を見てもわかりますが、ヨーロッパからもアジアからも離れた位置にあるアメリカは、本土が攻撃を受けることに対して、かなりセンシティブです。
北朝鮮が、アメリカ本土を攻撃する能力を持った時、積極策に出るのか、消極策にでるのかは不透明ですが、「日本海クライシス2012」で描いたように、両極端な反応を見せる可能性が十分にあります。その時はいずれやって来ます。その時、日本はどうすべきなのか、論議のネタの一つとして、シミュレーションしました。
3 空自基地の脆弱性
基地の外柵の直ぐ近くまで民家が密集している基地が多いなど、空自基地はゲリコマによる攻撃を想定した場合、不利な環境にある基地が多数あります。また、反撃するための物理的手段、法的権限、付随的被害に対する世論など、全基地共通の問題点も多くあります。
特に、「日本海クライシス2012」で描いたように、基地外から航空作戦能力を無力化することも、一時的であれば不可能ではないと思われます。実態を知り、法的権限など自衛隊の行動についての理解してもらいたいとの思いで描きました。
4 北朝鮮の航空作戦能力に対する評価
ほとんどの保有航空機が旧式機であること、パイロットの訓練が不十分であることから、北朝鮮の航空作戦能力については、非常に見下した評価がほとんどです。
しかしながら、物的にも人的にも質的優位が圧倒的であっても、戦い方次第では致命的な結果にもなりえます。「寡兵敵せず」という言葉がありますが、ある戦術が成り立つためには一定量の戦力が必要です。上記3で指摘した弱点をつかれた場合、防空網が突破される危険性があります。
5 MD実施部隊の運用上の障害
イージスを運用する海上任務部隊、そしてパトリオットを運用する高射群、そのどちらも、保有する兵器を効果的に運用するためには様々な障害があります。この問題点は、多く専門家が認識しているものの、一般にはほとんど認識されていません。
弾道ミサイル迎撃を行う兵器の迎撃確率及びそのコストばかりが論議されますが、MD実施の場合には、イージスやパトリオットに対して相当の支援が必要となること、及び海上交通や航空交通を制限する必要性があることを描きました。
他にも、細かなテーマをいくつも盛り込んでいます。
作者としては、「日本海クライシス2012」が少しでも防衛理解に貢献できれば幸いです。
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