フランク・ペーター・ツィンマーマン ~ イザイ/無伴奏ヴァイオリンソナタ Op.27
2013, 03. 21 (Thu) 18:00
彼が録音したCDはかなり集めてきたけれど、このイザイの《無伴奏ヴァイオリンソナタ集》は長らく未聴のまま。無伴奏というジャンルは、バッハも含めてどうも苦手で、手が出なかったので。
たまたまカヴァコスのディスコグラフィを調べてみると、イザイの無伴奏の全曲録音がある。
ツィンマーマンもこのソナタ集を録音していたのを思い出して調べてみると、ツィンマーマンの録音が素晴らしいというレビューがいくつか。それを読むと聴いてみたくならないほうが不思議。
試聴すると、第1楽章がかなり前衛的な第1番と、<怒りの日>の旋律が全楽章にわたって繰り返される第2番が私には特に面白くて、すぐに購入。
CDで全曲聴いてみると第5番も好きな曲なのがわかって、このCDは意外なくらい面白くてとても満足できた。
ウジェーヌ=オーギュスト・イザイ(1858年-1931年)は、ベルギーのヴィルトオーゾ・ヴァイオリニスト。
作曲もする人で、<知られざる近代の名匠たち>のイザイ作品リストを見ると、ヴァイオリン曲中心に協奏曲や室内楽曲を数十曲残している。
大半の曲は演奏機会が少ないようで、唯一頻繁に演奏されているのが、難曲で有名な6曲の無伴奏ヴァイオリンソナタ。(ヴァイオリン曲は全然詳しくない私でも、名前くらいは知っているくらいに有名)
なぜか日本人ヴァイオリニストの録音も多いけれど、最も有名な全曲録音はクレーメルのVox盤(らしい)。ツィンマーマンの録音も評判がとても良い。
「イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 現代最高峰の奏者による名演 しかし…」[Yoshii9 を最高の音で聴こう!]
ツィンマーマンは、すでに10歳の頃からイザイの無伴奏を弾いているし、「イザイの無伴奏はバッハの無伴奏のためにも練習している」のだそう。
<音盤狂日録>(7月19日付け記事)(第3番のCD聴き比べ)
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集 (2012/08/22) ツィンマーマン(フランク・ペーター) 試聴する |
<無伴奏ヴァイオリン・ソナタ op.27(全6曲)>作品解説[ClassicAir]
第1番 ト短調(ヨーゼフ・シゲティに献呈)
第1楽章: Grave (Lento assai)
第2楽章: Fugato (Molto moderato)
第3楽章: Allegretto poco scherzoso (Amabile)
第4楽章: Finale con brio (Allegro fermo)
6曲のなかでは最も前衛的と言われるらしき第1番。といっても難解さは稀薄で、旋律も結構メロディアス。
(この曲に限らずどの曲も)形式・曲想が自由で、使われている旋律もバリエーション豊富。
単調なところがなく、苦手な無伴奏といっても全く飽きずに聴けてしまう。
最も前衛的なのは第1楽章で、私にはこれが一番面白い。第4楽章も、時々急下降したりぐるぐる眩暈がしそうな回転感を覚える。
第2楽章はバロック風のフーガ、第3楽章はさらにバロック風が強まった優雅な旋律で叙情的。
Eugene Ysaye - Sonata No. 1 in G major
第2番 イ短調(ジャック・ティボーに献呈)
第1楽章:Obsession: Prelude (Poco vivace)
第2楽章:Malinconia(憂鬱) (Poco lento)
第3楽章:Danse des Ombres(亡霊たちの踊り): Sarabande (Lento)
第4楽章:Les Furies(復讐の女神達) (Allegro furioso)
第1楽章冒頭はバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番プレリュードの有名な旋律。
続いて、これも有名なグレゴリオ聖歌の<怒りの日>の旋律。この旋律を聴くといつもリストの《死の舞踏》(Totentanze)を思い出す。
バッハと<怒りの日>の旋律が断片的に繰り返し現れるところは、後年の現代音楽でよく使われるオスティナートやミニマル音楽の先駆けのようにも思える。
<怒りの日>の旋律は、第1楽章の<obsession(執念)>という副題どおり執拗に繰り返されるし、その後の全楽章でも、何度もいろんな形で織り込まれている。
それに、第2楽章以降の副題が、「憂鬱」、「亡霊」、「復讐の女神」ときているし、まるで<obisession>が全楽章に取り憑いているような気がしてくる。
第2楽章は「憂鬱」というよりは、静寂で哀感漂う旋律がとても美しい。最後に<怒りの日>の旋律が静かにゆっくりとフェードアウトするのが印象的。
第3楽章「亡霊たちの踊り」は変奏曲。<怒りの日>が最初はピチカートで現れ、続いてまったりと緩やかな舞曲風、さらにテンポや旋律がコロコロと変化していく。
終楽章は「復讐の女神達」という副題どおり、鋭く厳しい<怒りの日>の旋律で再現され、第1楽章に曲想が似ている。
Eugene Ysaye - Sonata No. 2 in A minor
youtubeで、ツィンマーマン、クレーメル、カヴァコスの第2番第1楽章を聴いてみると、ツィンマーマンの音色が一番まろやかで綺麗に聴こえる。それに、バッハと<怒りの日>の旋律が交互に出てくるときの、間合い(休止)の取り方もちょうど良い感じ。
第3番 ニ短調(ジョルジュ・エネスコに献呈)
6曲中一番有名な曲"Ballade"。冒頭の半音階の旋律は、現代音楽的な妖しく不気味な雰囲気が漂っている。
冒頭から2分後くらいから、調性感も安定したパッショネイトな旋律が現れて、「バラード」らしくなる。
時々、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を連想するようなメロディが出てくる。(気のせいかも)
第4番 ホ短調(フリッツ・クライスラーに献呈)
第1楽章:Allemanda (Lento maestoso)
第2楽章:Sarabande (Quasi lento)
第3楽章: Finale (Presto ma non troppo)
バロック的な形式で、旋律もどことなく古典的で端正な雰囲気がする。
6曲のなかでは、現代音楽的なところが最も稀薄で、叙情的な音楽が好きな人なら聴きやすい曲。
第5番 ト長調(マティウ・クリックボームに献呈)
第1楽章: L'aurore (朝)(Lento assai)
第2楽章: Danse Rustique(民族舞踏)(Allegro giocoso molto moderato)
この曲だけかなり作風が違っている。第1楽章と第2楽章との関連性は薄いような気はするけれど、両方とも好きな曲想。
第1楽章は印象主義の標題音楽風。副題通り、爽やかな「朝」を連想するような曲。
第2楽章は、軽やかで穏やかで、優雅な雰囲気の舞曲。私の好きなブロッホの古典主義風な《コンチェルトグロッソ》に良く似た旋律が出てくる。
第6番 ホ長調(マヌエル・キロガに献呈)
第6番は調性も旋律も調和的で聴きやすいけれど、他の曲に比べると特徴がもう一つ強くないかも。
後半になると、(たぶん)「カルメン」に出てくるようなハバネラ風の旋律が出てくる。
<参考情報>
フランク・ペーター・ツィンマーマン(インタビュー)[日経新聞,2007年4月25日号)[伊熊よし子のブログ]
ツィンマーマンは、以前来日した時に、たしかトッパンホールで、クロイツェルソナタをエンリコ・パーチェのピアノ伴奏で弾いていたはず。
彼らのクロイチェルにはとても興味があって、いつか聴いてみたいと思っている。全集録音してくれたら良いのだけど。