『マリア・ユーディナ名演集』 ~ ブラームス・シューベルトのピアノ作品
2012, 09. 26 (Wed) 09:00
秋となると、聴きたくなるのはやっぱりブラームス。
夏の暑い最中に、ブラームスのピアノ協奏曲第2番ばかり聴いていたので、今はピアノソロを聴きたくなる。
ちょうどユーディナの3枚組BOXセットにブラームスが数曲入っていた。《2つのラプソディ Op.79 第2番》と《後期ピアノ小品集》から9曲。
《ヘンデルバリエーション》と《ピアノ・ソナタ第3番》の録音もあるけれど、このBOXセットに収録されていないのが残念。(Youtubeと「ロシアのユージナのサイト」に音源がある)
ユーディナのブラームスは、期待に違わずユージナらしくてとっても個性的。
ロマン派作品なので、ルバートを多用し、強弱・緩急のコントラストを明瞭につけた起伏の大きいダイナミックな演奏。
いつもなら、感情移入過多気味のブラームスはナルシスティックなので避けるけれど、ユーディナのブラームスは、情緒過剰なセンチメンタリズムとは無縁。きりっとして、意志の強さを感じさせるところが魅力的。
『マリア・ユーディナ名演集~バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、リスト』(3枚組)
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リヒテルは、”ユージナのロマン派の演奏は印象的だが、楽譜通りに弾いていない。もはやショパンやシューベルトというよりも、ユージナそのもの”と評していた。(平均律の演奏については”彼女に比べれば、グールドなんてかわいいものだ”とも言っていた)
一体どんな演奏なんだろう?
ユーディナのブラームスは、速めのテンポをとり、テンポの揺れと強弱のコントラストが激しく、表現がドラマティック。
でも、弱音や細部の繊細さに耽溺することはなく、ナルシスティックでウェットな情緒性・感傷性が全くないのが良いところ。
2つのラプソディ Op.79 第2番
暗い情熱が激しく渦巻くようなタッチで、とてもドラマティック。
この曲を遅いテンポで弾くと足を引きずるように重たくなりがち。ユーディナは全体的に速いテンポで、音もリズムも歯切れ良い。
和音も力感のあるシャープなタッチで、スタッカートでも軽快。和音のスタッカートによる三連符(第10小節~)も切れが良い。
力感・量感のある低音の響きに重みがあり、軽快であっても重厚。音の詰まったパッセージでも、音がさほど混濁せずに音響的にはクリア。
ラプソディ第1番の方が疾風怒濤的だと思っていたけれど、ユージナが第2番を弾くと、第1番と同じくらいに勢いよく疾走している。
ユーディナのテンポは、”ma non troppo Allegro”という速度指定にしては、かなり速い。
楽譜上の細かい指示を無視しているというわけでもなく、テヌートやスタッカート、アクセントは指示通りに弾いているし、ディナーミクもコントラストは明瞭。
極端なのはアゴーギク。テンポの伸縮がかなり大胆。楽譜ではリタルダンドだけがついているところ(第5小節など)を、あまりにもテンポを落とすので、フェルマータでもかかっているのかと...。それに、小節のなかでテンポが小刻みに変わったりする。
mezzo voce(第21小節~)のところは、テンポを上げずに足を踏みしめるようなタッチで始めて、徐々に盛り上げていく弾き方が多い。ユーディナは相変わらず速いテンポで、”何かが迫りくるような予感”というものは稀薄。
とにかく、緩急の変化と強弱のコントラストが激しく、これ以上ないと言うくらいにメリハリはついている。
テンポが速いので、ややせわしなく感じるところもあり、味わい深さに欠けるようには思うけれど、面白いことは面白い。最初から最後まで一気に聴かせてくれる。(テンションが高いので、何度も聴くと精神的に疲れてくるけれど..)
Maria Yudina plays Brahms Rhapsody Op. 79 No. 2 in G minor
後期ピアノ小品集~Op.116、Op.117、Op.118、Op.119より数曲
後期ピアノ小品で収録されているのは、《7つの幻想曲Op.116》第2番、《3つの間奏曲Op.117》全曲、《6つの小品Op.118》の第1,2,4,6番、《4つの小品Op.119》第3番。
全体的にテンポ設定は速めで、それほど極端でもない。
穏やかな曲想のOp.117-1は、主題部はゆったりしたテンポと、軽やかで明るい音色で、さらりとした叙情感。
対照的に中間部ではユーディナらしく量感・力感のある低音が良く響き、暗鬱とした雰囲気でコントラストが鮮やか。
Op.117-2は明暗が絶え間なく交錯する曲。冒頭のdolceは”溜め息”音型特有のそこはかとない哀感が綺麗。
曲想に応じて、テンポを頻繁に変えていくので、曲想が穏やかなときはだいたいテンポもゆったりして情感深く。
急に短調に変わる39小節からは、テンポが上がるしタッチもシャープで急迫感が出る。
Op.118-2の主題部はタッチもテンポも緩やかで穏やか。ここをゆったりしたテンポで思い入れたっぷりに弾く人は結構多いけれど、ユーディナはあっさりしたタッチとやや速めのテンポでさっぱりした情感。
ブラームスの曲のなかでも、短調の曲で感情が揺れ動いて明暗・静動が絶えず交錯する曲になると、ユーディナの演奏はテンポ・強弱の変化が激しく、表情豊かでドラマティック。
それに、後期ピアノ曲の特徴だとされる晩年の寂寥感のようなものは、どの曲でも稀薄。
逆に、時に優しげな表情を見せつつも、強い意志の力と激しい感情が溢れ出てくるような、ダイナミックでパッショネイトなブラームス。
Maria Yudina Brahms Intermezzo, Op. 117 n.2
Maria Yudina plays Brahms 4 Klavierstucke from Op. 118
8つのピアノ小品より4曲(第1・2・4・6番)
シューベルト《即興曲》D899、D935より3曲
収録曲3曲のうち、テンポの速いD.899の第2番はシャープなタッチで勢いも良く、力強くて明るい。
軽快なタッチの第4番は、中間部がほの暗い情熱が湧き上がってくるような雰囲気。
最もシューベルトらしく思えた叙情的な演奏は、D.935(Op.142)の第2番。(音は篭り気味で良くないけど)
激烈な演奏をするというユーディナのイメージとは違って、落ち着いた曲想の曲になると、穏やかな表情としっとりとした叙情感のあるピアノを弾いている。
Maria Yudina plays Schubert Impromptu As-dur Op. 142 No. 2