文・稲葉 崇志(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 コンサルタント)

 情報システムやサービスにおけるパフォーマンスベース契約(PBC:Performance Based Contracting)とは、サービス・システムの対価の一部、または全部について、サービスやシステムによって創出されるパフォーマンスにもとづいた価格設定を利用する契約の手法です。

 経済産業省は2007年度より、新たな見積・契約額決定の手法として、情報システムから創出される価値、実績に着眼したプライシング(『パフォーマンスベース価格設定、契約』)の調査研究を実施しています。

図1●プライシングにおけるアプローチの違い

 情報システムやサービスの調達におけるパフォーマンスベース契約の具体的なイメージとして、以下に3つの例を紹介します。

1.利益やコストを分配する契約
 情報システムの開発や運用だけでなく、企画・設計・運営業務までを含むアウトソーシングにおいて、当該事業の利益額や当該業務のコスト削減額を指標とし、その成果を一定の比率で配分する。受注者にとっては成果の創出による配分の獲得を目指す動機になることから、結果として、発注者が期待する利益額あるいはコスト削減額の拡大の可能性が向上する。

2.インセンティブ付きの契約
 情報システムの設計、開発において、システム納期が標準に比べて短縮できた場合に、当初の契約額に追加のインセンティブを設定する。受注者にとっては納期短縮によるインセンティブ獲得を目指す動機になることから、結果として、発注者が期待する当該システムやサービスの早期利用の可能性が向上する。

3.レベルによる調整を行う契約
 システム保守・運用において指標として管理する項目を設定し、それらのサービスレベルの達成状況に応じて価格を調整する。受注者にとってはシステムの安定運用による高い契約額を目指す動機になることから、結果として、発注者が期待するサービスレベル達成の可能性が向上する。

人月単価方式の課題とパフォーマンスベース契約

 情報システムやサービスの調達では、長年にわたって人月単価方式による価格設定が行われてきました。しかし、情報システムの品質や価値は人月単価に反映することできません。また、発注者側からは、情報システム投資は、設備やその他の投資に比べて価格の妥当性が分かりにくいことが指摘されています。従って、発注者と受注者のどちらにとっても、十分に価格を納得したうえで契約を締結しているとは言い難い状況にあります。

 さらに、価格が決まって契約を締結した後に、両者は深刻なジレンマを抱えることになります。発注者は、より良いシステムを実現するために多くの仕様や高い品質を盛り込みたいと考えます。一方で受注者は、費用を計画内に収めるためにできるだけ稼働を抑えたいと考えます。つまり、契約締結後の両者の利害は必ずしも一致しておらず、このような場合、両者が高いレベルの満足のうちにプロジェクトの終了を迎えることは非常に難しい状況にあるといえるでしょう。

 パフォーマンスベース契約では、発注者と受注者の双方が目標とする「成果」を設定し、KPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)の測定と評価によって、価格が決定されます。この場合、目標の達成は受注者にとっても利益を実現する手段となることから、発注者と受注者の関係は、一つの目標の達成を目指す協働関係にあるといえます。

 ただし、目標に設定する成果(パフォーマンス)は、情報システム投資の目的として発注者が期待する効果に対して、寄与するものであることが重要です。適切に設計されたパフォーマンスベース契約では、発注者と受注者が一つの目標を共有し、達成を目指すことによって、ITによる効果の創出のための推進力になります。

 2008年度の経済産業省の調査研究では、パフォーマンスベース契約を実現するための重要な5つのステップを挙げています。

パフォーマンスベース契約を実現するための5つのステップ

 パフォーマンスベース契約は、発注者たるユーザと受注者たるベンダの関係を対立から協働に変える手法といえます。そこで、従来の契約における課題の解決だけでなく、情報システムやサービスが創出する効果そのものを高める手法の一つとして、パフォーマンスベース契約が広く一般に活用されることが期待されます。