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2014年12月20日土曜日

Plan-B/ 百足

S1-E33
百足
 くだらない。

Copyright ©2014 Tetsuya Sato All rights reserved.

Plan-B/ 沼

S1-E32
 博士は格別の創意も格別の主張も持ち合わせていなかった。人間を捕まえて実験台に拘束して、沼にいるなにかと掛け合わせれば、なにかができるはずだとただ漠然と考えていた。そして沼の近くに実験室がついた家を建てて、そこで誰かがやってくるのを待ち構えた。すると夫婦者の旅行者がやってくるので博士は妻のほうを捕らえて実験台に拘束し、妻の遺伝子と沼のなにかの遺伝子とを混ぜ、さらに沼のなにかの蛋白質を注入した。なにかができると博士は格別の考えもなしに餌のつもりで亀を与えた。

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2014年12月19日金曜日

Plan-B/ 鮫

S1-E31
 教授は人類の進化を人為的に促す必要があると主張していた。もし人類が鮫の特性を獲得して水中でも生存できるようになれば、将来の人口爆発にも食糧不足にも容易に耐えることができるだろうし、鮫の生命力と攻撃性を活用して水中兵士の軍団を作ることもできるだろう。政府は教授の主張の特に後半に注目して教授の実験室に資金を与えた。志願を強要された兵士が実験台に拘束され、教授は兵士の遺伝子と鮫の遺伝子とを混ぜ合わせ、鮫の蛋白質を注入した。兵士のからだを変異が襲った。失敗して怪物と化した兵士を教授は見世物小屋に売ろうとしたが、政府が出資をした時点で失敗作の怪物も政府の資産となっていた。政府は怪物を引き取って倉庫で保管し、保管期限に達すると国有財産から抹消して不要品として払い出し、入札で不要品の処分を引き受けた業者が海に捨てた。怪物を封印していたコンテナが海底に沈んで蓋を開き、解き放たれた怪物は隣国の海岸に上陸して善良な漁民の町に襲いかかった。

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2014年12月18日木曜日

Plan-B/ 蛇

S1-E30
 教授は人類の進化を人為的に促す必要があると主張していた。もし人類が蛇の特性を獲得して変温動物として行動することが可能になれば、将来の人口爆発にも食糧不足にも、そして地球環境の激変にも容易に耐えることができるだろう。教授は主張を単なる主張に留めてはいなかった。実践に乗り出して生体実験を繰り返した。学生をさらってきては実験台に拘束し、学生の遺伝子と蛇の遺伝子を混ぜ合わせ、蛇から抽出した蛋白質を注入した。学生のからだを変異が襲った。失敗して怪物と化した学生は端から見世物小屋に売り飛ばした。実験はことごとく失敗したが、教授には根拠のない確信があった。成功は間近いはずだった。だが問題は意外なところに潜んでいた。教授の助手をしている婚期を逃した教授の娘が実験台の学生に惚れた。救う機会はいくらでもあったはずなのに、婚期を逃した教授の娘は機会を逃し、実験は遂に成功して学生は面白くもない蛇に変身した。それを婚期を逃した教授の娘が解き放ち、巨大な蛇が教授に襲いかかる。教授は復讐を求める蛇の牙からからくも逃れ、かねてから用意していたマングースを鉄製の檻から解き放った。

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2014年12月17日水曜日

Plan-B/ 変異

S1-E29
変異
 教授は人類の進化を人為的に促す必要があると主張していた。もし人類が植物の特性を獲得して光合成だけで生存できるようになるならば、将来の人口爆発にも食糧不足にも容易に耐えることができるだろう。教授は主張を単なる主張に留めてはいなかった。実践に乗り出して生体実験を繰り返した。学生をさらってきては実験台に拘束し、学生の遺伝子とハエトリグサの遺伝子とを混ぜ合わせ、教授が開発した細胞核破壊光線発生器から細胞核破壊光線を浴びせかけた。学生のからだを変異が襲った。失敗して怪物と化した学生は端から見世物小屋に売り飛ばした。成功例はひとつもないので、犠牲になった学生はことごとくが見世物小屋の見世物になった。学生は見世物小屋でいじめにあって、檻を破って町へ逃れた。ホームレスを次々に襲って養分をたくわえ、復讐を果たすために教授の実験室に現われた。

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2014年12月16日火曜日

Plan-B/ 鰐

S1-E28
 若者は瀕死の重傷を負っていた。遠方から招かれた医師は若者の命を救うために恐るべき治療法を選択した。若者を実験台に拘束し、若者の遺伝子と鰐の遺伝子とを混ぜ合わせ、鰐の蛋白質を注入した。鰐の生命力が若者を救うはずだった。若者は奇跡的に回復した。日常生活に戻って恋をして、そして結婚した。しかし結婚した直後から急速に爬虫類化が進行する。恐怖に駆られた若者は新妻を捨てて実家に隠れ、実家の農場で差配をしている卑劣な男は夫を探して訪れてきた若者の妻に懸想する。若者の母親は差配を解雇し、遠方から招かれた医師は放射線の照射が若者を救うと考えた。放射性物質が運び込まれ、照射の準備が整った。若者は実験台に横たわり、そこへ解雇された差配が乱入する。制御装置が破壊され、致死量の放射線が若者を襲った。だが鰐の生命力が反撃する。すっかり怪物と化した若者は実験台から降り立って、愛する妻を救うために凶暴な差配に立ち向かった。

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2014年12月15日月曜日

Plan-B/ 道

S1-E27
 寝坊をした。少年は鞄を背負って学校へ通じる道を急いだ。そこの角を曲がれば学校が見える。あと少しだ、少年はそう考えていつもと同じ角を曲がった。道いっぱいになにか奇妙なものがうごめいていた。どれもがドッジボールのボールほどの大きさでしかなかったが、大きく開いた口に意地悪そうな牙を並べ、棘の生えた背中を丸めて二本足で歩いていた。少年は足をとめて考えた。帰ろうか。でも母親の小言が怖かった。学校のほうからチャイムの音が聞こえてきた。どうしよう。どう考えても母親の小言のほうが怖かった。少年は足を前に踏み出した。ゆっくりと、気づかれないように、ゆっくりと。

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2014年12月14日日曜日

Plan-B/ 蛸

S1-E26
 水爆の実験の影響で巨大な蛸が出現した。巨大な蛸は海軍の潜水艦に襲いかかり、海軍の駆逐艦にも襲いかかり、商船を沈め、漁船を沈め、遊泳中の一般市民を餌食にしながら次第に都市に近づいてきた。遂に蛸が上陸した。不気味な吸盤を連ねた長大な触手が橋をねじり、建物を壊し、逃げ惑う市民を押し潰す。阿鼻叫喚の騒ぎが凄まじく、だからこの蛸には脚が六本しかないということに遂に誰も気がつかない。

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2014年12月13日土曜日

Plan-B/ 戦場

S1-E25
戦場
 アメリカ合衆国陸軍の戦車隊の兵士たちは北アフリカの戦場でドイツ軍の捕虜になった。顔を煤だらけにしたドイツ兵はひどく怒っていて、兵士たちを手荒に扱った。彼らはトラックに追い上げられて、砂漠の奥の山岳地帯にある捕虜収容所へ運ばれた。そこにはすでに百人を超す連合軍捕虜がいて、脱走をたくらんで地下にトンネルを掘っていた。脱走決行の夜、いきなりサイレンが鳴り始めた。鉄条網の陰に伏せて見ていると、ドイツ兵が砂漠に向かって発砲を始めた。機銃の曳光弾が輝く線を夜空に刻んだ。連合軍が攻めてきたのか。あれを見ろ。捕虜の一人がそう叫んで指差した。裸の子供のようなものが群れになってサーチライトの光のなかに躍り出た。銃撃をものともしないで進んでくる。撃たれると弾かれたように舞い上がるが、地面に落ちると立ち上がって、何事もなかったように走り始める。ドイツ軍が乱射していた。ドイツ軍が叫んでいた。銃声が轟き、叫びが響き、それから銃声が消えて叫びも消えた。サーチライトが動かなくなった。あれを見ろ。捕虜の一人がそう叫んで指差した。裸の子供のようなものの群れがドイツ兵を運んでいく。獲物を見つけた蟻のように、一列になって次から次へとドイツ兵を運んでいく。行列は夜の闇に消えていった。しばらくするとミシンを動かすような音が聞こえてきた。あれを見ろ。捕虜の一人がそう叫んで指差した。夜空にくっきりと円盤が浮かんだ。それは猛烈な速さで空の彼方に消えていった。

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2014年12月12日金曜日

Plan-B/ 菌糸

S1-E24
菌糸
 壁を菌糸が伝っていた。男は壁に手を伸ばして、指の先で菌糸に触れた。軽くつまんで引き剥がすと、糸が伸びてすぐに切れた。白い菌糸のかけらが指先に残った。ところがすぐに見えなくなる。吸い込まれたように消えてなくなった。男は首を傾げて指先をこすった。翌日の朝、男は目覚めてすぐに、強い痒みを感じて目をこすった。指で触れると白いものがくっついてきた。目ヤニではない。男は洗面所に入って鏡に顔を近づけた。涙腺のあたりが白いもので埋まっている。指でつついてこそげ落とした。それから歯を磨こうとして口を開けて、鏡の前から飛びのいた。歯茎が白く染まっている。いや、得体の知れない白いものが網の目状に広がって歯茎を覆い尽くしている。これも指でこすってこそげ落とした。歯ブラシを取って、今度は指の先に痒みを感じた。見ると爪の下から白いものがはみ出している。爪の一つを指で押すと白い液体が前に飛んだ。男は恐怖を感じて鏡を見た。顔のあちらこちらに白い点が浮かんでいた。思わず見入っているうちに白い点から白い線が放射状に伸び始めた。男は声を上げようとして、声が出ないことに気がついた。舌がおかしい。指で触れると舌が崩れた。崩れ落ちる組織と一緒に白い糸がしたたった。それ以上、鏡を見ていることはできなかった。男はそこから逃げようとした。逃げようとして動けないことに気がついた。伸びた菌糸が根を張っていた。男は額を打ちつけて、目の前の鏡を粉々に砕いた。

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2014年12月11日木曜日

Plan-B/ 虫

S1-E23
 男の顔の皮膚の下でなにかが動いて、わずかに見える筋を残した。気にしないでください、と男は言った。別に害はありません。見ると男の手の甲でも皮膚の下でなにかがもぞもぞと動いている。気にしないでください、と男は言った。別に害はないのです。男の首のあたりでもなにかがひくひくと動いていた。気にしないでください、と男はいった。本当に害はないのですから。そう言う男の目のなかで、なにか黒いものが顔を出して、すぐに引っ込んだ。大丈夫です、と男は言った。気になさることはありません。気がつくと耳からもなにかが顔を出していた。やはり気になりますか、と男は言った。もちろん、気にしないではいられなかった。

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2014年12月10日水曜日

Plan-B/ 害獣

S1-E22
害獣
 その小さな小屋で農夫は一人で暮らしていた。石が転がる小さな畑で野菜を育て、痩せた山羊に草を食ませ、自分はわずかな物を食べ、自分で作った強い酒で終わりの見えない憂いを晴らした。その日も朝から働いた。水を運び、草を取り、山羊を餌場に連れていった。夜になると山羊を縄で小屋につなぎ、野良着のままで藁を詰めた布団に転がった。闇の向こうで音がした。山羊がおびえて啼いていた。農夫は起き上がってマッチを擦った。黄色い光に皺が刻まれた顔が浮かぶ。農夫はランプを取って火を灯した。土を固めた床にランプを置いて、古びた鉄砲を手に取った。音に耳を澄ませながら銃口に火薬を注ぎ入れ、送りを入れ、槊杖を取って送りを沈め、槊杖を抜いて弾を入れた。鉄砲を抱え、ランプを取ると立ち上がって外へ出た。星の明かりがざわついている。農夫は足音を忍ばせて小屋を回った。山羊が啼いた。手にしたランプを掲げてそれを見た。干からびた猿のような化け物が山羊に食らいついている。音を立てて血を吸っている。大きさは山羊とあまり変わらない。背中からヤマアラシのような棘が生えている。それが農夫を振り返った。大きな赤い目がぎらついた。農夫はすばやくランプを置くと鉄砲をかまえて引き金を引いた。弾はそれて化け物の頭上のどこかへ飛んだ。化け物はとがった牙を剥き出して叫び、いきなりぴょんと飛び上がると森のほうへ消えていった。

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2014年12月8日月曜日

Plan-B/ 影

S1-E21
 男は休暇を取って、妻と息子と一緒に海へ出かけた。海辺のホテルに部屋を取って新鮮なシーフードを並べた夕食を取り、翌日は早めに起きてボートを雇った。船長は釣りの穴場を知っていると請け合って、ボートを真っ直ぐに沖へ進めた。海が青い。船長がボートを停めると、男は借りてきた道具で釣りを始めた。釣りなど一度もしたことがなかった。竿の使い方がわからない。餌をどうするのかもわからない。なにもできない夫を妻がからかい、小さな息子が父親をかばう。男は船長に助けてもらって釣り糸を垂れた。待ってもなにもかからない。息子が舷側から身を乗り出した。言葉にならない声を上げて洋上の一点を指差した。妻が立ち上がって息を呑んだ。船長はブリッジへ飛んで双眼鏡を目に当てた。男は釣竿から手を放してそれを見た。巨大な黒い影が海面の下を進んでくる。形はオタマジャクシを思わせたが、大きさはボートの三倍に近い。それは音もなく近づいてきて、ボートの真下をくぐり抜けた。妻は息子を抱き寄せた。男は妻の肩を抱いた。それは大きな弧を描いて沖のどこかへ消えていった。なんだったのか、と男はたずねた。船長は肩をすくめて首を振った。

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2014年12月7日日曜日

Plan-B/ 触手

S1-E20
触手
 攻撃型原子力潜水艦が消息を絶った。最後に射出された救難ブイの信号を頼りに捜索機が洋上を飛び、潜水艦救難母艦が駆逐艦をしたがえて到着する。勇敢な男たちが潜水艇に乗り込んで、消えた潜水艦の手がかりを探した。二日後、潜水艦が見つかった。潜水艇のカメラが船体の様子を記録する。傷だらけになっていた。セイルが無残に潰されていた。駆逐艦には女性の海洋生物学者が乗っている。潜水艇が持ち帰った映像を見て彼女はある可能性を指摘する。将校たちは真に受けない。もちろん彼女にも確信はない。しかしそれは現われた。体長百メートルを超すダイオウイカが日没の間際に海面を破って現われて駆逐艦に襲いかかった。不気味な吸盤を連ねた長大な触手が船体にからみ、マストが倒れ、船が傾く。乗員が倒れ、戦闘指揮所で火花が飛ぶ。戦闘配置、と艦長が叫んだ。

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2014年12月6日土曜日

Plan-B/ 海底

S1-E19
海底
 深海五百メートルに設置された鉱物採掘基地で作業員が働いている。頑丈な作業用の潜水服で外に出て、交替サイクルの長さをぼやきながらチューブワームの森を抜けた。その先で見つかった岩盤でボーリング作業が進んでいる。岩盤の下に鉱脈があるのがわかっていた。だからボーリングで穴を開けて爆薬をしかけ、岩盤の表層を吹き飛ばして鉱脈を露出させる必要がある。爆薬をしかけた。作業員が退避する。爆発が起こって海底に煙がほとばしり、採掘基地の地震計が強い振動を記録した。煙の下で岩盤がゆっくりと崩れ落ちていく。揺れが静まり、煙が収まるのを待ってから作業員が近づいていく。洞窟が口を開けていた。洞窟がある、と作業員が報告する。おかしいな、と採掘基地の監督が言う。洞窟から泡が噴き出した。泡と一緒に巨大ななにかが飛び出した。それは棘の生えた甲殻類の腕を振って作業員を一撃で砕き、採掘基地に向かって突進した。

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2014年12月5日金曜日

Plan-B/ 崩落

S1-E18
崩落
 新しい高速鉄道のためのトンネルの掘削現場で事故が起こった。作業服の男たちが泥まみれになって逃げ出してきた。大規模な崩落があったという。レスキュー隊が到着する。担架を抱えてトンネルに入って、負傷した男たちを運び出した。血にまみれて、小声で痛みを訴えている。奥まで進めなかった、と隊員たちは悔しがった。崩落がまだ続いている、と蒼い顔で報告した。山が鳴動し、地震のような揺れが起こる。あれを見ろ、と誰かが叫ぶ。山を覆う木々が傾き、土砂とともに滑り落ちる。剥き出しになった山の肌が陥没する。土煙を破って巨大な怪物が現われた。装甲された頭を振り立てて雄叫びを上げ、凶暴な爪がそろった前足で山をさらに押し崩す。人々は一斉にカメラを出して写真を撮る。

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2014年12月4日木曜日

Plan-B/ 黄昏

S1-E17
黄昏
 夕焼けの向こうに太陽が隠れて、夜のとばりが町にかかった。人々は仕事を終わりにして家路につき、子供たちは親の声に呼び戻された。店では客に閉店を告げる。商店街では雷鳴のような音ととともにシャッターが次々に下ろされていく。道という道に人が溢れ、人と人の肩が触れ合い、家を目指す列が進んだ。人々は自分の家に駆けこんで窓を分厚いカーテンで覆った。あるいはクリーム色のシェードを下ろし、鎧戸を閉ざして掛け金をかけた。黄昏の最後のきらめきが空を貫き、日没の時間が訪れた。夜が現われて伸び上がるようにして空を覆った。そして闇が現われて、空に広がる暗雲のように地上を進んで光を隠した。闇はいかなる光も通さなかった。闇のなかにはなにかが潜み、光を憎み、隙さえあれば闇を伝って人間を襲った。人々は光に隠れて息をひそめた。

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2014年12月3日水曜日

Plan-B/ 溶解

S1-E16
溶解
 宇宙から帰還したカプセルが洋上に落下した。回収のために空母からヘリコプターが飛び立ち、カプセルを囲む特殊艇からダイバーが次々と海に飛び込んだ。ヘリコプターが上空に飛来してワイヤーを下ろし、その先端をダイバーたちがカプセルに結んだ。ヘリコプターがエンジンを吹かして波を掻き立て、しずくを垂らすカプセルが空中に浮かんだ。空母の広大な甲板では飛行計画の関係者が待ち受けている。カプセルが甲板に下ろされた。数人が走って密閉されたカプセルを開けた。ハッチから宇宙飛行士が現われた。様子がおかしい。よろよろとしている。甲板に足を置いて、崩れるようにへたり込んだ。恐ろしい呻き声が漏れてくる。一人が走ってヘルメットを外した。誰もがその有様に息を呑んだ。溶けていた。見守る人々の目の前で、宇宙飛行士が溶けていった。あとには汚物しか残らない。宇宙でなにがあったのか、語るべき口は残されていない。

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2014年12月2日火曜日

Plan-B/ 成分

S1-E14
成分
 少年が冷蔵庫のドアを開いてなかを覗いた。中段の棚に紙でできた円筒形の容器が半ダースも並んでいる。この新製品に両親は夢中だ。見るとひとつが倒れて、蓋がはずれて白い中身がこぼれている。少年はその白いペースト状の物体に目を凝らした。冷蔵庫を開けた瞬間に、それが動いているのを見たような気がした。少年は冷蔵庫のドアを閉めた。ひと呼吸置いてからまた開けた。それはかたまりになって波を打っていた。どうやら箱に戻ろうとしていた。見ている前で動きをとめた。見られていることに気がついている。たぶん、これは食べないほうが安全だ。少年はそう判断してドアを閉めた。

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2014年12月1日月曜日

Plan-B/ 囚人

S1-E15
囚人
 どうにも様子がおかしい、と同房の男は考えた。戻ってきてからこっちに背を向けて寝たままだ。声をかけても返事もしない。ときどき気味の悪い声で呻いている。ときどき引きつったような動きをする。気のせいかもしれないが肌つやが悪い。こいつ、こんなに太い腕をしていたか。こいつ、こんなに毛深かったか。毛がめらめらと動いている。腕や肩が膨らんでくる。シャツの背中が裂け始める。どうしたっておかしい。いや、おかしいなんてもんじゃない。これはやばい。看守を呼ぼう、と男は決めた。格子を掴んで叫び始めた。寝台の上の男が動いた。床に飛び降りて黄色い目を輝かせ、耳まで裂けた口を開いた。

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