嵐の三色旗 -二都物語- A Tale of Two Cities 1935年 アメリカ 128分 監督:ジャック・コンウェイ、ロバート・Z・レオナード ロナルド・コールマンが弁護士シドニー・カートンに扮して愛するひとのために身代わりとなって断頭台の露と消える。革命が勃発するあたりではスーパーインポーズを多用してサイレント映画風に興奮を盛り上げ、続いて登場するバスティーユでは大群衆が登場して攻防戦を展開し、革命広場に集まるエキストラの数も半端ではない。デビッド・O・セルズニック製作による大作なのである。ロナルド・コールマンの酔いどれ弁護士ぶりはなかなかによろしい雰囲気で、対する革命のテロリスト、ジャックたちも凶悪そうで悪くない。最大の悪役として登場するエヴレモンド侯爵も馬車でしっかりと子供を轢くし、飢えた群衆の描写はディケンズから切り取ってきたようにステレオタイプに収まっている。『二都物語』なのだから、やはりそういうものであろう。
ウィ・アンド・アイ The We and the I 2012年 イギリス/アメリカ/フランス 103分 監督:ミシェル・ゴンドリー ブロンクスの高校で夏休みの前の最後の授業が終わって下校する高校生がニューヨーク市営バスに乗り込んで大声で話す、優先席に腰を下ろす、子供から席を取り上げる。老夫人に向かって席を譲るように要求して受け入れられないと嫌がらせをする、ギターを演奏し始める、演奏しているギターを奪い取って破壊する、詩を朗読する、ゲームを始める、煙草を吸う、バスが渋滞で停車している隙にピザを買いにいく、など傍若無人の限りを尽くしているうちに恋愛関係が崩壊し、友情も崩壊し、一人が下り、二人が下り、気がつくとずいぶん人数が減っていて、なにやら孤独だという光景をひたすらにスケッチの連続で見せる。中学生に毛の生えたような高校生のボディゾーンを気に掛けないふるまいや傷つきやすくて痛々しい気持ちやらがとにかくわずらわしいけれど、そのわずらわしいところを最後まで見せる筆力はたいしたものだと感心した。出演者はみな好演していると思う。ただ演出上の必要からか、乗車時間が不自然に長くて(つまり、ほぼ上映時間分あるわけで)、このままフロリダあたりまでいってしまうのではないかと心配になった。
パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉 Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides 2011年 アメリカ 141分 監督:ロブ・マーシャル 世界のどこやらに生命の泉というものがあり、それをスペインが狙っていると気づいた英国はジャック・スパロウを捕えて泉への道案内を要求するが、ジャック・スパロウは逃げ出して海賊黒ひげの娘アンジェリカと出会い、そのアンジェリカによって海賊黒ひげの船に強制徴募され、その海賊黒ひげもまた泉を目指し、英国側に寝返ったバルボッサ船長はジャック・スパロウの航海士ギブスに案内させて泉を目指す。 ロブ・マーシャルの演出はシチュエーションを順番につなぐだけで洒落っ気のかけらもない。キャラクターは全体に後退気味で、ジェフリー・ラッシュはバルボッサ船長の役に退屈しているようだし、ペネロペ・クルスの女海賊は整理が悪く、ジャック・スパロウにいたっては事実上ただいるだけという有様である。もっぱら海戦シーンでもっていたこのシリーズなのに今回は海戦シーンがまったくない。海賊映画なのに大砲一発撃たないまま、もっぱら地面を這いずっている。アクションはむやみと多いものの、どこを取っても切れが悪く、退屈で、人魚の集団のあくまでも非人間的な描写と泉を目指して進むスペイン側の意外なまでに正直な動機を除くと見るべきところがあまりない。
パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド Pirates of the Caribbean: At World's End 2007年 アメリカ 168分 監督:ゴア・ヴァビンスキー 東インド会社のベケット卿はデイヴィ・ジョーンズの心臓を手に入れて無敵の『ダッチマン』を手中に収め、海賊たちは対策を講じるために評議会の開催を決定する。バルボッサ船長ほかの一行は評議会に先立ち、ジャック・スパロウを取り戻すために世界の果てを示した海図を頼りにデイヴィ・ジョーンズの海を目指し、その海につらなる砂漠では故人となったジャック・スパロウがアホウの本領を発揮して『ブラックパール』でむなしい日々を送っている。バルボッサ船長ほかの一行はジャック・スパロウとの再開を果たしてこの世に戻り、そうると早速みんなで裏切りを始め、ついに始まった海賊たちの評議会では海賊的な妥協の末になぜかエリザベス・スワンが海賊たちの王となり、そこへ『ダッチマン』を先頭に東インド会社の大艦隊が現われる。 ある意味、雑音が身上のようなシリーズなので、背景はとにかくにぎやかにごちゃごちゃと描きこまれ、犬や猿を含む常連脇役にもていねいに光をあてていくので猛烈に忙しいことになっていて、3時間近い上映時間にもかかわらず、まったく休む暇がない。そのあわただしさに主役クラスも飲み込まれ、事実上の主役はジェフリー・ラッシュに移り、ジョニー・デップやオーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイは強い印象を残さない。もっともこれは、わたしがほかのところばかり見ていたせいなのかもしれない。つまり『ブラックパール』はさらにディテールアップされ、しかも今回は砂丘を乗り越えて進んでくる。『ダッチマン』との戦闘では双方に高低差があるという前代未聞の状況が出現し(なにしろメールストロムのなかで戦っている)、壮絶な片舷斉射で大砲や人間が次々に吹き飛び、斬り込みがあり、チェーンショットが再登場して絡み合った帆桁を吹き飛ばす。三層艦『エンデヴァー』もせっかく出てきたのだから、もう少し活躍してほしかった。あともうひとつ欲を言うと、ジョナサン・プライスにはもっと顔を出てほしかった。ついでにもうひとつ言うと、ベケット卿こそジョナサン・プライスにやってほしかった。このひとの悪役はすごいのである。
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest 2006年 アメリカ 150分 監督:ゴア・ヴァビンスキー エリザベス・スワンとウィリアム・タナーが結婚しようとしているところへ東インド会社の軍隊がジャマイカに上陸、総督府を事実上の支配下に置いてエリザベス・スワンとウィリアム・タナーを逮捕する(牢屋にぶち込まれたエリザベス・スワンが隣の監房の連中から噛まないからとか言われて誘われる場面がばからしくてすばらしい)。一作目でジャック・スパローの逃亡に手を貸した、という容疑であったが、その罪によって死刑を受けるのを免れたければジャック・スパローから例のコンパスを奪い取れ、という話になり、ウィリアム・タナーはジャック・スパローを追ってジャマイカを離れ、一方、エリザベス・スワンは別に行動を取って同じくジャック・スパローを追う。そしてウィリアム・タナーは文字どおりの波乱の末にジャック・スパローに追いつくものの、そのジャック・スパローは海賊船『ブラックパール』の船長となるために『フライングダッチマン』のイカタコな船長デイヴィ・ジョーンズと魂を売り渡すような約束をしていて、そのデイヴィ・ジョーンズが契約の履行を迫るので、代わりにウィリアム・タナーを人質に差し出す。で、東インド会社は宝箱に隠されたデイヴィ・ジョーンズの心臓に用があるようで、ジャック・スパローのほうでも同じ物に用があって宝箱の鍵を探しており、そうしているとウィリアム・タナーが問題の鍵を手中に収め、間もなくジャック・スパロー、エリザベス・スワンと再会する。一作目の英国海軍正規艦長ノリントン(エリザベス・スワンの元婚約者)もそこに現われ、なんだか三つどもえの状態になっているなあ、などと思っているとクラーケンも浮上してきて、最後にはバルボッサ船長まで登場し、話は次回に続いてしまう。 一作目同様、『ブラックパール』は美しく、しかも『フライングダッチマン』によってむごたらしく縦射される(この直後のカットは最高にいい)。敵役『フライングダッチマン』は船首追撃砲が三連になっていて、一発撃つと回転するところがとても楽しい。しかも『フライングダッチマン』は海面を割って海上に飛び出すだけではなくて、"Dive"という命令でちゃんと「潜航」する。そしてクラーケンが登場すると、これがもう芸術的に船に絡みついて沈めてしまう。素材への愛着は一流であろう。つまり船に関する描写は絵画的にもよく出来ていて、キャラクターはそれなり強化されながら期待を裏切らない程度に変わりがない。卑劣で間抜けなジャック・スパローは健在で、スラプスティックな描写もとても楽しい。アクションを豊富に織り込みながらもヒロイズムは否定し、どことなく間が抜けていてどこまでも人間臭い、という感じは抜群によいし、動物たちがちゃんと人間とタイマンを張っているところもよいと思う。
パイレーツ・オブ・カリビアン Pirates of the Caribbean: Curse of the Black Pearl 2003年 アメリカ 143分 監督:ゴア・ヴァビンスキー ディズニーランドのアトラクション『カリブの海賊』を「原案」とする海賊映画。ちなみにポランスキーの『パイレーツ』も『カリブの海賊』にインスパイアされた映画だと監督本人がどこかで言っていたが、これはあれとはだいぶ違う。 ジャマイカ総督の娘エリザベス・スワンはカリブ海への航海の途中、洋上を漂う一人の少年を発見して命を救う。だが少年ウィリアム・タナーの胸には髑髏が刻まれた金のメダルがあり、少年に無用の嫌疑がかかるのを恐れたエリザベスはメダルを自分のものにする。それから8年後のポート・ロイヤル。エリザベスは美しく成長し、ウィリアム・タナーは鍛冶屋の徒弟となって仕事をこなし、同時に剣の腕も磨いていた。その日、砦では英国海軍正規艦長ノリントンの提督(戦隊指揮官?)への昇進式典がおこなわれることになっていたが、その直前、沈みかけたポートを捨てて港に上陸を果たした怪人があった。ジャック・スパロウ船長である。スパロウ船長は海賊の身でありながら単身ポート・ロイヤルの潜入し、英国海軍が誇る高速艦『インターセプター』を奪おうとする。船がないことには海賊が始まらないからである。この船を奪って一帯で略奪の限りを尽くすと宣言するスパロウ船長に見張りの英国海兵隊員が止めに入る。同じ頃、砦の上ではエリザベス・スワンがノリントン提督の求婚を受けていたが、当人はロンドン仕込のコルセットで窒息しかけて崖から海へ転落した。エリザベスの胸では髑髏のメダルが海に向かって鼓動を放つ。エリザベスは海底を目指して沈んでいったが、勇躍海に飛び込んだジャック・スパロウに救われた。だが船着場に這い上がってきたスパロウ船長を迎えたのはノリントン提督とその配下の兵士たちで、スパロウ船長は海賊行為の罪によってただちに牢屋にぶち込まれてしまう。そしてその晩、メダルの鼓動を聞きつけて沖から『ブラックパール』が姿を現わし、バルボッサ船長配下の海賊どもがポート・ロイヤルに襲いかかる。エリザベスとともにメダルが奪われ、鍛冶屋のウィリアム・タナーはスパロウ船長を自分の一存で解放し、『インターセプター』を奪って『ブラックパール』の後を追う。 ここまでの展開でもかなり凝ったチャンバラがあり、その後にももちろんチャンバラがあるし、簡単ながら操艦技術の競い合いようなこともやってくれるし、『インターセプター』と『ブラックパール』は舷を接して戦うし、『ブラックパール』はチェーンショットまで撃つのである。大砲で何を撃つとどうなる、という物理的リアリズムをきちんとやっている点で、すでに凡作『カットスロート・アイランド』(何が飛んできても考えなしに炎が吹き上がっていた)を大きく引き離している。加えて登場人物が素晴らしく魅力的であった。特にジョニー・デップ扮するジャック・スパロウ船長には文句のつけようがない。見た目にすでに怪しいし、嘘つきだし、嘘つきだと自認しているし、時々ほんとうのことを喋っているし、強いし、賢いし、それなのに馬鹿なのである。対するジェフリー・ラッシュのバルボッサ船長も実によかった。どことなく二流の悲哀を秘めながら、間抜けな部下を叱咤して目的完遂のために戦うのである。オルランド・ブルームの鍛冶屋もよく動いていたし、キーラ・ナイトレイの戦うお嬢様も好ましい。ジョナサン・プライスの総督というのも楽しかった。プロットは練りこまれているし、ダイアログも洗練されている。撮影は丁寧におこなわれていて無駄と思えるような部分がない。