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暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ

Posted by moonrainbow on 09.2024 星雲   0 comments   0 trackback
ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ

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ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測された暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ

こちらは「オリオン座」の方向約1300光年先にある有名な暗黒星雲「馬頭星雲(Horsehead Nebula)」のクローズアップです。画像下側の白い煙のようなものは“馬のたてがみ”にあたる部分で、水素・メタン・氷(水の氷)といったさまざまな物質を含む分子雲の構造が詳細に捉えられています

暗黒星雲はガスと塵(ダスト)が高密度に集まっている天体です。向こう側にある天体から放射された可視光線を塵が遮り、地球からはその場所が暗く見えることから“暗黒”星雲と呼ばれています。

オリオン座の方向には「オリオン座分子雲」と呼ばれる広大な星形成領域があって、馬頭星雲はその一部を成しています。可視光線では馬頭星雲の背景が赤く見えますが、この赤い光は大質量星から放射された紫外線によって電離した水素から放たれています。このような領域は電離水素領域やHII(エイチツー)領域と呼ばれています。ちなみに、馬頭星雲の背景に広がる電離水素領域は輝線星雲「IC 434」として知られています。

この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。

次の画像は3つの宇宙望遠鏡で撮影された馬頭星雲を比較したものです。左は欧州宇宙機関(ESA)の「ユークリッド宇宙望遠鏡(Euclid)」、中央は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」で撮影された画像で、右は冒頭と同じウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamで撮影された画像です。左から右へと進むにしたがって、馬頭星雲が段階的にクローズアップされていくように並べられています。

ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、馬頭星雲は光解離領域(Photodissociation Region: PDR)の一つとしてよく知られています。光解離領域は電離水素領域と分子雲の境界にあたり、若い大質量星から放射された紫外線の作用によって電気的にほぼ中性なガスと塵の領域が形作られています。初期宇宙から現在までの宇宙全体における星間物質の進化を促す物理的・化学的プロセスを研究する上で、光解離領域が放つ光は独自のツールを提供してくれるのだといいます


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ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置(MIRI)で観測された暗黒星雲「馬頭星雲」のクローズアップ

一方、こちらはウェッブ宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成された画像です。冒頭に掲載したNIRCamの画像よりもさらに狭い範囲がクローズアップされていて、塵状のケイ酸塩や煤状の多環芳香族炭化水素から放射された赤外線が捉えられています。

ウェッブ宇宙望遠鏡による馬頭星雲の観測データをもとに、フランスの宇宙天体物理学研究所(IAS)のAlain Abergelさんを筆頭とする研究チームは、馬頭星雲の照らし出された縁の構造を40~400天文単位という小さなスケールで初めて明らかにしました。紫外線によって蒸発した分子雲から加熱されたガスとともに掃き出された塵の動きを追跡できる特徴をウェッブ宇宙望遠鏡は捉えており、塵がどのようにして光を遮り、赤外線を放出しているのかを調査するとともに、星雲の形状を多次元でより深く理解することができたといいます。研究チームは今後、星雲全体にわたる物質の物理的・化学的特性の進化に関する知見を得るために、ウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測(電磁波の波長ごとの明るさを示したスペクトルを得る観測手法)のデータを分析する予定だということです。

ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した馬頭星雲の画像はSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)やESAから2024年4月29日付で公開されています。また、Abergelさんたちの成果をまとめた論文はAstronomy & Astrophysicsに掲載されています


Source
STScI – Webb Captures Top of Iconic Horsehead Nebula in Unprecedented Detail
NASA – Webb Captures Top of Iconic Horsehead Nebula in Unprecedented Detail

2024年5月3日
5sorae 宇宙へのポータルサイトより

”猫の手星雲”こと「キャッツパウ星雲(NGC 63341)」

Posted by moonrainbow on 07.2024 星雲   0 comments   0 trackback
猫の肉球みたいな「猫の手星雲」で太陽系外では珍しい過去最大級に大きな分子を発見

猫の手星雲
猫の手星雲(Cat’s Paw Nebula)

 地球から5500光年の先にある”猫の足星雲”で、宇宙ではとびきり珍しい大きな分子が検出されたそうだ

 ”猫の手星雲”こと「キャッツパウ星雲(NGC 63341)」で発見されたのは、「2-メトキシエタノール」という化合物だ。

 13個の原子でなる複雑な作りをしており、これまで太陽系外で確認されたものとしては最大級の分子であると、『The Astrophysical Journal Letters』(2024年4月12日付)に掲載された研究で報告されている。

 こうした発見は、宇宙の物理的条件の違いが、そこで起きる化学反応にどのような影響を与えるのか理解する手がかりになるという


天の川銀河に浮かぶ赤い肉球、猫の手星雲
 
猫の手星雲(キャッツパウ星雲:Cat's Paw Nebula)は、公式にはNGC 6334とも呼ばれ、地球から約5,500光年離れた銀河系(天の川銀河)のさそり座に位置している。

 星が散りばめられた暗い宇宙を背景に、赤い雲状のガスが、見る角度によっては猫の足跡に見えることからこの名がついた。

 天の川銀河の中で最も活発な星形成領域の1つで、100万~200万年の間に生まれた青い大質量星を多数有しており、新しい星が形成される様子を観測するのに最適な場所でもある


猫の手星雲1
猫の手星雲 / image credit:

宇宙で分子を見つける方法
 
宇宙は何もない空っぽの空間と思われがちだが、そうではない。一見空虚に思えるが、実際には、原子が集まってはバラバラに壊れ、何百万年もの時間をかけて星や惑星が誕生するという、化学的な営みが連綿と続いている。

 こうした営みを理解することは、星や銀河が形成されるプロセスや、生命がどのように誕生するのかを理解することでもある。

 とはいえ、広大な宇宙に存在する分子など、どうすれば調べられるのだろう? それはあらゆる分子が持っているエネルギーの”身分証明書”が手がかりになる。

 物質が光を浴びると特定の波長を吸収するが、この現象を量子レベルでみると、分子の回転エネルギー準位から別のエネルギー準位への遷移に対応している。

 そしてこのエネルギー準位は分子それぞれに固有のものだ。だからエネルギー遷移のシグナルを検出すれば、そこにどのような分子があるのかがわかる。

 宇宙を漂う分子を調べている天文学者は、電波望遠鏡でこうしたシグナルを探している


Zooming Into The Cat's Paw Nebula (2010.01) [720p]


猫の手星雲にズームする映像

猫の手星雲に過去最大級の大きな分子を発見
 
マサチューセッツ工科大学をはじめとする研究チームがこの方法で発見したのが、「2-メトキシエタノール」だ。

 この分子は、エタノールの水素原子の1つがより複雑なメトキシ(O-CH3)基で置換された13原子で構成されている。

 これほど複雑なものが太陽系の外で見つかるのはかなり珍しく、13原子より大きな分子の”種“はこれまでに6種しか検出されていない


 マサチューセッツ工科大学(MIT)の宇宙化学者、ザッカリー・フリード氏は、こうした分子がなかなか見つからない理由をこう説明している。
こうした分子は、もっとシンプルに形成される小さな炭化水素に比べると、はるかに数が少ないものです。

また、そのスペクトル・シグナルは、より多くの遷移に分布しているため、個々のスペクトルのピークが弱く、なおのこと観測が難しくなります(ザッカリー・フリード氏)
 彼らがそれを発見できたのは、ただの運のおかげではない。検出が難しい分子を探すために、人工知能を利用するというクレバーなやり方が功を奏した結果だ。

 研究チームは以前、宇宙のさまざまな領域にどれだけ分子があるのかモデル化する機械学習法を開発していた。このモデルが、まだ未検出の分子種を予測するのに役立った。

 今回のその大きな分子が猫の手星雲で発見された。

 この星雲と、「へびつかい座ロー分子雲領域」の連星系「IRAS 16293」では、過去にメトキシ基を含む分子種が発見されていたため、モデルからどこに未検出の分子があるのか見当をつけることができた。

 そこで研究チームは、まず実験室で2-メトキシエタノールの回転スペクトルを測定し、この分子が放つと考えられる2172種のエネルギーシグナルを記録。

 このデータをもとに、チリにある巨大電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」で、キャッツポウ星雲とIRAS 16293を観察し、2-メトキシエタノールの存在を示すエネルギーシグナルを探した。

 その結果、猫の手星雲からのみ25個のシグナルが見つかり、2-メトキシエタノールの存在が確認されたのだ


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猫の手星雲 / image credit:S. Lipinski/NASA & ESA
宇宙の化学反応は何によって左右されるのか?

 こうした発見は、宇宙の物理的条件の違いが、起こりうる化学反応にどのような影響を与えるのか理解する手がかりになる。

 たとえば研究チームは、今回観察された2領域において化学的な違いがあった原因は、放射場の強さの変動や、星が形成されるこれら2つの領域の塵の温度の違いではないかと推測している。

 研究チームは、こうした発見が、まだ未発見の宇宙の分子探しにつながることを期待しているそうだ


2024年05月03日
カラパイアより

状天体「HH 1177」

Posted by moonrainbow on 05.2023 星雲   0 comments   0 trackback
大マゼラン雲の若い星を囲む円盤をアルマ望遠鏡で観測 天の川銀河の外にある若い星では初

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大マゼラン雲で見つかった若い星状天体「HH 1177」の想像図

こちらは「HH 1177」と呼ばれる若い星(若い星状天体、Young Stellar Object:YSO)の様子を描いた想像図です。中心で輝く大質量の若い星は降着円盤(周回しながら落下するガスや塵でできた円盤状の構造)から物質を取り込んで成長しつつ、両極方向にジェット(細く絞られた高速のガスの流れ)を噴出させています

この想像図は、ダラム大学のAnna McLeodさんを筆頭とする研究チームによる最新の研究成果を元に描かれました。実は、HH 1177は天の川銀河の外、地球から約16万8000光年先の大マゼラン雲(大マゼラン銀河とも)にあるHII(エイチツー)領域(※1)「LHA 120-N 180B」で見つかった天体です。これまでの観測では長さ約33光年に渡るジェットが捉えられていましたが、電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」を使用した研究チームによる今回の観測で円盤が検出されました。

若い星を取り囲む円盤の中ではやがて惑星が形成されると考えられています。ヨーロッパ南天天文台(ESO)によると、惑星の形成につながるこのような円盤が天の川銀河の外にある若い星で検出されたのは今回が初めてだということです。研究チームの成果をまとめた論文はNatureに掲載されています


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左:HII領域「LHA 120-N 180B」の全体像、中央:超大型望遠鏡(VLT)の広視野面分光観測装置「MUSE」で観測したHH 1177、右:中央の画像にアルマ望遠鏡の観測結果を重ね合わせたもの

次の画像はLHA 120-N 180Bの全体像(左)、ESOが運営するチリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の広視野面分光観測装置「MUSE」で取得されたHH 1177の画像(中央)、MUSEで取得したHH 1177の画像にアルマ望遠鏡の観測結果を重ね合わせた画像(右)の3点を合成したものです。

中央の画像に示されたHH 1177のジェットは、青と赤の2色で着色されています。この色は地球に対するジェットの運動方向に対応していて、青色のジェットは地球に向かう方向へ、赤色のジェットは地球から遠ざかる方向へ噴出していることを示しています。ジェットの運動方向は分光観測(※2)を通して光のドップラー効果を調べることで知ることが可能です。救急車のサイレン音が変化して聞こえるのと同じように、近付いてくる光源から放射された光の波長は短く、遠ざかる光源から放射された光の波長は長くなるからです


右の画像の中央部分に示されたアルマ望遠鏡による観測結果もまた、青と赤で塗り分けられています。この色は円盤の回転運動に対応していて、青色の部分は地球へ近付くように、赤色の部分は地球から遠ざかるように動いていることを示しています。「アルマ望遠鏡のデータに回転構造の証拠を見た時は、天の川銀河外の降着円盤を初めて発見したことが信じられませんでした。それは特別な瞬間でした」(McLeodさん)

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超大型望遠鏡(VLT)の広視野面分光観測装置「MUSE」で観測したHH 1177の画像(中央)と、HH 1177および降着円盤の位置をその想像図(右)で示したもの

新しい星は密度の高い分子雲の中でガスや塵を材料にして形成されますが、ESOによれば大マゼラン雲で星が形成される環境には天の川銀河と比べて塵の含有量が低いという特徴があります。観測されているHH 1177は塵を豊富に含む繭のような雲にはすでに包まれておらず、星や惑星が形成されていく様子を調べようとする天文学者の視界は妨げられていないといいます。McLeodさんは「私たちは天文施設の技術が急速に進歩する時代にいます。これほど遠く離れた別の銀河で星がどのように形成されるのかを研究できるなんて、とてもエキサイティングです」とコメントしています

■脚注

※1…若い大質量星から放射された紫外線によって電離した水素ガスが光を放っている領域。ガスと塵を材料に星が形成される星形成領域でもあり、新たな星が誕生する現場であることから“星のゆりかご”と呼ばれることもある。
※2…電磁波の波長ごとの強さを示すスペクトルを得る観測方法のこと。スペクトルには原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」や、反対に特定の波長の電磁波を放つことで生じる明るい線「輝線」が現れる。吸収線と輝線は合わせて「スペクトル線」と呼ばれる。分光観測を行うことで天体の組成を調べたり、スペクトル線のずれ具合をもとに視線方向の運動速度を割り出したりすることができる


Source
ESO - Astronomers discover disc around star in another galaxy for the first time
ESO - Bubbles of Brand New Stars

2023年11月30日
sorae 宇宙へのポータルサイトより

暗黒星雲「おおかみ座3(Lupus 3)」

Posted by moonrainbow on 23.2023 星雲   0 comments   0 trackback
暗黒星雲で生まれた青い星が照らし出す反射星雲の輝き

反射星雲の輝き
南天のおおかみ座の方角にある暗黒星雲「おおかみ座3」と、その中心にある2つの青い星「HR 5999」「HR 6000」によって照らし出された反射星雲「バーンズ149」

星と星の間に広がる「星間空間」は何もない真空ではなく、そこには星間ガスや星間塵が存在しています。星間物質と総称されるこれらのガスや塵は均一に分布しているのではなく、周囲と比べて高密度な領域は「暗黒星雲」と呼ばれています

その名が示すように、人間が知覚できる可視光では暗黒星雲そのものは見えませんが、その背後にある恒星などの光を遮ることで、黒い雲のように浮かび上がって見えているのです。可視光よりも波長の長い赤外線や電波を利用した観測で、暗黒星雲には様々な分子が含まれていることがわかっています。そのため、暗黒星雲は「分子雲」とも呼ばれています。

南天の「おおかみ座」の方角、約500光年先にある暗黒星雲「おおかみ座3(Lupus 3)」です

おおかみ座3の中心では2つの青い星(「HR 5999」と「HR 6000」)が輝いています。この2つの星がガスと塵を明るく照らし出している青色の部分は反射星雲「バーンズ 149(Bernes 149)」と呼ばれており、おおかみ座3とともに壮大な眺望を作り出しています。「反射星雲」とは、その名の通り自ら光を発しているのではなく、恒星の光を反射して輝く星雲です。

おおかみ座3に含まれる物質(分子)は、新たな星を生み出す材料となります。HR 5999とHR 6000もおおかみ座3の中で誕生し、成長しました。2つの星は年齢がまだ100万歳と若く、太陽のような主系列星の前段階にあたる「おうし座T型星」と呼ばれる種類の前主系列星です。その明るさにもかかわらず、2つの星はまだ太陽のように核融合エネルギーでは輝いておらず、自らの重力で収縮し加熱することで輝いています。

おうし座T型星が形成される過程では、放出された強力な星風がガスや塵を吹き飛ばします。バーンズ 149は、その残留物から作り出されたのです。このように、おおかみ座3は活発な星形成領域であり、原始星など星形成に関する知見を提供しています。

この画像は、NOIRLab(米国立光学赤外線天文学研究所)所属のセロ・トロロ汎米天文台にあるビクター M. ブランコ4メートル望遠鏡に設置された広視野カメラ「ダークエネルギーカメラ(Dark Energy Camera:DECam)」で撮影されました。

おおかみ座3は分子雲の複合体を構成する少なくとも9つの暗黒星雲の1つであり、満月24個分の視直径に相当する範囲に広がっているとのこと。DECamの広い視野とブランコ4メートル望遠鏡の集光能力を組み合わせることで、おおかみ座3の鮮明で高解像度の画像が取得されました


Source
Image Credit: CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA/ T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab); Processing: D. de Martin & M. Zamani (NSF’s NOIRLab)

2023年6月12日
sorae より

小マゼラン雲にホットコアを初検出

Posted by moonrainbow on 24.2023 星雲   0 comments   0 trackback
小マゼラン雲にホットコアを初検出

小マゼラン雲で発見された
小マゼラン雲の2つのホットコア
小マゼラン雲で発見された2つのホットコア。各パネル内は、原始星周囲のダスト(星間塵)、二酸化硫黄分子、メタノール分子からの電波放射をとらえた画像。背景はヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星「ハーシェル」による小マゼラン雲の赤外線画像(提供:新潟大学リリース)

重元素量の少ない小マゼラン雲内で、原始星を繭のように包む暖かい「ホットコア」が初めて見つかった。昔の宇宙における物質進化や星形成過程の多様性の解明につながると期待される発見だ


冷たく巨大なガスの塊の中で原始星(赤ちゃん星)が誕生すると、星は周囲のガスや塵を暖めはじめる。その原始星を繭のように包む暖かいガス雲は「ホットコア」と呼ばれ、そこでは水や複雑な有機分子を含む様々な分子が見つかっている。

重元素(ヘリウムよりも重い元素)が少なく初期の宇宙に似た環境にあるホットコアを調べれば、昔の宇宙における星形成の物理過程や星形成に伴う物質の化学進化を理解する手がかりが得られるはずだ。そうした環境の一つが、私たちから約19万光年の距離にある矮小銀河「小マゼラン雲」である。小マゼラン雲は太陽系近傍と比べて炭素や酸素などの存在量が約10~20%と少なく、その環境は今から約100億年前の宇宙によく似ている。しかし、これまで小マゼラン雲内でホットコアは見つかっていなかった。

新潟大学の下西隆さんたちの研究チームは、小マゼラン雲などに存在する大質量の原始星をアルマ望遠鏡を用いて系統的に観測するプロジェクト「MAGOS(MAGellanic Outflow and chemistry Survey)」を実施してきた。そのなかで、高密度のガスに取り囲まれている可能性が示唆された2つの原始星について、MAGOSとアルマ望遠鏡のアーカイブデータを組み合わせて、周囲のガスの性質を調べた。

その結果、一酸化炭素、メタノール、二酸化硫黄など多くの分子や分子イオンのスペクトル線が検出され、これらの原始星の周囲にホットコアが存在していることが明らかになった。

今回発見されたホットコアではどちらも、メタノール分子は比較的低温で広がった領域に由来していて、高温でコンパクトなホットコアからの寄与は非常に小さい。これまでに知られている、重元素量が通常の環境ではホットコアがメタノールの輝線で検出されてきたこととは大きく異なる結果だ。また、小マゼラン雲ではメタノールではなく、二酸化硫黄の分子輝線がホットコア領域の検出に有効であることも示された


ホットコア「S07」
ホットコアの二酸化硫黄とメタノールの分子輝線の積分強度の比較
ホットコア「S07」の二酸化硫黄(SO2)(左)とメタノール(CH3OH)(右)の分子輝線の積分強度の比較。二酸化硫黄の分子輝線のほうがコンパクトかつ高温で、ホットコアを効果的に追跡している様子がわかる(提供:Shimonishi et al. 2023)

これらの結果は、宇宙の様々な年代、環境における星間物質の化学進化が普遍的かどうかを知るうえで重要な成果となる。星や惑星の形成と進化、さらには惑星へ取り込まれ得る生命材料物質の多様性の究明にもつながるだろう

2023年5月15日
AstroArtsより
 

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