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2014年12月18日木曜日

北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦開発。日本への影響は?

衛星が捉えた謎の潜水艦

少し前から、海外メディアで北朝鮮が弾道ミサイル発射可能な潜水艦の開発を進めているとの報道がなされています。

北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦の開発を進めている、との観測が浮上している。日本ではほとんど報じられていないが、韓国メディアは盛んに取り上げている。



実際、北朝鮮東部の咸鏡南道新浦市内をGoogle Earthで確認したところ、これまで北朝鮮海軍が保有すると考えられているロメオ型潜水艦(全長約76m)とサンオ型潜水艦(全長約35m)、いずれの全長とも異なる全長約65mほどの潜水艦が停泊しているのが確認できました。

北朝鮮東岸部での潜水艦写真(Google Earthより)




上の写真は同じ場所を異なる時間で撮影したものの比較になります。右が2013年の10月に撮影された写真で、全長40m以下の潜水艦(恐らくサンオ型潜水艦)と見られる物体が写っています。左が今年の7月に撮られたもので、昨年10月に同じ場所にいた潜水艦より大きい、全長は約65mほどの潜水艦が見られます。北朝鮮が保有する最も大型の潜水艦であるロメオ型は全長約76mですので、サンオ型とロメオ型の中間にある、これまで知られていなかった未知の潜水艦という事になります。



北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦?

この謎の潜水艦について、アメリカのジョン・ホプキンス大学の北朝鮮情報分析サイト”38 NORTH"は、周辺の施設の分析と合わせ、北朝鮮が潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の開発を進めているとの見解を示しています。その発射母艦となるのが、確認された未知の潜水艦と見られています。



日本への脅威は?

北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発を進めていたとして、それが日本への新たな脅威となるのでしょうか? 現実的には、日本にとって差し迫った脅威ではないと考えられます。

まず、弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発には高い技術力が必要で、そのいずれも実用域に入るには、まだ長い時間が必要と考えられます。

そして、既に日本全土が北朝鮮の陸上発射型中距離弾道ミサイルの射程圏内にある為、北朝鮮が新たに日本へ向けた新型ミサイルを開発する理由が薄いという点です。

弾道ミサイル潜水艦とSLBMとは、敵による核の第一撃を生き延びて、確実に核による報復を行うための高い生存性を備えた兵器システムです。日本が核武装していない以上、日本を相手に北朝鮮が新規で開発する類の兵器ではありません。

では、北朝鮮はなぜSLBMの開発を行っているのでしょうか。北朝鮮の目は、アメリカに向いているものと見られます。



アメリカ本土へ届こうとする北朝鮮の核

2012å¹´12月12日、北朝鮮は人工衛星「光明星3号2号機」の打ち上げと称し、ロケット「銀河3号」の発射を行いました。この打ち上げに使われた銀河3号は、弾道ミサイル「テポドン2」の派生型と見られる3段型のロケットで、弾道ミサイルとして使われた場合、その射程は約1万kmに及ぶのではないかと防衛省は見ています(詳細は、防衛省「北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について」を参照)。1万kmと言う数字はハワイやアラスカのみならず、アメリカ西海岸までその射程に収める事になり、アメリカ本土にまで北朝鮮の核が到達出来る事を意味しています。

北朝鮮を中心とした半径1万km以内の地域

テポドン2とその派生型は、アメリカの目を再び北朝鮮へと向かせましたが、今度はこれに弾道ミサイル潜水艦とSLBMが加わると、アメリカにとって北朝鮮の脅威は無視出来ないものとなってきます。まだ実用化の段階には無いでしょうが、これまでの北朝鮮が着実に弾道ミサイルの射程を伸ばし続けてきた事からも、SLBMの開発も現実味を帯びてくるのかもしれません。

日本にとって、北朝鮮のSLBM開発そのものは脅威としては目新しいものではありません。ですが、北朝鮮がアメリカ本土への核投射能力を増強する事は、アメリカの対北朝鮮外交、ひいては極東におけるアメリカの安全保障政策に影響を与える可能性が出てきます。そうなった場合、一番影響を受けるのが日本になりますので、間接的な意味での「脅威」と言えます。

では、なぜ北朝鮮はここまでアメリカを意識した核とその運搬手段の開発を続けているのでしょうか。今年7月に来日した、世界的に著名なイスラエルの軍事史家であるマーチン・ファン・クレフェルト氏が、イランの核開発について語った言葉がそのヒントとなりそうです。以下に引用してみましょう。


……イランが(核を)求める理由は、イスラエルを恐れているのではなく、アメリカであり、それは当然の理由であると思う。
1980年以降のアメリカは世界各地に侵攻し、次のアメリカの大統領がどこに侵攻するか分からないからだ。
ミロシェビッチ、カダフィ、フセインと言った人々を見れば分かるが、アメリカに対抗できる力を持ってなかった人々だ。
アメリカに抵抗するには、核兵器とその運搬手段が必要となる。



これはイランの核開発についての言葉ですが、北朝鮮についても同様の事が言えます。北朝鮮は過去、実際にアメリカと戦争(朝鮮戦争)、朝鮮戦争は現在もなお「休戦」状態です。後ろ盾だったソ連が崩壊し、中国とも疎遠になる中、北朝鮮は自力で体制を維持しようとしています。その北朝鮮の体制維持にとって最大の障害となるのはアメリカで、アメリカに届く核を持つ事は北朝鮮にとっての死活問題でもあったのです。

2期目のオバマ大統領の任期も残り2å¹´。2016年に行われる次の大統領選挙を見据えた動きが活発化していますが、その中で北朝鮮問題がどう扱われるか、日本にとって目を離せないポイントとなるのではないでしょうか。



【関連】

ロバート・ケネディ「13日間 - キューバ危機回顧録」(中公文庫)

圧倒的な核戦力を持ってもなお、ミサイルの射程圏に本土が収められる事が明示されると過敏に反応してしまうのは人のサガ。そういう過去にあったキューバ危機の例を振り返りましょう。長らく絶版でしたが、今年になって中公文庫から復刊されましたよ。


マーチン・ファン・クレフェルト「戦争の変遷」

クレフェルトで最も知られている著作(日本では「補給戦」なんだろうけども)。戦争を国家の営みとしたクラウゼビッツに対し、戦争は人の営みじゃ刺激的で楽しいんじゃと挑戦的な主張を展開。冷戦後は国家と非国家間の戦争が中心となると書くなど先見の明が光るが、出版されたその日にイラクがクウェートに侵攻したといういわくつきの本。
イスラエルの研究者でありながら、敵対するイランと核抑止による共存は可能と見る冷徹な思想の根源があるかもだ。




2014年12月2日火曜日

各国軍を悩ます秘密と知的財産権

豪国防相の失言の背景

今年4月に日本の武器輸出が事実上解禁されてから、初の大型案件になるかと注目されているオーストラリアへの潜水艦輸出ですが、当事国オーストラリアで一騒ぎ起きているようです。オーストラリアのデビット・ジョンストン国防相が自国の造船会社ASCについて、「カヌーも造れない」と失言の後に撤回したそうです。


【AFP=時事】オーストラリアの国営造船会社ASCについて「カヌーを造る」能力さえ信用できないと発言した同国のデビッド・ジョンストン(David Johnston)国防相は26日、辞任要求を浴びせられつつ発言を撤回した。



オーストラリア海軍の次期潜水艦計画については過去に拙稿 「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」でもお伝えしましたが、競争入札を実施せず、指名でオーストラリア国外で建造して輸入する方向で話が進んでいるとされています。2日にはオーストラリア政府高官が潜水艦調達では入札を実施しない旨を重ねて明らかにしています。

[シドニー 2日 ロイター] - 複数の豪政府高官は2日、次期潜水艦建造計画で、競争入札は行わないと発言した。日本企業が受注する可能性が高まったと言えそうだ。ロイターは9月、関係筋の話として、豪政府が、日本企業に建造を発注し、完成品を輸入する方向で日本と協議している、と伝えている。


仮に入札が行われず、オーストラリア国外(日本の可能性が高い)で大部分が建造された場合、ASCと造船所を抱える南オーストラリア州の製造業に深刻な影響を与えるため、オーストラリアでは国内での建造を求める声が根強くあります。


豪政府が希望しているとされるそうりゅう型潜水艦(海上自衛隊写真ギャラリーより)

しかし、ジョンストン国防相が揶揄したように、ASCが技術的・能力的に様々な問題を抱えているのは事実です。ASCは元々、オーストラリア国内でコリンズ級潜水艦を建造するために設立されたオーストラリア潜水艦企業体(Australian Submarine Corporation:ASC)がその前身となっています。しかし、ASCで建造されたコリンズ級は深刻な問題が頻出し、問題解決に追加費用と長い時間を取られる事になりました。

また、ジョンストン国防相が失言する際に例に出していたホバート級イージス駆逐艦もASCで建造中ですが、計画3隻で2億9900万ドル(約350億円)の予算超過がすでに生じています。建造段階で1隻あたり100億円以上の予算超過するのは日本ではまず考えられませんが、ASCはコリンズ級潜水艦に続き、ホバート級イージス駆逐艦でも問題を起こしている事になります。元々、競争入札で対立候補より安い事が決め手となり採用されましたが、結果的には高く付きました。

ホバート級原型のスペインのアルバロ・デ・バサン級フリゲート(Brian Burnell撮影


ASCだけの問題? 多国籍多企業に跨る知的財産権

では、問題はASCの技術力にあるのでしょうか? 恐らくその通りだと思いますが、理由はそれだけではないでしょう。それを窺わせる記事がオーストラリアの全国紙The Australianにありました(オンライン版の記事が既に有料化し、閲覧出来ません)。オーストラリア次期潜水艦計画を巡る各国の状況を解説した記事で、コリンズ級潜水艦の設計や改修に関わったスウェーデンについてこう書かれていました。


「スウェーデンは良い潜水艦を作るが、スウェーデンの設計を基にしたコリンズ級の改修で、法的な問題により海軍は必要なIP(知的財産権)の取得に数十年を要した。スウェーデンはそれが再び起こらないと主張している」



コリンズ級改修の問題に、知的財産権を巡る法的問題があった事を示唆しています。

問題になったコリンズ級はスウェーデンの設計を基にオーストラリアで建造されましたが、この艦の特色として多くの国・企業が建造に関わっており、建造企業のASCにしても豪欧米企業の出資により設立された事からもそれが窺えます。このような形態の防衛装備開発を各国・各企業の優れた技術を組み合わせた、と書くと一見良い事のように思えます。しかし、建造に参加する企業をまとめるプライム企業(ASC)には、機材の仕様から言語、商習慣に至るまでの様々な違いを乗り越えてまとめ、一つの製品として完成させる為の高いインテグレーション能力が求められます。この障害となるのが、各国・各企業の持つ技術・製品の知的財産権です。

民間企業でも知的財産権の蓄積や管理は、企業の競争性を左右する重要な事項ですが、軍事の世界でもそれは同じです。各国共に秘密や特許により知的財産権を保護し、自国の技術的優位性を確保しようとしています。近年はその傾向はますます高まり、武器を購入して配備している国でも触る事の出来ない「ブラックボックス」と呼ばれる部分が増加しています。下の写真は外国から製造ライセンスを購入し、日本で生産している装備品内部の基板ですが、回路の集積化等によりブラックボックスの範囲が拡大し、日本側で弄る事の出来る部分が僅かになっているのが分かります。


装備品のライセンス生産の基板(防衛省資料より)

このような知的財産権を巡る事情から、コリンズ級の改修に必要な多国籍多企業に渡る知的財産権の取得に豪海軍が苦労したのも頷けるでしょう。製品を購入したとしても、知的財産権から情報開示部分が少なかった場合、その装置の問題を解決するのも難しいでしょう。潜水艦の調達を競争入札で行った場合、多国籍多企業に渡る提案が価格競争上優位になる可能性があるので、限られた国・企業が提供する潜水艦(例:日本製)を安全牌として購入した方がトラブルも無く、安上がりで済むのではないかというオーストラリア政府・軍の思惑もありそうです。現実にコリンズ級潜水艦、ホバート級イージス駆逐艦は共に競争入札で決定されましたが、いずれも中核的部分に多国籍に跨る製品を搭載して問題を引き起こしたのですから、ASCへの不信感と並んで、政府・軍の競争入札への不信感は大きいのではないでしょうか。



求められるASCの能力強化

しかし、仮にオーストラリア国外(日本)での建造が行われた場合、前述したような雇用の問題の他に、配備後のメンテナンス問題があります。現在、オーストラリアで潜水艦のメンテナンスを行っているのはASCであり、次期潜水艦は現行の潜水艦より増勢される見込みですから、ASCのメンテナンス能力の強化は必須となります。仮に日本が潜水艦を受注しても、受注で対立関係にあったASCとは配備後のメンテナンスで何らかの協力関係を持たざるを得ません。

この場合、日本が取るべきは、ASCの能力強化を含むパッケージで潜水艦を提案し、雇用への配慮とオーストラリア国内での継続的なメンテナンスを行える環境作りを支援する姿勢を示す事ではないでしょうか。防衛装備はただ売って終わりという性格のものでなく、より2国関係を深化させる作用も持ちます。現在、日本はアメリカに次ぐ安全保障パートナーとして、オーストラリアとの関係を強化しようとしており、その最中に露骨にオーストラリアの雇用を奪って禍根とするのは避けたいところでしょう。長期的視野に立ち、オーストラリアとの関係を維持し深めていく方策が必要となるでしょう。



これから知的財産権と秘密の壁にぶち当たる日本

ここまで主にオーストラリアの例を挙げて解説しましたが、日本も近々オーストラリアに近い問題が起きるかもしれません。航空自衛隊のF-4EJ改戦闘機の後継として、F-35ステルス戦闘機の導入が決定しており、世界でアメリカとイタリアにしかないF-35の最終組立・修理点検施設(FACO)が日本にも建設される事になりました(FACOの詳細は拙稿「日本に設置されるF-35の”整備拠点”と武器輸出三原則見直し」を参照)。F-35の大規模な修理点検はFACOでしか出来ず、イタリアのFACOはヨーロッパ、地中海諸国のF-35の整備を一手に担い、日本のFACOも日本のみならず、アジア、太平洋沿岸国のF-35の整備を行います。


イタリア。カーメリ空軍基地内のFACO(Google Earthより)

ですが、このFACOという仕組みは、配備国にF-35の重要な整備をさせず、ステルスの秘密をアメリカ国外に漏らさない為のシステムでもあります。FACO設置国も例外ではなく、既に稼働しているイタリアのFACOでは、重要な部分は米ロッキード・マーティン社以外触れないとイタリア側が不満を漏らしているとされています。日本もイタリア同様、秘密の壁にぶち当たり、運用上の問題が出る事になるかもしれません。

このように知的財産権と秘密に縛られたF-35の導入と並行して、F-2支援戦闘機の後継として、日本独自開発の次期戦闘機を選択肢に入れる為の研究は既に始まっています。実際に独自開発に移るかはまだ不明ですが、平成30年頃には方針が決まる予定です。高いコストをかけてまで自国開発の道を残すのは、外国機は高性能でも、前述のとおり自国で触れない部分が増えているという事情があります。機体を知る事は運用や稼働率にも関わるため、出来るだけ自国で弄れる部分の多い装備品を求めるのは当然の欲求でしょう。


防衛省技術研究本部で構想中の次期戦闘機コンセプト

近年、装備品価格は高騰の一途を辿っていますが、日本は防衛費の大幅な増額が見込めない以上、どこまで装備品を国産化し、どこまで外国製で任せるかという難しい取捨選択を迫られる事になると思います。国産化によるメリットが高いと判断出来る装備品や技術に対し、有効な投資を継続し、維持発展させていく事が重要となるでしょう。


【関連】

森本敏 ç·¨「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

元防衛大臣の森本敏氏による武器輸出三原則見直しの背景解説(というか、防衛関係者の対談)。三原則見直しにとどまらず、FACOによるアメリカの技術囲い込み、自国技術の維持問題、価格重視の競争入札により性能が犠牲にされている件など、様々な防衛装備品に関する問題について触れられており必読。

毒島刀也「図解 戦闘機の戦い方」

本題から少しずれるけど、現代の戦闘機がどうやって戦うのか、その戦法やテクニック、技術的背景から解説した、ありそうで今まであまり無かったタイプの本。技術的優位の確保も重要な問題になっていると理解出来ます。良著。







2014年10月15日水曜日

日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情

日本を念頭に進むオーストラリア次期潜水艦計画

武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則を制定し、日本が防衛装備品の輸出を事実上解禁して半年が経ちました。この半年で、早くもオーストラリアとの間で大型商談が浮上しています。今月16日に来日するオーストラリアのデービッド・ジョンストン国防相は、次期潜水艦導入に向けて日本側と協議を行うそうです。「オーストラリア史上最大の防衛調達プロジェクト」とも言われる200億ドルを投じる次期潜水艦計画は、競争入札を経ずに日本のそうりゅう型潜水艦を念頭に交渉が進んでいるとも報じられています。


そうりゅう型潜水艦2番艦「うんりゅう」(海上自衛隊ギャラリーより

オーストラリアが求めているのは、現用のコリンズ級潜水艦の代替となる、長期の作戦が可能な大型潜水艦です。これは、オーストラリアが世界でも有数の排他的経済水域を持ち、その防衛・警備の為に長期作戦可能な大型潜水艦を必要としている為です(詳細は拙稿「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」を御覧下さい)。2014年現在、水中排水量4,000トンを超える大型潜水艦は原子力潜水艦を除くと、日本でしか製造・運用されておらず、オーストラリアの要求に応えられるのは日本のみという事になります。



ドイツの対抗案

ところが、戦後で最も成功した潜水艦輸出国のドイツが対抗案を出してきました。News.com.auによると、ドイツで潜水艦を建造しているホヴァルツヴェルケ=ドイツ造船(HDW)社を傘下に持つティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)社は、韓国、ギリシャ等で採用実績のある輸出向け潜水艦の214型潜水艦(水中排水量2,000トン前後)を基にした4,000トンの216型を提案するそうです。この提案ではオーストラリア国内で建造を行う旨が示されており、アデレードの造船所で潜水艦を建造する選挙公約を掲げていた現政権にとっては重要な点と言えます。報道では日本で潜水艦建造が行われた場合、3,000人の雇用が失われるとしており、野党を中心に日本からの購入に反対する動きが見られます。


韓国海軍の214型潜水艦「孫元一」(韓国海軍写真ギャラリーより)


対する日本はどのような方法でオーストラリアに潜水艦、あるいは潜水艦技術を提供するのでしょうか。日本国内で製造した潜水艦を輸出する方が日本企業の利益となりそうな上、情報保全の観点からは出来るだけ日本で製造したい思惑もありそうですが、そもそも潜水艦建造には高い技術が求められる為、容易に技術移転出来ないという問題もあります。

また、現代の潜水艦は特殊な鋼材を船体に用いている為、建造には高い溶接技術が求められます。中でも日本の潜水艦に使われている”NS鋼”は日本でしか使われていないので、NS鋼を溶接出来る技術者が国外にいません。潜水艦を建造する川崎重工では、溶接の8割以上をロボット化していますが、仮にこの溶接ロボットをオーストラリアに輸出して溶接技術者問題をクリアしたとしても、オーストラリアは高い初期投投資を行う事になります。もちろん、自国建造では国内産業へのリターンもあるので単純な比較は出来ませんが、輸入より割高な物になるのは避けられそうにありません。



過去に潜水艦で痛い目を見たオーストラリア

そして、過去に潜水艦建造で痛い目を見たオーストラリアの事情もあります。競争入札を経て採用された現用のコリンズ級潜水艦は、スウェーデンのコックムス社の技術をベースに、西欧・米国の様々なメーカーの製品を組み合わせ、オーストラリア国内で建造した大型潜水艦です。ところが、船体溶接の問題、騒音問題、戦闘システムの不具合などの様々な問題に悩まされ、その解決に多くの追加投資と時間を費やす羽目になりました。このような過去の失敗から、オーストラリア政府には自国の建造技術と、現物の無い設計案のみのプランへの不信感があるのではないかと思われます。また、オーストラリアと日本は安全保障上の関係を強化しており、日本から潜水艦を輸入する事で両国の結びつきを強めるという思惑もあるかもしれません。


オーストラリアのコリンズ級潜水艦(米海軍撮影)


ここまでのオーストラリアの事情と、各国の強み、弱みをまとめてみましょう。

オーストラリアが求めるもの:長期の作戦が可能な大型潜水艦。
オーストラリアが心配する事:コリンズ級の失敗を繰り返さない。国内雇用の確保。

日本の強み:大型潜水艦の建造実績が豊富。豪と安全保障関係強化中。
日本の弱み:海外販売経験が無く、サポート体制が未知数。

ドイツの強み:豊富な海外への販売実績とサポート体制。
ドイツの弱み:大型潜水艦建造経験無し。ペーパープランのみ。

また、オーストラリア国内では日本の潜水艦を採用することで、中国との関係悪化を懸念する向きが与党の中にもある点に注意が必要でしょう。競争入札を行わないで潜水艦導入を決める事への反対論も多く、14日に開かれた議会公聴会の外では日本を含む外国での潜水艦建造に反対する労働団体のデモも行われています。オーストラリア国内の状況によっては、日本との交渉も白紙になる可能性もあるかもしれません。

日本としても、秘密の多い潜水艦は出来る限り日本で建造したいところでしょうが、オーストラリアとの安全保障関係強化を優先して譲る所も出てくるでしょう。この場合、どこまで相手を信頼するかという難しい舵取りを日本政府は迫られそうです。



【関連記事】

「元艦長に聞く、潜水艦の世界」講演要旨

海上自衛隊の元潜水艦艦長による講演の要旨。通常動力潜水艦の運用や、その優位点、性能等の貴重な話です。



オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つ理由について解説した過去記事です。理由はオーストラリアの広大な排他的経済水域にありました。



【関連書籍】


浅野亮 (編集), 山内敏秀 (編集) 「中国の海上権力 海軍・商船隊・造船 その戦略と発展状況」

前述の元潜水艦艦長である山内氏による中国の海上権力の分析本。軍に留まらず、商船等の中国海洋勢力に言及している貴重な本です。


中村秀樹「これが潜水艦だ―海上自衛隊の最強兵器の本質と現実 (光人社NF文庫)」

やや潜水艦びいきかなと思う点はありますが、海上自衛隊の元潜水艦艦長による著書で、海上自衛隊内での潜水艦の位置付けや乗員の訓練生活が分かります。


白石光「潜水艦 (歴群図解マスター)」

潜水艦とはなんぞや? という解説本において、歴史からメカニズム、運用まで一冊でカバーした手軽な入門書。



2014年8月8日金曜日

「元艦長に聞く、潜水艦の世界」講演要旨

7月19日、神保町の書泉グランデで、「中国の海上権力 海軍・商船隊・造船~その戦略と発展状況」の出版を記念して、著者の山内敏秀氏の講演会が開かれました。

山内氏は海上自衛隊入隊以降、潜水艦畑を歩まれてきた方で、潜水艦についての著書も出されていますが、今回は中国の海上権力についての本を出版されました。その出版記念で、著書の内容とはいささか異なりますが、御自身が艦長まで経験された潜水艦について語って頂くという企画です。

潜水艦の情報は限られているだけに、またとない機会だと行ってきました。潜水艦の運用から、最近話題のオーストラリアとの潜水艦協業、あるいは中国海軍の潜水艦という話もあり、中々耳にしない情報なだけにこちらにレポを残したいと思います。


【講演要旨】

潜水艦乗りが共通して持つ感性は何か。それは音に敏感な事。(dragoner注:音の話ばかりですす。これ重要)


P-3C導入時のエピソード

P-3Cが導入されて間もない頃の訓練で、敵役の潜水艦1隻が4回くらい訓練で撃沈判定を受けた。
あまりに悔しかったので、P-3C乗員を飲み屋で酔い潰して聞き出した所、原因が判明した。
無音潜航にも種類があって、それ以前も無音潜航。哨戒無音先行等があったが、P-3Cの一件以後は「特別無音潜航別報」(なんでもかんでも停止)という無音潜航を作った。



同じモーターでも違う音がする

同じメーカーが作った、同じモーターでも駆動音が違う。音の違いで艦が分かってしまう。特別無音潜航別報が発令されたらなんでもかんでも止める。
潜水艦で特別無音潜航すると、食事係まで連絡がいく。無音潜航する間に食べる量の食材を出して、あとは倉庫・冷蔵庫・冷凍庫を密封する。



特別無音潜航で開けっ放しになるドア

艦内の床には無音シートが敷き詰められている。そして、艦内の部屋のドアは開けっ放しにして、動かない様にロックする事で開け閉めの音を出さないようにする。乗員の私物なども皆固定する。

スイムダイブ(出港後、一番最初のダイブ。「スリム」かもしれない)で急速に潜航し、一番深いところまで入る。水圧により船体の軋む音が聴こえるが、水圧により船体が弾性変形している音なので、聴くと安心する。急速に潜航するので船体が大きく傾くが、私物でコーヒー缶を持ち込んだ隊員がいて、固定不足で転がり、ガランゴロンと船内中に響いた。


音でどこまで分かるか

マンガでシャーシャーというスクリュー音の擬音があるが、あれは意外と正確。1分間に何回音を聞くかで、商船か軍艦かを推測できる。3枚スクリューの商船の場合、1分間に聴こえた音の数を3で割ると軸の回転数になる。

ソナー員によれば、この船はプロペラの先が欠けている、この船はエンジンの調子が悪い、という事まで分かる。



「マダイが愛を囁いている」

海には魚鳴音(ぎょめいおん)が多い。魚の無き声のことで、海ではいろんな魚が鳴いている。ソナー員がある時こう報告した事がある。「マダイが愛を囁いている」。

魚は敵がいる時の鳴き声、エサがいる時の鳴き声で違う声を出している。
「カーペンターフィッシュ」と潜水艦乗りに呼ばれる魚鳴音があるが、何の魚なのか判らない。カーペンター(大工)なのは、大工がカナヅチを叩いているような音から。アメリカの潜水艦乗りに聞いても、「あれはカーペンターフィッシュだ」という答えだった。



トランジェントノイズ

音の分析にはある程度の長さの時間が必要だった。1分間の中に音が入ってくれないと分析できないので、突発的な音の分析手法に悩んでいたが、ある分析手法を考えて解決した。

この時期(7月)の対馬海峡でよく聴く音があり、正体が判らないのでDATに録音して分析した。
正体はハゼの仲間が浮袋をふくらませて、メスをおびき寄せる音だった。

昔、娘が小学校の夏休みの宿題をやっていないというので、家の近くの音を条件を変えてDATに録音し、それを馴染みの業者に解析させてもらった。そこで、ドップラーノイズからサイレンを鳴らしているこの救急車は時速何キロで走っているか、等を分析した宿題を書かせて提出させた。
先生のコメントがクラスで唯一無かった。



中国の潜水艦の音

本に中国の潜水艦のことも書いた。
中国の潜水艦も止まる時は静かになる。走っている時は闇夜に金太鼓鳴らしているくらいの音。
漢級が領海に進入した事件があったが、あれは漢級が母港を出港した時点で日米は分かっている。

2009年にアメリカの音響観測艦インペッカブルに中国船が接近して妨害した事件があったが、あれはインペッカブルによる中国の晋級弾道ミサイル潜水艦の音紋調査だった。
晋級の音は隠し切れないので、中国船が近くで騒いで周囲雑音を作り出す事で音紋調査を妨害していた。

商級の攻撃型潜水艦が配備された頃、横浜のノースドッグに短い期間で33回、米海軍の音響観測艦が来た事があったが、ある日突然全艦いなくなった。

夏級の音は160dbもある。鉄道橋の下で100dbなのだから、これはものすごい音。



海上自衛隊の潜水艦の低騒音化

海自でも潜水艦の雑音低減対策をしている。ハード的な低減法は幾何級数的に費用がかかってしまい、あるレベルを超えると1db減らすだけでとんでもない費用がかかる。
音を海中に伝播しないようにするということは、船体と海の間を切ってしまう事だ。

音の研究について、少なくとも2000年前後は自動車業界が一番進んでいた。協力を求めようとしたが、トヨタは敷居が高いので見せてくれない。ゴーンが来る前の日産はおおらかで、同じ横須賀同士という事で見せてくれて、音の収集・分析ノウハウを頂いた。

潜水艦の音の出処を調査したところ、通風器を固定するボルトが長すぎて船体にあたり、通風器が回転するとボルトを伝って音が艦体から水中に出ていた。これは建造した造船所に行って、修繕工事をさせた。

今の海自の潜水艦はフローティングデッキ(音的に宙に浮いてしまった、船体と切り離された構造)を採用しており音は小さい。今はいかに海中に雑音を放射しないかが焦点。

水上艦も含め、ある一定の期間を過ぎるとどういう音が出ているかを検査する。1000ヘルツ以下の音が遠くまで伝播するので、調べられている。



潜水艦と二酸化炭素

大気中の二酸化炭素濃度はいくつでしょうか。1973年に私が習った時は200ppm(0.02%)でした。今は400ppmにまで二酸化炭素が増えているのを実測で感じる。

ハッチを閉めて、艦内気圧を高める、密閉を確認。
そこで二酸化炭素濃度が1%出ると、頭の動きがボーっとしてくる。濃度が増えると人体に影響。
艦内気圧も上がっているので、高気圧化における血中高炭酸ガス濃度という現象が起きる。

海上自衛隊の検知管は3%以上の濃度を検知出来ない。測ったらずっと3%ということもあったが、3%ということにしておいた。
二酸化炭素濃度3%という空間では、すぐタバコの火が消える。タバコをゆるやかに吸えない環境。

水酸化リチウム(炭酸ガス吸収剤)を床にマットを引いて、その上に撒く。細かい粉塵が出て、咳き込む事もあった。
後に電動の炭酸ガス吸着装置が装備され、搭載したフネに乗っていたが、使った経験は一回も無かった。吸着装置を回すために電気を使うため、電気の無駄と使わなかった。



潜水艦とタバコ

潜水艦乗りはタバコを吸う人が多い。76年頃、フネでパイプが流行った。乗員の3分の2も吸っていて、艦長もマッカーサーばりのコーンパイプ持っていた。ハッチをくぐった瞬間、煙で前が見えなかった事もある。

艦内が禁煙になることもある。その時は潜水艦がシュノーケルを出して換気を始めようとする瞬間までタバコ加えた人がいた。

シュノーケルを出すと、艦内の弁を全て閉め、ディーゼル・エンジンを回すと艦内の空気が全部ディーゼルに吸われていき、それから弁を開けると新鮮な空気が入ってくる、これを5回繰り返すと艦内の空気が入れ替わり、タバコが吸える。



潜水艦のトイレ

艦内に排泄物を貯めておくサニタリータンクは2つあり、潜行中はタンクに高圧空気を注入して海中に排出する。その排出後、サニタリータンクに入れた高圧空気は、再び艦内に戻ってくる。
潜水艦乗りは変な匂いがすると言われるが、いくら洗っても服に染み付いている。
トイレでトイレ内の圧力が低いと、タンクから逆流する事がある。


潜水艦と健康

潜水艦乗りは耳抜きが重要。これがうまくいかず、鼓膜が破れた幹部がいた。
風邪をひくと大変なことになる。耳ぬき出来ない。

虫歯も辛い。艦内の気圧が低下すると、虫歯穴が痛みだしてくる。
呉には潜水艦に理解ある歯医者がいた。歯の治療は何回も通院しなければいけないが、航海に出る潜水艦乗りはそれが難しい。予約が一杯でも優先してすぐに治療してくれた。とにかく虫歯の穴に詰めものして、帰ってから詰め直すなどしてくれた。



脱出訓練

脱出訓練では、潜水艦内の乗員を救う。
1939年の潜水艦スコーラスの沈没事故では、初めてサルベージ(船体引き揚げ)によらない、レスキューチャンバーによる救出が行われた。これは沈没した潜水艦にチャンバーを密着させ、ハッチから救出する仕組み。

もう一つの救出法(脱出法)はスタンキーフード。乗員がスタンキーフードを被って脱出する。今は江田島に施設があるが、昔はハワイの100フィート水槽で行っていた。
スタンキーフードが破れてしまった時は、生身の人間が上がっていく。息を吐き続けながら、吐いた泡より遅いスピードで浮いていかなければならない。(dragoner注:そうしないと水圧の変化により、肺が破裂する)
100フィート水槽には、巨大なセクシーな女性のピンナップが描かれている。水槽から上がると教官がいて、「どうだった?」と聞かれる。そこで「なにが?」と聞くと、もう一回潜らされ、親指を立てると合格になる。



潜水艦と食事

3自衛隊で、陸だけ食事は当番制を取っている。イベントで行く機会があっても、陸で食べていけない。
行くなら海。私は陸で言う「温食」という言葉を知らなかった。海は必ず温かい食事を出す。海はメシにうるさい。
ご飯を必ず胚芽米にする艦長がいた。肉も霜降りは駄目、赤みだけのステーキだった。

なにがなんでもパン派の艦長もいて、パンをカビさせないため、アルコールを噴霧し密閉保存していた。

調理を専門にする隊員はすごい努力をしている。雪印などで常温90日もつロングライフ牛乳があるが、あれはもともと潜水艦用に開発されたものだった。
同じようなものにロングライフ豆腐があったが、日本で売れず、アメリカで売れた。

潜水時、赤の蛍光灯下では、何を食べても味がわからない。



艦長になっていいこと

艦長になる、と自分の都合で艦橋に降りたり出たりする事が出来た。
しかし、艦長は寝れない。艦長は潜水艦でたった1人の1段ベットだけど、それでも寝れない。
水上艦と違い、潜水艦では艦長が戦術単位の指揮官。今は衛星電話があるので、直接司令部から命令がくる。昔は電報を受信出来なかった事にすることもあった。


【質疑応答】

質問:帝国海軍の潜水艦には軍医が乗艦していたが、海上自衛隊ではどうなのか?


医者はいないが、看護長はいる。看護長が薬事法違反だが、薬を出している。
薬事法違反になるので麻酔は使えなかったので、指を裂傷した人を4人で押さえつけて縫った事がある。
ただし、アメリカでの訓練等の長期航海に出る時は、医官が臨時勤務で乗艦する。
冬場には風疹で困る事があった。艦内に感染症持ち込まれるとすぐに広まる。
酷い時は半分がインフルエンザでやられた。風疹で副長がヘリで運ばれた事もある。



質問:オーストラリアへの潜水艦輸出が最近言われているが、どういった所を魅力に感じているのか。


海上自衛隊の潜水艦より静かな潜水艦は原則ない。
外に伝搬する通路を全て切ってある。
また、ヨーロッパの潜水艦は北大西洋の冷たい海で活動しているが、日本の潜水艦は寒い所から温かい所まで活動している。南の海でシュノーケルで外気を入れると、室温が42、3度、湿度100%。コンピュータがダウンしたこともあった。今は改善している。


質問:先ほど喫煙の話がありましたが、大戦中の米潜水艦は艦内の水素濃度が1%を超えると禁煙になったというが、海上自衛隊ではあったのか。


保守管理で月1で均等充電というのをやる。バッテリーを空っぽにして、一気に充電する。
この間は水素が出るので禁煙だが、停泊時にやるので乗員は外に出ている。
通常の航海で水素が出るような充電はしない。



質問:原子力潜水艦を持つべきだと思いますか。


潜水艦である程度秘匿性を保ちつつ推進出来るのは15ノット以下。
原子力潜水艦は機関を止めても、高温高圧蒸気のパイプの音は決して消す事が出来ず、通常潜に比べ静音性に劣る。
フォークランド紛争でイギリス海軍が費やしたリソースの大部分は、アルゼンチン海軍の通常動力潜水艦を警戒した膨大な対潜努力。このロスが測りきれない効果を持つ。



質問:潜水艦の増勢の方針についてどう思われますか。


元潜水艦乗りにも喜んでいる人がいるが、喜べない。潜水艦要員養成の事を考えていない。
潜水艦16隻は重要海峡に3ローテーションで貼り付ける為という理由付けがされているが、今回の増勢でもそうなのか。

防大60年の歴史で、潜水艦適性があるのを優先してとったのは私がいた防大14期のみ。
潜水艦教育訓練隊の物理的なマスが飽和している。物理的な能力拡充無しに潜水艦拡充が決まっている。



質問:中国の潜水艦について


中国の潜水艦は海底のドロ巻き上げながら高速で動いている。
黄海の水深4,50メートルのところを、海底から10メートルで高速で突っ走っているので、潜水艦が通ると、海底のドロを巻き上げ黄色い帯が出て空から分かる。

潜水艦に関しては中国海軍のやっていることが分からない。何の脈絡もない。
中国では「上に政策あり、下に対策あり」という言葉があるが、上のベストチームがやったものは素晴らしいが、下の造船所に降りると同じ潜水艦でも悪くなるという事があるのではないか。
しかしながら、要員養成は間違いなく中国の方が日本よりちゃんとやっている。

また、中国PKOやリビアからの自国民避難など、これまで独立して動いていた中国海軍が、外交部や交通運輸部、商務部と連携をとるようになった事は注目される。




以上で講演は終了です。

潜水艦は注目されているが秘密が多い分野なだけに、実際に指揮を執られていた方の生の声は非常に貴重で、教育リソースが不足している状況で潜水艦を増勢する事への憂慮等は知る方だからこそ出た声で、これは広く知られて欲しく思います。

また、中国についても様々言及して頂きました。中国の海上権力の本の出版記念だから、ある意味本筋ですが……。中国海軍の軍備整備で潜水艦が脈絡無いというのは同感で、近年顕著な空母や駆逐艦、フリゲート艦の整備と比べて、中国の潜水艦の整備方針は異質です。ちょっとよくわかんない。

中国軍についての本についてもご紹介頂き、「中国の海上権力」共著者の浅野亮同志社大学教授の「中国の軍隊」も薦められておりました。両方とも入手して、サイン頂きました……。



関連書籍】

「中国の海上権力 海軍・商船隊・造船~その戦略と発展状況」

「中国の軍隊」






2014年6月2日月曜日

オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ

最近、イギリス旅行にかまけて記事更新を怠ってきましたが、そろそろ通常モードへ移行したいと決心を新たにするdragonerです。

さて、ロイター通信が伝える所によれば、オーストラリアは日本の潜水艦技術に関心を持ち、潜水艦の共同開発等について調整を行っているようです。

[東京/キャンベラ 29日 ロイター] - オーストラリアが関心を寄せる日本の潜水艦技術をめぐり、両国間の協議が本格的に前進する可能性が出てきた。防衛装備品の共同開発に必要な、政府間協定の年内締結が視野に入りつつある。エンジンを供与するだけでなく、日本が船体の開発にも関わる案など、具体的な話も聞かれるようになってきた。ただ、日豪ともに国内での調整課題が多く、実際に計画が合意に至るには、なお時間がかかる見込みだ。

以前からオーストラリアが日本の潜水艦技術に高い関心を示している事は国内外で報道されていましたが、日本政府との調整や潜水艦開発の具体的な内容が報道されるまで話が進んできたようです。現在のところ、オーストラリアは12隻の新型潜水艦の導入を検討していますが、これにどのような形で日本が関わるかはまだまだ予断を許しません。


海上自衛隊の最新鋭潜水艦 そうりゅう型

では、オーストラリアは何故日本の潜水艦技術に興味を持っているのでしょうか。それを考えると、オーストラリアの置かれた立場や狙いが見えてきます。


数か国しかない潜水艦開発国

潜水艦は高い技術が要求される上、秘密にされる部分が多く、自国で建造できる国は限られています。

今現在、潜水艦を自国で開発・建造できる国としては、米英露仏中の核保有国の他にドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、インド、そして日本が挙げられます。このうち、現在は原子力潜水艦のみ建造している国は米英印で、ディーゼルエンジンを搭載した通常動力型潜水艦の建造技術を持つのはそれ以外の8カ国となります。更に言うなら、イタリアとスペインは共同開発という形で、主要技術をドイツ、フランスに委ねていますので、自力で開発できる国はもっと少なくなります。

また、政治的事情として、アメリカと関係の深いオーストラリアが、ロシアや中国から潜水艦を導入するとは考えられません。よって、これらの国は除外されます。すると、オーストラリアが取れる選択肢はドイツ、フランス、スウェーデン、日本の4つに限られてきます。



オーストラリアの求める潜水艦像

では、オーストラリアが求めている潜水艦とは、どのようなものなのでしょうか?

オーストラリアのコリンズ級潜水艦。多くの不具合が明らかになっている

現在のオーストラリア海軍に配備されている潜水艦は、スウェーデンのコックムス社の協力により1990年代にオーストラリアで建造されたコリンズ級です。スウェーデンは自国での潜水艦開発が出来る数少ない国で、これまでもヴェステルイェトランド級、ゴトランド級などを開発していますが、いずれも排水量は1,000トン台の小型潜水艦でした。しかし、コリンズ級は3,000トン級の通常動力型としては大型の潜水艦で、オーストラリアが単なるスウェーデン海軍仕様のままの小型潜水艦を欲していなかった事が窺えます。しかし、現在配備されているコリンズ級は、開発当初から様々なトラブルに見舞われており、改善事業に多くの予算を費やしていて、評判は今ひとつよくありません。

冒頭のロイターの記事によれば、コリンズ級後継は4,000トン級という条件が付けられており、オーストラリアの強い大型潜水艦志向が窺えます。通常動力型で4,000トン級もの排水量を持つ潜水艦は、現在は日本以外作っておりません。

大型潜水艦は小型潜水艦より取得コスト・維持コストが高くなります。オーストラリアはリーマンショック以降の財政難により、大幅な国防費削減に見舞われています。そのような状況にも関わらず、なぜ高コストな大型潜水艦を望むのでしょうか。


広大な海域を守らなければならないオーストラリア

潜水艦はミサイル攻撃や魚雷攻撃等の派手なイメージがありますが、その主な任務はパトロール、情報収集、哨戒といった隠密性を活かしたものです。これらの任務は平時有事問わず、継続的に長期間行われるため、潜水艦には長期間作戦可能な能力が求められます。この長期作戦能力に重要な要素となるのが、潜水艦の規模です。潜水艦の内部容積が大きいほど、人員や食料、バッテリーが収容できるので、長期の作戦行動に有利になります。オーストラリアの領海と排他的経済水域を足した面積は、世界第2位の約899万平方キロメートルと広大で、6位の日本の倍の広さを誇ります。

排他的経済水域面積、上位7カ国


この広大な海域の権益を守るため、オーストラリアは長期行動可能な大型潜水艦を求めているのです。

では、ここでオーストラリアが取れる選択肢をリストアップして、比較してみましょう。

オーストラリアの潜水艦選択肢

この比較から、オーストラリアが求める大型潜水艦を建造しているのは、選択肢にあるのは日本のみという結果になります。コリンズ級の時と同じく、拡大した設計をヨーロッパのメーカーに求める手もありますが、コリンズ級の開発で失敗した手前、同じ手で失敗を繰り返すリスクを避けたい思惑から、自国で大型潜水艦を設計・開発・運用している日本に大きな関心を抱いても不思議ではないでしょう。

コリンズ級後継艦計画は、現用のコリンズ級6隻を新型潜水艦12隻で置き換える大規模なもので、「オーストラリア海軍史上最大の計画」と呼ばれています。財政難の中でもこのような計画を持っているのは、それだけオーストラリアが海洋とそこから得られる利益を重視しており、莫大な投資に見合うものだと考えている事の証左と言えます。

問題は日本がどこまでオーストラリアに技術を提供できるのか、という判断にかかってきます。オーストラリアはコスト低減や自国企業の利益の為に、自国での建造を含めた技術移転を要求すると思われます。日本にしてみれば、潜水艦は秘密の部分が多いので、出来るだけ技術を国内に留めたいでしょう。この手の技術交渉は破談する事も多々あり、最近も戦車エンジンの技術供与を申し入れていたトルコの提案を、日本は断っています。

まだまだ課題は山積みですが、潜水艦のようなセンシティブな技術情報を共有する事は、それだけ両国の関係が緊密化した事の証であるとも言えます。オーストラリアは日本が情報保護協定を結んだ3カ国目の国で、秘密情報の共有の素地は整っています。あとは政治的決断にかかってきますが、その決断が両国にとって良い結果となればと思います。



【関連書籍】

本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種 (光人社NF文庫)

これが潜水艦だ―海上自衛隊の最強兵器の本質と現実 (光人社NF文庫)


上記2冊はいずれも海上自衛隊の元潜水艦艦長による、潜水艦の任務や戦い方についての本。多少、潜水艦贔屓に過ぎるのではないかというきらいはあるものの、潜水艦の特性を知り尽くした人が書くだけあって、示唆に富んでいます。


潜水艦を探せ―ソノブイ感度あり (光人社NF文庫)


先ほどとは変わって、潜水艦を狩る側からの本。潜水艦がいかに厄介か、それを探知するのにどれだけ苦労するかを知ることで、逆に潜水艦の価値がどういうものか分かります。