水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

フジテレビ前デモを見て思う、しみじみ「歴史は繰り返す」感じ

フジテレビ抗議デモ 数千人規模の人が集まり無事成功に終わる


左翼と右翼の分水嶺

最近だと、年越し派遣村の頃に似たようなデモの萌芽がありました。「あれはサヨクでこっちはウヨクで真逆じゃん」と思われるかもしれません。でも、この二つのデモは同じものだと思います。根底にあるのは貧困や格差、社会への不満、怒り、不安。その時、自分たちの苦しみの原因が「強欲な大企業と資本家どもだ」と思えばサヨクに、「不埒な外国どもが神聖なる日本を侵している」と思えばウヨクになります。手のひらと手の甲のように、真逆を向いて見えても実態は一つの「手」。「自分たちは誰かのせいで苦しめられている」という被害者意識です。

悪役は強大でなければ務まりません。ラオウはラオウだからこそ最高の悪役でした。派遣村の時は、その直前に「経常益、史上最高を更新」だの「バブル期を越える好決算を発表」だのを連発していたため、一瞬、大企業に悪役が務まりそうに見えました。でも、その後の日本企業の弱体化はご存じのとおり。今の日本企業ではジャギ様程度の役がせいぜいでしょう。悪役がジャギ様では世紀末救世主伝説は成り立ちません。それより、GDP世界第2位となった中国や、日本企業を絶賛追い越し(突き放し?)中の韓国の方がよほど悪役にふさわしい。だから今回のデモはウヨクに染まりました。

「赤狩り」の歴史

今回のデモ参加者の心に渦巻いていたのが反韓・嫌韓のドス黒い怒りと嫉妬だったのは想像に難くありません。しかしデモは「フジテレビの放送内容への抗議」というタテマエになりました。その理由は二つあるでしょう。
一つは、彼らがこれまで散々、中国や韓国で行われる反日デモを馬鹿にしてきた都合があります。「民度が低い」と罵倒してきた相手と同じ事をするのはみっともなくて躊躇われます。糾弾すべき別の口実が必要でした。
もう一つは「赤狩り」の再現でしょう。
第二次大戦終了後、ソ連の強大化・軍事的脅威にショックを受けていたアメリカで、一時国家的ヒステリーのように流行したのが赤狩りでした。つまり、ソ連が『自力で・実力で』あんなに強くなるはずがない。アメリカ国内に『裏切り者・協力者』がいて、だから奴らは力を付けているに違いないという、いわば言い訳探しです。フジテレビは日本版赤狩りの標的第一号と言えます。
赤狩りはたくさんの冤罪を生み、無関係な人が誹謗され職を追われました。今回、フジテレビに関しては、まだ韓流ブームをごり押しした実績がありますが、「フジにたくさんスポンサー契約している花王も売国奴だ」として不買運動に走るのは無理筋でしょう。花王は売上高1兆1800億円余、グループ全体で3万4000名余の雇用を抱え、無数の取引先もあるでしょう。業績が悪化すれば多くの日本人が苦しむ事になりますが、まぁ不買運動をしている人にとって全ては「愛国無罪」なのかもしれません。
また、本家赤狩りではチャップリンなど芸能人も多くバッシングの対象になりました。こちらでも芸能人のBLOGなどを踏み絵代わりに「親韓派探し」をする動きがあるのも似ています。

「Notorious MITI」の歴史

韓国企業や韓流コンテンツブームの背後に国家ぐるみの陰謀やバックアップがあるとする論説も、懐かしくて涙が出ます。
かつて70年代80年代、日本企業が欧米市場を席巻している頃も全く同じ事が言われました。黄色い猿のjapごときが我々を圧倒できるはずがない、何か裏があるはずだ。調べたところ、連中の背後に国ぐるみのプロモーション「株式会社日本」システムがあった。そして、連中の総司令官はツーサンショウという役所らしいぞ、と。そしてNotorious MITI(悪名高き通産省)という伝説が生まれました。プ、プ、プ。
いや、実際通産省は日本の産業振興に努めてましたよ。だってそれが仕事だもん。だけど、sonyのテレビやHONDAの自動車が売れたのは通産省様のおかげじゃありません。企業自身の努力の成果です。支援どころか、当時通産省は本田が四輪自動車の生産に乗り出すのを潰そうとしていました。それだけでなく、通産省が巨額の予算を投じた国家的プロジェクト!は死体の山です。*1
韓国も、各省庁が予算と権益を拡大すべく、所管産業の育成バックアップに努力しているでしょう。それはむしろ当然でウヨクの人の論説も間違いではないでしょう。でも、成果が出ていて国が背後にいるからといって、成果が国の支援のおかげだと考えるのは早計です。韓国も日本も官僚の本質は変わりはしません。連中は、成功した事業に寄生して「我が省庁のプロジェクト大成功」を強調し、利権をかすめ取ってエラソーにしているのです。日本には聞こえてこなくても、本田宗一郎氏が通産省で噴火したように、韓国でも民間企業の経営者に「テメェら余計な指図すんな。邪魔なんだよ」と言われている(思われている)事例がたくさんありますよ。
話が逸れちゃいますけど、中国の新幹線だって同じです。国家の威信をかけた事業なのに、共産党と癒着した企業どもが受注を独占し、いいかげんな技術いいかげんなシステムの寄せ集めで悲劇を生みました。官僚が仕切ってロクなことはありません。
韓国だけ、優秀でしかも腐敗しない官僚ばかりいるはずはありません。恐れるべきはMITIでなくsonyやHONDAだったように、恐れるなら韓国の国家的陰謀(笑)より民間のHYUNDAI、LG、Samsungでしょう。あ、あと少女時代も。

「鬼畜米英」の歴史

日本のマスコミは、今回のデモを黙殺しました。このデモは珍事=報道する価値のない出来事だったのでしょうか?。
そうは思いません。「テレビ局の放送内容が気に入らない」というのは、なかなか前代未聞のデモの理由かもしれません。それでも1000人規模の人が集まったということこそ、極めて重要な「社会の限界突破」の証拠だと思います。
つまり、今の日本の一部、特に若者層に、何でもいいからプラカード振りかざして声を嗄らしてシュプレヒコールを上げずにはいられない程の「鬱憤」が蓄積しているのです。重要なのはデモの理由でなく、デモが起きたと言う事実です。
鬱憤の正体は最初に述べたように、若年層に蔓延する貧困や低所得、格差、雇用の不安定、将来への悲観、不安、焦燥、社会への不満、苛立ち、etc.etc.。自分たちの苦しみには原因があるはずで、その原因に都合良かったのが目下勢いのある韓国・韓流だったのです。第一次世界大戦後、経済が破綻しハイパーインフレと世界恐慌に襲われたドイツで「ゲルマン民族は世界一優秀だが、ユダヤ人のせいで苦難を強いられている」という主張が受けたのと同じ構図です。
もちろん日本はそこまで追い詰められても社会情勢が悪化してもいませんし、デモ参加者数も1000-2500名程度。デモの仕方も、ごく穏当でした。(21日はどうなるのかな…。)それでも、かつて一億総中流と呼ばれた国で長らく起きていなかった、ある一線を越えた出来事であり、若者の中で鬱積し膨張しつつある闇は社会にとって重要な問題だと思います。

派遣村デモは報道するマスコミが今回のデモを黙殺したのは、大企業を批判する記事は彼らにとって正義だが、外国・アジア諸国を悪者とする国民の行動を記事にするのは戦時中の鬼畜米英記事やアジア植民地を見下した記事を思い出すのでイヤなのでしょう。

しかし、例えば中国で反日デモが起きる度に「表面的には反日デモだが、根底には深刻化する中国の貧富の格差が…、反政府デモに変化する恐れも…」と評論したり、現在進行中の英国の暴動でも

失業や歳出削減に対する若年層の不満が、暴動に拍車をかけている。(朝日)
一連の暴動の背景には、厳しい経済状況のなか、政府が推し進めている緊縮政策に対する、若者を中心とした市民の強い不満があると指摘されています。(NHK)
キャメロン政権は昨年5月の発足以来、財政再建を最大の政策課題と位置付けている。財政危機を未然に防ぐため「主要国で最大規模の歳出削減に取り組む」と宣言。国民の抗議行動を再三受けながら、消費税増税や失業対策の予算カットを矢継ぎ早に実行してきた。(日経)

と、暴動の「背景」をご丁寧に解説しているのに、足元の日本で起きた事は放置と言うのは大変残念です。

*1:リンク先の2003年の池田センセが若い!!