水色あひるblog

はてなダイアリー 「mizuiro_ahiruの日記」 から引っ越しました。

自由貿易を阻止する違憲な制度

菅総理がTPP参加への意欲を示した途端、反対の大合唱が起きています。与党側は「TPPに関する緊急勉強会」という名の反対グループを形成。発起人は鳩山由紀夫前首相や国民新党の亀井静香代表、山田正彦前農水相などが名を連ねて、衆参あわせて114名が参加。自民党も同様に「TPP参加の即時撤回を求める会」なる会合に92名が参加。大勢力です。
農水省のデータ*1によると、日本の農家人口は平成21年現在698万人で人口比率5%となっています。人口に比例すると、衆参両院722人中40人程度を当選させるだけの力しかない弱小勢力のはずなのに、与野党で200人以上の議員を動かしています。何故これほど多くの議員が少数の農家に支配されるのでしょう?。その原因を、選挙制度=一票の格差に求めてみたいと思います。

グラフ(1)の横軸は、各都道府県別の農家人口の比率*2で、左端の東京の0.3%から右端の秋田の23%まで大きくバラツキがあり、意外と農家人口比率の高い県が少なくないことが分かります。(約15%以上の県が10あります。)それでもせいぜい15-20%ですが、もう一つの要素があります。
それが、一票の重みです。表のタテ軸は、参議院議員の一議席当たりの有権者数です。一番上の神奈川県は730万人で6議席なので、議員を一人出すのに有権者が122万人必要なのに対し、一番下の鳥取県は48.8万人で2議席割り振られているので、24.4万人で議員を一人出せるわけで、一票の重みに5倍の格差があります。グラフの下ある県ほど票が重い=少ない有権者で多くの議員を決める権限を与えられていることになります。鳥取県民は神奈川県民と比べると五倍の率で議員を決められるのです。
このタテ軸横軸で47都道府県をプロットすると、明らかに右下がりに分布します(黒線が線形の近似曲線です)。つまり、「農家人口の多い県ほど票が多く割り当てられている」状況で、これが農家が実数以上に過剰な政治支配力を持っている原動力です。

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もう一つ、別の要素を取り上げます。池田信夫氏がアゴラに書いている記事を以下に引用します。

農業土木に投じられる予算の大部分は、農業とは無関係の建設業に落ちる。(中略)今や地方経済を支えているのは、こうした補助金がらみの寄生産業であり、農家に投入される年間3兆円の補助金は、その何倍もの雇用を生んでいるのだ。

http://agora-web.jp/archives/1127236.html

政治を支配しているのは農村票よりも、その背後で農業を口実とした公共工事=農村利権に寄生している産業だ、という趣旨です。というわけで、公共事業を横軸に同じグラフを描いて見ます。

グラフ(2)の横軸は「公共工事従事人口比率」というデータはないので、「人口一人当たりの公共機関からの受注工事請負契約額」というのを使いました。*3
横軸の右に行くほど、公共工事で食っている人の比率が高いと推測できます。タテ軸はさっきのグラフと同じです。するとやはり、キレイに右下がりの分布になり、公共事業依存度の高い県ほど票に対して多くの議員が配分されていることがわかります。結果、農業を口実とした公共工事が減ると困る人=農業保護に賛成する政治家に投票する人が、実数以上に過剰な人数の議員を送り出す権利を握っています。

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(農家+土建業者)×不平等な票配分=民主&自民で計200人以上がTPPに反対する政治支配力

の方程式です。

最大5倍の「一票の格差」が生じた今年7月の参院選(選挙区)は憲法が定める平等原則に違反するとして、弁護士グループが選挙の無効を求めた2件の訴訟の判決が、17日の午前と午後に東京高裁で相次いで言い渡された。東京選挙区を対象にした午後の判決(南敏文裁判長)は「十数年にわたり投票価値が不平等な状態が積み重なり、国会の裁量権の限界を超えて違憲だ」と判断した。ただし、選挙の無効請求は棄却した。
(中略)
 一方、別の弁護士グループが起こした訴訟では同日午前、東京高裁の別の担当部が「合憲」とする判決を言い渡しており、判断が分かれる結果となった。

http://www.asahi.com/national/update/1117/TKY201011170233.html

菅総理は、党内の反対勢力を必死になって説得するよりも、憲法違反の選挙制度を改革すればいいのではないでしょうか。
議員は票のいいなり、票に逆らうことはできません。悪いのは保護派の議員でなく、保護派になった方が当選できてしまう今の選挙制度です。一票の格差をなくし、農家と地方の土建業者が握っている不当な「過剰投票権」を取り上げれば、彼らの過剰な政治支配力は消滅します。支配力が無くなれば、説得などしなくても議員は農家・土建業者から逃げ出し、実数に基づく新たな多数派に服従するのではないでしょうか。

*1:この中の農村の現状を参照

*2:グラフは(1)(2)ともこのデータで作っています。「第2ç«  人口・世帯」と「第7ç«  農林水産業」で、数字はともに平成17年時点のものです。この時点での農家人口の対総人口比率は6.6%です。

*3:この「建設工事受注動態統計調査」の中の「公共機関からの受注」の「年次」データ、2007-2009年の3年分を平均して、それを各県の人口で割りました。