インドネシアでイスラム教団体の脅迫のためIDAHOイベントが中止に

インドネシアのジョグジャカルタで、2010年5月22日に予定されていたIDAHO(ホモフォビア・トランスフォビアに反対する国際デー)イベントの開催許可を地元警察が取り消し、アクティヴィストらに抗議されたというニュース。

このIDAHOイベントには正式な許可が出ていたのですが、イスラム擁護戦線(Islamic Defenders Front、FPI)から暴力的な脅迫があったとのことで、地元警察がオーガナイザーに許可の撤回を申し入れてきたんだそうです。

ちなみにイスラム擁護戦線というのは、先日同国でのILFAアジア会議をやはり脅迫でやめさせた*1のと同じ団体だとのこと。

警察は主催者側に「イベントを行えば参加者の身の安全は保証できない」などと説明し、主催者はイベント開催を断念。その代わりに当日、警察への抗議を表すため、この地区でよく使われているタンデム(2人乗り)用レンタサイクルを使った大規模なサイクリングイベントを行ったとのこと。主催者のひとりは以下のように説明しています。


「土曜日の夕方で、借りることのできるタンデム自転車がたくさんありました。それを利用しようと考えたんです。脅しにかかわらず姿を現すことで、私たちはまだ抗議を示すことができたし、それもこの地区で普通に行われている行動を通じてやることができたんです。こうすれば警察には私たちを追い払う理由がありませんからね」
“It was a Saturday evening and there were lots of tandem bicycles available for rent. We thought why not use them to our advantage. We could still protest by showing up in spite of the threat, and we could do so in an activity that is common in that area. That way the police would have no reason to kick us out,”

このサイクリングイベントに集まったのは約50人ほど。途中で「イスラム擁護戦線が来る」という情報が入って散会したそうですが、メンバーの中にはイスラム擁護戦線が鉄の棒を振り回しながらジープやトラック、オートバイなどの乗ってやってくるところを目撃した人もいるそうです。

なお、この自転車での抗議イベントは、シンガポールの「ピンク・ドット」*2にインスパイアされたものだとのこと。以下、企画者の弁です。


『ピンクドット』が反撃の仕方を教えてくれました。『ピンク・ドット』のおかげで、単なるピクニックでさえ大胆なメッセージになりうるとわかったのです。だから私たちは、ジョグジャカルタのやり方で反撃を行いました。
The Pink Dot rally gave us an example of how we can fight back. It showed us that even a simple picnic can send a bold message out. So we fought back the Jogja way.

ちなみにジョグジャカルタって、あの「ジョグジャカルタ原則」のジョグジャカルタなはず。なのに、その場所の警察が「公共の安全と秩序」を言い訳に性的少数者の保護を放棄しているということに軽く失望しました。よくあることですが、性的少数者は「公共」の仲間には入れてもらえてないみたいですねトホホ。

あと、シンガポールの「ピンク・ドット」が他国にまで影響を及ぼしていることが興味深かったです。シニカルな人なら「ピンクの服を着て公園に集まって何になる?」と言いそうな「ピンク・ドット」ですが、少なくともインドネシアのセクシュアル・マイノリティたちを大きく力づけていることは間違いないわけで、なんだか嬉しく思いました。

最後にもうひとつ。こうしたニュースを見て「やっぱり『イスラム教は』怖い」と思ってしまった方のために、元記事のコメント欄を訳しておきます。どうやら、自転車イベントに参加した方の書き込みのようです。

  1. 私たちは、暴力的な愚行で悪名高いFPIという特定の原理主義者グループに脅迫されました。
  2. 問題は、私たちが警察から受けるに値する保護を受けられなかったということです。
  3. 私たちのイベントに来た人の大半は、イスラム教徒でした。(私自身はカトリックです――マドンナがカトリックなのと同じような意味で、だけれど)だから、一般化をともなうコメントはとても気になります。自転車に乗っていた人には、ヒジャーブを着用している人もいました。ヒジャーブを身につけることや、唯一の神を信じることは、人権のために戦えないとうことを意味しません。
  4. 私たちはイスラム教に抗議していたのではありません。私たちは神を信ずるならず者と、彼らのひどく差別的な信念と、彼らの暴力に抗議していたのです。
  1. We were threatened by a very specific fundamentalist group, namely FPI that is infamous for their violent antics.
  2. The problem is that we did not get the protection we deserved from the Police.
  3. A large majority who came to our event were Muslims. (I myself am a Catholic -- though I am a Catholic just like how Madonna is a Catholic.) So I do mind comments with generalization. Some of the cyclist wore Hijab. Wearing a Hijab or believing in the one and only God, DOES NOT mean you cannot fight for Human Rights.
  4. WE were not protesting against Islam. We were protesting against religious thugs, THEIR oppressive belief, and THEIR violence.

非常に示唆に富むコメントだと思います。悪いのはイスラム教ではなくて、宗教をかさにきたならず者たちと、そのならず者の脅しのままにイベント参加者の保護をあっさり断念した警察なわけです。「イスラム教は」怖いとか「インドネシアは」怖いとか言って思考停止せず、こういうところをきちんと押さえておかねば、と思いました。

単語・語句など

単語・語句 意味
Islamist イスラム教原理主義者
rescind 無効にする、廃止する、撤回する
antic 異様なふるまい。愚行