泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

差別を生むから「障害」を「症」に、ではない

「障害」を「症」に 精神疾患の新名称公表(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140528-00000557-san-hlth
 この記事は、精神神経学会の発表内容をだいぶ略していて、誤解を招く。以下に日本語訳の全文と検討経緯の説明がある。
DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン
https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/dsm-5/index.html#maintitle
 説明には、こうある。

 病名・用語を決める際の連絡会の基本方針を以下に列挙する.
1.患者中心の医療が行われる中で,病名・用語はよりわかりやすいもの,患者の
理解と納得が得られやすいものであること,
2.差別意識や不快感を生まない名称であること,
3.国民の病気への認知度を高めやすいものであること,
4.直訳が相応しくない場合には意訳を考え,アルファベット病名はなるべく使わないこと,などである.
 連絡会は各専門学会が練り上げた翻訳案を最大限尊重した.例えば,児童青年期の疾患では,病名に障害とつくことは,児童や親に大きな衝撃をあたえるため,「障害」を「症」に変えることが提案された.不安症およびその一部の関連疾患についても概ね同じような理由から「症」と訳すことが提案された.さらに連絡会では,disorder を「障害」とすると,disability の「障害(碍)」と混同され,しかも“不可逆的な状態にある”との誤解を生じることもあるので,DSM‒5 の全病名で,「障害」を「症」に変えた方がよいとする意見も少なくなかった.その一方で,「症」とすることは過剰診断・過剰治療につながる可能性があるなどの反対の意見もあり,専門学会の要望の強かった児童青年期の疾患と不安症およびその一部の関連疾患に限り変えることにした.
 ただし,「症」と変えた場合,およびDSM‒IVなどから引き継がれた疾患概念で旧病名がある程度普及して用いられている場合には,新たに提案する病名の横に旧病名をスラッシュで併記することにした.前者の例が,例えば「パニック症/パニック障害」であり,後者の例が,たとえば「うつ病(DSM‒5)/大うつ病性障害」である.

 産経は「差別意識を生まないよう」と書いているけれど、これは翻訳全体の方針のひとつであって、「障害」から「症」への変更については、親に対して「障害」という言葉が与えるショックをやわらげられないかという理由が大きいようだ。さらに、disorderとdisabilityの違いとか、一部の「障害」における社会的な事情とかいろいろ踏まえた末の判断でもある。
 ただし、たとえば「ダウン症」等のことを考えれば、「『症』なら親に大きな衝撃を与えない」ということでもないと思う。「精神科医」によって「診断名」がつけられることには違いない。どうせ直すなら「自閉」という言葉に世間が抱くイメージと、特性との間にあるギャップのほうがずっと深刻では。ちょっと前まで「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」だった子も「自閉スペクトラム症」になるわけだが、どちらが親や本人にとって受け止められやすいのかは、予測がつかない。診断の現場にいる人たちが考えたことなので、案外これでよいのかもしれないし、当事者からの発信も期待しつつ、もう少し今後を見守りたい。
 なお、福祉業界では「障害児」という表現に配慮が必要であると(ようやく)ずいぶん言われるようになってきた(たとえば先日の「第6回 障害児支援の在り方に関する検討会」の資料1参照)。制度上で「障害児」という表現になっているところを「児童」と置き換えることで、親が幼い子のために必要な支援を求めていくときのハードルはずいぶん下がる。「配慮の必要な子ども」「支援の必要な子ども」であることさえはっきりさせられれば、制度の運用上も大きな問題は生じない。
 きっと良心的な医師は「診断名」が当事者に与える負の影響も強く感じているのだろうが、医療であるかぎり「診断名」をつけなければならない、というジレンマ。その点で、福祉はもうちょっと工夫しやすいはず。