法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『BLOOD-C』第12話 わすれじの

脚本担当は同じままだが、水島努監督のコンテ演出で、茶番の底が割れた後の本当を、ちゃんと「本当」らしく描写して見せた。殺陣は細かく敵味方が互いに激しく動き回り、隙を見せれば殺されるという切迫感が出ている。固定カメラのロングショットで殺陣を見せるカットと、カメラで被写体を追うスローモーションのクローズアップカットのメリハリもあって、規制されつつも映像の快楽は存分に味わえた。
こめられた映像リソースも相当なもので、原画に西尾鉄也や金子秀一といった著名アニメーターが並ぶ。車窓の主観視点を3DCGで描画した流血の街も、粗がなくて舞台の終幕を華麗にいろどった。作画オタクとしては、街にあふれる古きものの宮沢康紀っぷりに自重を求めたくもなったが、藤子F短編マンガ『ヒョンヒョロ』のようなファンシーな虐殺という絵面は悪くない。
台詞回しに説明口調なところも残っているが、粗の多かったなりに1クールかけて積み上がったものはあるので、それが崩されながら拮抗しようとあがく父や眼鏡委員長の葛藤は、相応に楽しめた。


最終回で『BLOOD』シリーズに求めていたことを高いレベルで見せてもらったので、けっこう視聴後の満足感はある。そして中盤の感想で書いた不満もそのまま残る。
『BLOOD-C』の評判に違和感 - 法華狼の日記
『BLOOD-C』第11話 たれをかも - 法華狼の日記
やはり、どうしてもまずいのが、茶番にすぎない中盤での興味の引き方だろう。短いOVAにするか、茶番の期間を短くするか、偽りの日常を楽しく描くか、やりようはあったはず。
どうしても1クールのTVアニメで見せたいなら、映像リソースを節約しながら白々しくホラー演出に徹せる演出家に入ってもらうべきだったか。水島監督と過去に仕事をした中で探すと、シンエイ動画系に巧い演出家が多いのだが。
脚本レベルでも、騙しながら伏線をはっていく方法は、もっとあったはず。死んだはずのメインキャストが生きていることや、街の多くが実態として無人であるという描写は、主人公が茶番に気づくよりも前に使って、ホラー演出のように錯覚させることもできた。