法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『うる星やつら3 リメンバー・マイ・ラヴ』

 新しくできた遊園地、友引メルヘンランドに諸星あたると仲間たちは遊びにいく。そこはさまざまな姿の客がひしめくにぎやかな場所だったが、あたるたちは奇妙な空間にひとりひとりさそわれ、奇妙な体験をする。そしてあたるは手品でカバにされたまま帰宅した。深夜、家の外にあらわれた手品師をラムが追いかけたが……


 シリーズ3作目1985年に公開されたアニメ映画。TVアニメ版で押井守から監督をひきついだやまざきかずおがこの劇場版でも監督をつとめ、キャラクターデザインはTVアニメ版の高田明美に交代。

 もりやまゆうじ総作監に土器手作監で、一気にイメージにそったビジュアルになった。作画面でも冒頭からして透明な球が回転しながら完成する動画が精緻。本編も有名な夜間飛行の北久保担当パート*1をはじめ、背景動画を多用。キャラクター作画も多段の影でセル画の密度を高めている。主人公がクライマックスで妄想する、大量の美女が乳首や下着を出しているカットは、あまり動きはないが当時では珍しい描線の繊細さがあった。
 絵コンテは凡庸だがロングショットの多用などで劇場版らしさはあり、OVA勃興期を思わせる充実した映像ではある。上映はビスタサイズを前提としているようだが、スタンダードサイズで収録。押井守監督の2作品と違ってスタンダードで視聴しても上下の間延びが少ない。やや地面の情報量が不足していたりするが、OPなどのモブの小ネタはスタンダードで初めて完全に味わえる。ビデオ販売やTV放映を前提としてコンテを切っているのかもしれない。
 ただディテールは全体的に甘く、たとえば現実の現在のタヌキとは異なるとはいえシッポが縞々なデザインが気になる。映像的なギミックもアイデア不足で、たとえば遊園地に入れないことを騙し絵のように見せたりせず、超常の何かが起きたことを明確に映像で見せてしまっている。


 くわえて物語も映画らしい時間経過を感じさせない。連続ストーリーでありながら異なるシチュエーションを短いパートで数珠つなぎにしており、ひとつのシチュエーションをじっくり見せようとしない。
 ひとつひとつの異変があっさり終わるので娯楽としても弱い。あたるのカバ化は途中であっさり解けるので肩透かし。平凡な学校生活のけだるさを描いたラム不在パートは悪くないが短くてもったいない。そもそも本編に影響をあたえないよう工夫したタイプの劇場版らしく、映画独自のゲストキャラクターだけでドラマが完結している。それはいいとしても、中盤から遅く登場したゲストヒロインが延々と設定語りして真相をあばくと同時に事態の解決へみちびいてしまうので、主人公が完全に本筋の蚊帳の外になっている。
 一応、SF的なギミックでゲストキャラクターの背景に主人公のドラマが存在することは示されているものの、映像として描かれないので説明された設定でしかない。主人公の過去と因縁のあるゲストヒロインが事件を起こすという本編の1エピソードらしさがある1作目*2や、終わりなき設定の日常作品で主人公の成長と関係の進展を描いてしまった2作目のような、単独で成立した映画らしさが良くも悪くも存在しなかった。