完全にデマゴーグと化した櫻井よしこ氏


櫻井よしこ氏については、既に3回ほど批判を加えているのだが、
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20050422
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060116
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060705

今回の「櫻井よしこブログ」に書かれた内容は、以前よりも酷くなっているように思う。


「櫻井よしこブログ」からその箇所を転載する。
http://blog.yoshiko-sakurai.jp/2006/12/post_493.html

「南京大虐殺」が存在しなかったことは、すでにいくつかの貴重な研究によって立証ずみだ。一例が、北村稔氏の『「南京事件」の探究』(文春新書)である。同書は日本語の文献には頼らず、中国語と英語、つまり非日本語の文献にのみ依拠して書かれた。日本人の主観を排して書かれた同書は、南京事件を中国人らの目から見た情報のみでまとめたわけだ。同書は、中国人による戦中の記録はすべて、「南京大虐殺」は存在しなかったと物語っていることを書いたものだ。


櫻井氏のどこが間違っているのか。


1:櫻井氏は、北村氏の著書『「南京事件」の探究』の内容を歪曲している。


1-1 櫻井氏は、

北村氏の著書『「南京事件」の探究』は中国語と英語つまり非日本語の文献にのみ依拠して書かれた。

と書いておきながら、後の文章では英語の文献に関して言及せず、

同書は、中国人による戦中の記録はすべて、「南京大虐殺」は存在しなかったと物語っていることを書いたものだ。

と、中国語文献にしか言及していないのである。


1-2 櫻井氏が言及しなかった「英語文献」について、北村氏自身は以下のように言及しているのである。

当初、筆者は日中戦争中の英文資料には、国民党の戦時対外宣伝政策に由来する偏向が存在するはずだと考えた。しかし、ティンパリーのWHAT WAR MEANS、『英文中国年鑑』など代表的な国民党の戦時対外刊行物には、予想に反し事実のあからさまな脚色は見いだせなかった。残虐行為の暗示や個人的正義感に基づく非難は見られるが、概ねフェアーな記述であると考えてよいのではないか。少なくとも、一読して「嘘だろう」という感慨をいだかせる記述は存在しない。
(同書123-124頁)

北村氏は、英語文献について「嘘」という断定も推定も行っていないのである。この点を櫻井氏は隠蔽している。


1-3 さらに、北村氏の著書『「南京事件」の探究』で北村氏は、「中国人による戦中の記録はすべて、「南京大虐殺」は存在しなかったと物語っている」などとは書いていない。
北村氏が言及したのは「中国人による戦中の記録すべて」ではなく、郭岐の「陥都血涙録」という文書ただひとつである。(ちなみに北村氏は「陥都血涙録」の記述の信憑性に疑問を投げかけているが、これについては既にタラリさんが詳細な批判を加えている。http://www.nextftp.com/tarari/daikanin.htm)


1-4 しかも北村氏は、エピローグで以下のように述べているのである。

三十万という膨大な死者が日本軍占領下の南京に出現しなかったにせよ、日露戦争後の日本の満州進出にはじまる確執の結果として日中戦争が勃発し、中国の大地がその戦場であった。多くの破壊と殺戮が行われ、その集中的表現として、上海と南京にいたる戦闘で発生した被害が存在する。これらの物的損害と人的損害に対し中国の民衆が怒りと悲しみを感じ、日本に恨みを抱くのは当然である。


以上の点から、北村稔氏の『「南京事件」の探究』(文春新書)を根拠に「「南京大虐殺」が存在しなかったことは、すでにいくつかの貴重な研究によって立証ずみだ」などと述べるのはデタラメと言わざるをえない。

2:櫻井氏は、日本軍史料を意図的に無視する態度をとる。その結果、大規模な虐殺・掠奪・強姦があったことをしめす日本軍史料の存在を隠蔽している。


2-1 たとえば、以下の資料の存在が隠蔽された。(繰り返し紹介しているものばかりですが)
「略奪、強姦は軍の常だよ」と述べた中島今朝吾・第十六師団長
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060719/p3
阿南惟幾・陸軍省人事局長の報告/田中新一・陸軍省軍事課長の所見
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060718/p2

軍紀風紀の現状は皇軍の一大汚点なり。強姦、掠奪たえず、現に厳重に取り締まりに努力しつつあるも部下の掌握不十分、身教育補充兵等に問題なおたえず。

陸軍内部における多年の積弊が支那事変を通じて如実に露呈せられたものとみるべく、その百弊ウンジョウの深刻さには改めて驚かされる次第なり

南京事件の「日本軍の毒ガス攻撃案」の存在を日本政府が国会で言及していた
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060702
日本軍の給養体制の問題と「家を壊して薪にし、飯盒炊飯した」兵士たち
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060724/p2
捕虜殺害/死体の揚子江投棄を目撃した早尾乕雄陸軍中尉
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060718/p1
「南京攻略時に約四、五万に上る大殺戮」
http://d.hatena.ne.jp/bluefox014/20060701

中支戦場到着後先遣の宮崎参謀、中支派遣軍特務部長原田少将、杭州機関長萩原中佐等より聴取する所に依れは従来派遣軍第一線は給養困難を名として俘虜の多くは之を殺すの悪弊あり、南京攻略戦に於て約四、五万に上る大殺戮、市民に対する掠奪、強姦多数なりしは事実なるか如し。

2-2 これらは歴史学者の「貴重な研究」によって公にされたものばかりなのだが、櫻井氏はそれらの研究を無視して、

南京大虐殺」が存在しなかったことは、すでにいくつかの貴重な研究によって立証ずみだ。

と述べている。
彼女は上記の史料を紹介した「現代歴史学と南京事件」を読まないで述べているのか、読んだうえで無視しているのか。


いずれにせよ、櫻井氏の「南京事件」への言及は
1 歪曲
2 隠蔽
といった、あからさまなデマゴギー手法によるものだ。それもこの2年間で、4回(青狐が気付いたものだけで4回。それ以上かも)も、ほぼ同じ手を使っているのである。

櫻井よしこ氏は、自身がデマゴーグと化していることに、良心の呵責を感じないのだろうか。