MYUTA事件東京地裁判決やロクラクⅡ最高裁判決が正しいとすれば,日本では全てのストレージサービスが違法であるかもしれない
この関係では既に何度か書いてきた。そして,これらの判決が影響を与えるビジネスの例として,uCloudに触れてみた。
MYUTA事件判決が正しいとすれば,日本ではパブリッククラウドビジネスが危険であるかもしれない
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/myuta-bdb7.html
日本ではiCloudは著作権法違反として違法行為になる?
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/icloud-e580.html
その後,基本的に同じような問題が争点となっていた米国の裁判事例において,仮想サービスベンダ側勝訴の判決が出た。
MP3tunesがEMIなどの音楽産業に対して勝訴-クラウドベンダは,仮想ストレージサービスの利用者に著作権侵害があるかどうかを調査する義務を負わない
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/mp3tunesemi-6bc.html
MP3TUNES事件判決は,旧来の利益集団(音楽産業)と新ビジネス(クラウドストレージ)との間の闘いにおいて大きな意味がある
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/mp3tunes-637b.html
現在,これらの問題について,権利者団体側とIT産業側との間での戦争状態のようなものが存在する。
ところで,仮想サービスにおいては,iCloudだけが違法視されることになるわけではない。ストレージサービス全部がそうだ。
上記の判決における日本の裁判所の理論の骨格は次のとおりだ。
1) 利用者がアクセス制限のある仮想ストレージ領域を与えられている場合,その仮想ストレージ領域には当該利用者しかアクセスできない。
2) しかし,仮想ストレージ領域の利用者が契約終了等により交代する可能性がある以上,複数の仮想ストレージサービスを提供するベンダは,当該複数の仮想ストレージ領域を「不特定多数」の利用者に提供していることになる。
3) したがって,当該仮想ストレージ領域は,個別的に検討するのではなく,全体としての「公衆送信」の一部である。
簡単に言えば以上のようになる。
しかし,誰でも簡単に理解できるように,日本の裁判所におけるこのような論理は,「狂っている」としか言いようがない。
このことは,賃貸マンションで考えてみれば簡単に理解できる。
1) 賃貸マンションのオーナー(ベンダ)は,不特定多数の者に個々の区画を賃貸している。
2) しかし,個々の区画は,賃借人のプライベートな領域であってパブリックな領域ではないのであり,(ベンダを含め)当該賃借人以外の者が立ち入ることができない。
3) 個々の利用者は,自分の区画内で音楽などを楽しんだとしても,それは私的利用に過ぎず,公衆送信や放送をしていることにはならない。
これが正常な判断というものだ。
けれども,もしMYUTA事件東京地裁判決やロクラクⅡ最高裁判決が正しいとすれば,賃貸マンション内で音楽(他人の著作物)を楽しむことは「私的利用」にはならないということになりかねない。それくらい異常なことを述べている判決なのだ。
このように,これらの判決が正しいとすれば,ストレージサービスが違法なものとなることから,例えば,Microsoftやシマンテック等が提供しているWeb上のバックアップサービスやストレージサービス等も一律違法であることになるだろう。
極論すれば,Web上にあるWebメールの受信箱の中に1個でも他人の著作物(音楽,映像等のコンテンツ)が添付されていれば,そのWebメールサービス提供者は違法行為をしていることになる。そのベンダには,当然,Google(Gmail)も含まれる。
かくして,日本人は,Web上にある私的領域(自分しかアクセスできない領域)であっても,Web上にある限り,「私的利用」として利用することが許されないということになってしまっている。
結局,これらの判決のせいで,日本のIT産業は終焉を迎えてしまっているかもしれない。
これらの判決を書いた裁判官らは,「歩く非関税防疫障害」とでもいうべき存在ということにうなるだろう。
亡国の徒としか言いようがない。
[追記:2011年10月27日]
問題の本質を正しく理解するのであれば,富士通,日立,ソフトバンク等の日本企業だけでなく,Microsoft,Apple,IBM,HP,Google,Amazon等の海外企業も,Webサービスの擁護のために訴訟に参加することを検討すべきではないかと思う。そうでなければ,間違った技術論に基づいて間違った判決がなされてしまうことになり,日本でのビジネスにおいて相当のダメージを受けることとなるだろう。
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