均一メニューによる安心感、大量一括仕入れによるコスト削減、マニュアルで標準化された接客といった大手チェーンの強みが薄れ、業績も停滞している。一方で、強烈な創業者精神を持った数店から数十店を展開する繁盛店経営者たちの店は元気だ。そうした人気店の1つ、「鳥椿」を都内で5店展開するTKG(東京都板橋区)の北野達巳社長に、外食ならではの楽しさを提供するためのコツを聞いた。系列店の「鳥椿 鶯谷朝顔通り店」は、グルメをテーマとした人気ドラマ「孤独のグルメ」(テレビ東京)でも紹介された人気店でもある。

*当連載は、日経ビジネス2016年5月16日号特集「外食崩壊 ~賞味期限切れのチェーン店~」との連動企画です。

「オレが近所に欲しい店」を作る

厚切りのハムカツなど、ほかの店ではあまり見かけない。ありそうでなかった商品を作るのが上手ですね。

自分が近所に欲しい店を作っている北野達巳社長(写真:新関雅士)
自分が近所に欲しい店を作っている北野達巳社長(写真:新関雅士)

 2011年に最初の店をオープンしましたが、料理からサービスまですべては、料理やお酒が好きな「オレが近所に欲しい店」という視点から考えてきました。ですから、何をすべきかの判断は簡単です。

 具体的には、まず最初が飲食代金は1人2000円台で済むこと。

 次が、「まずいものは食べたくない」といつも思っているのですが、言い方を変えると料理は残さず食べて頂けるものを提供したいと思っています。もちろん味の好みは人ぞれぞれですが、イメージとしては満腹でも食べてしまうくらいおいしい料理を出したいということです。

 最後が、「わー、何それー、すごい」といった声が絶えないような、お客様みんなが楽しそうに過ごす店にしたいと思っています。

 こうした点を意識しながら、生まれた看板料理の1つが「名物ハムカツ」(300円)です。ハムカツのカツは薄いのが当たり前ですが、子供の頃にいつか厚切りを食べてみたいと思っていました。その夢に素直に従って生まれた人気メニューで、お客様が写真を撮って、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に投稿してくださることで、店のPRにもつながっています。

「名物ハムカツ」(300円)
「名物ハムカツ」(300円)

「チューリップ唐揚げ」も珍しいですね。

 唐揚げは居酒屋の定番ですが、2010年~2011年は特に唐揚げがブームになっていました。カレーや唐揚げは家庭の味が一番なので、味でインパクトを出すのが実は難しいのです。それでも何とかインパクトを出そうと考えたのが、今の「名物チューリップ唐揚げ」です。鶏の手羽中の肉の部分に切り込みを入れてから下味を付けて揚げたものです。価格は1個90円で好きな数だけ注文できます。人気の理由は見た目ですが、若者には目新しく、40代以上の方には懐かしがっていただいています。

「名物チューリップ唐揚げ」(1本90円)
「名物チューリップ唐揚げ」(1本90円)

人を誘いやすい店には、必ず特徴がある

ドリンクメニューにも特徴がありますね。

 「チンチロリンハイボール」(300円、350円、400円の3タイプ)は、サイコロを2つ振ってゾロ目ならハイボールの代金が無料。偶数なら半額に割り引き、奇数なら代金が2倍になる代わりに量も2倍以上が入るメガジョッキでハイボールが提供されるというエンターテインメント性のあるメニューです。

 ある焼き肉店で店員とじゃんけんをして勝ったら、デザートをプレゼントするサービスをしているのを見たことがきっかけで考案しました。じゃんけんは勝負ですから勝ち負けが生まれてしまう。勝ち続けても負け続けても気まずいと思いました。その点、サイコロを振るだけなら、ちょっとした運試しです。お客様もスタッフと一緒に盛り上がり易く、同時に飲食店ならではの非日常感を楽しめるのではないかと考えました。

 ちなみに別のドリンクメニューですが「ホッピーセット」(大590円、中490円、小390円)は、焼酎をお客様が好きなだけ注ぐことができるようにしています。ホッピーだけを飲み続けるお客様は少数派ですので、ほかのドリンクが売れなくなるということはありません。

常連客を増やす工夫を教えてください。

 厚切りのハムカツやチンチロリンハイボールは、最近ではほかのお店でも提供されていますが、その先駆けになったと自負しています。店にとって大切なのは、何か特徴を持つことだと思っているからです。

 「鳥椿」は地元密着のお店で、常連客がほとんどです。その常連客の方が、人に紹介しやすい店であることが大事だと思っています。例えば、一緒に飲む相手がハイボール好きなら、「チンチロリンハイボールって知ってる?」と言えば、誘いやすいですよね。ホッピー好きに「好きなだけ焼酎を注げるよ」と言えば、これも誘いやすいですよね。分かりやすい特徴を持つことで、お客様は友人や同僚を誘いやすくなりますよね。

鳥椿 大山店(東京都板橋区大山町8-1)
鳥椿 大山店(東京都板橋区大山町8-1)

*当連載は、日経ビジネス2016年5月16日号特集「外食崩壊 ~賞味期限切れのチェーン店~」との連動企画です。こちらもあわせてお読みください。

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