経営体制をめぐり対立が続くクックパッドで新たな動きが出てきた。創業者である佐野陽光執行役兼取締役や新たに社長に就いた岩田林平氏の退陣を要求するため、社員が労働組合を立ち上げた。執行部は委員長を含めた5名の予定。ベンチャー企業では、労働組合を立ち上げること自体がまれ。労組の活動自体が経営陣を退陣させることはできないが、社員が結束して経営側と闘う姿勢を示した。

「今の状況は、おかしいのではないでしょうか」

 「おとなしく平和主義に見える社員が、こうした積極的な活動に出たのは驚きだった」(元執行役)。

 3月24日に開かれた株主総会の翌週月曜日、全社員に向けてある社員がメールで訴えた。「今の状況は、おかしいのではないでしょうか」。メールを送ったのは、2015年4月にクックパッドに入社した、元くらしの手帖編集長の松浦弥太郎氏だ。呼応するように署名活動が始まり、国内240名超の正社員のうち、8割以上の署名が集まった。

 その後、有志社員が活動を開始。会社以外のメールアドレスを使って連絡を取り合い、業務後に話し合いを続けている。既に佐野氏と岩田氏も出席した社内討論会も開かれた。テーマは「クックパッドをどうしていきたいのか」。時に涙を流しながら訴える社員もいたが、佐野氏側から明確な方針が打ち出されなかったとされる。社員は労働組合を立ち上げ、佐野氏と岩田氏を退陣させるための戦略も練り始めたという。

 2015年11月から続いている同社の経営陣を巡る騒動は、収まるどころか社員を巻き込んだ騒動に発展している。

 3月24日の株主総会直前に佐野氏は執行役を解任された。執行役を解任された状態で挑んだ株主総会では、当時の社外取締役の岩倉正和氏などが、「ガバナンスコード上不適切であり、米国なら善管注意義務違反を問われる恐れもある」などと株主に執行役解任の理由を述べた。

 一方、当時社長だった穐田誉輝(あきた・よしてる)社長は、執行役の解任はある種のペナルティだったと認めつつも、今後も取締役として佐野氏のビジョンや経験は必要と佐野氏をかばう姿勢も見せた。

クックパッドの佐野陽光執行役(写真:的野 弘路、2010年撮影)
クックパッドの佐野陽光執行役(写真:的野 弘路、2010年撮影)

 株主総会では、会社側と佐野氏の「合意案」として提出された取締役案が可決。44%の株式を持つ大株主の佐野氏の議決権の大きさが“威力”を発揮した。9名のうち、北川徹氏、柳澤大輔氏、出口恭子氏といった新たな社外取締役を選任。柳澤氏は佐野氏とは慶應義塾大学時代の旧友で、出口氏は「創業間もない頃に知り合った」(出口氏)という旧知の仲だ。前年の取締役から残留をしたのは、穐田氏、佐野氏を除き、新宅正明氏、西村淸彦氏の2名だけだった。取締役会の顔ぶれは、佐野氏に近い人が過半を占めるようになった。

「会社の存続さえ危うい」

 新しい取締役会が下した決断はさらに波紋を呼んだ。株主総会後に開かれた取締役会で、当時社長だった穐田氏を解任。2月に入社したコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の岩田林平氏を社長に据えることを決めたのだ。

クックパッドの岩田林平社長(写真はマッキンゼー・アンド・カンパニー時代)
クックパッドの岩田林平社長(写真はマッキンゼー・アンド・カンパニー時代)

 従来の執行役メンバーは、総会後の取締役会で佐野氏、岩田氏、穐田氏を除きすべて解任された。創業にかかわった小竹貴子氏が再度入社する予定であるなど、徐々に幹部メンバーは決まってきているとされるが、会員事業、管理部門など、重要なポジションのトップはほとんどが空席のままだ。

 社内に対しても、未だに明確な経営方針は示されず、「足下のプロジェクトをこのまま進めるべきかどうするのか、といった現場レベルでの判断が難しくなってきている」(ある社員)といった実務面での影響を不安視する声も聞かれる。

 そうした状況を鑑み、ついに社員が動いたというわけだ。

 労働組合は、今週中に開催予定の取締役会に、佐野氏と岩田氏の退陣を要求する嘆願書と署名を提出する予定だ。結果によっては、穐田氏以下、前体制を支持する社員が一気に辞職をする可能性も出てきている。ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは、「もはや、中長期的にみたサービスの提供や会社の存続さえ危ういといっていい。さらに、社員が一丸となって否定するような執行役メンバーを選んだ社外取締役の“甘さ”も責任追及されるべきだ」と話す。

 クックパッドの株価は、株主総会後、17%安の1770円まで急落した。東証1部上場企業の値下がり率で首位となった。その後も株価は下落を続け、4月5日の終値では1500円を切るところまで落ち込んでいる。

 労働組合は法律上、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体」と規定されており、経営権を持っているわけではない。労働組合が佐野氏に対して退陣を要求したとしても、それを岩田氏や佐野氏が無視することは容易だろう。さらに言えば、社員の多くが辞めたとしても、クックパッドの最大の資産である会員組織は会社の資産として残る。

 半年に及ぶ“クックパッド騒動”は、ついに社員も巻き込んだ“大騒動”の様相を呈してきた。

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