東日本大震災から5年、今年も3月がやってきた。頻繁に被災地に足を運び、復興の様を見続けている“防災の鬼”渡辺実氏だが、この季節が近づくとやはりあの日のことを思い出してしまう。1万6000人近くの方が亡くなり、安否不明者もいまだ2500人を超す。あの日以前に戻ることはできないが、いつ来るかもしれない危機に備えることはできるはず。今回は“鬼”の目線で選んだ「100円ショップでそろう非常用持ち出しグッズ」をお届けする。
「人はある日突然被災者になる」──“防災の鬼”渡辺実氏が事あるごとに口にする言葉だ。
「自然の力は人間の想像を簡単に超えます。ひとたび大規模災害が起これば、誰もが被災者になりうる。いくら嫌だと言っても災害はえこひいきしてはくれません。だから日ごろの備えが大切なのです。東日本大震災から5年経ちました。これを機会に非常用持ち出し袋を作ってみてはいかがでしょう」
ちょっと気の利いたホームセンターなどに行けば、救急道具や防寒具などがセットになった非常用持ち出し袋が売っている。
「でもね、私から言わせると、かゆいところに手が届いていないものばかり、しかもえらく価格が高いんですよ。これはいいな、と思えるものはすぐに1万円を超えます。ところが100円ショップに行けばその3分の1程度で、さらに充実した非常用持ち出し袋を作ることができるのです」
ということで、今回“チームぶら防”がお邪魔したのはのキング・オブ・100円ショップの「ダイソー」だ。しかも東京都内最大の売り場面積(1000坪)を誇る「ダイソー アルカキット錦糸町店」を訪れた。
JR錦糸町駅前にあるショッピングモール、アルカキットのエスカレーターを降りて驚いた。見渡す限りの100円グッズである。さすがに都内最大。店内を見て回るだけで一苦労だ。目的別に的を絞って目当ての商品を探すことにした。
「何をおいてもまずは袋だよね。様々なタイプのものがそろっていますが、逃げるときに両手が使えるようにリュックタイプ。災害時のパニック状態でも目につきやすいよう、色は明るいものを選ぶといいでしょう」(渡辺氏)
ということでショッキングピンクのリュックを選択。なかなかお似合いである。
ダイソーでは取り扱いアイテムの幅を広げるため、一部の商品については100円以上の値段設定をしている。このリュックは300円(以下同様)だ(以下、特に値段表示のない商品はすべて100円である)。
さて、次はいよいよこのリュックに詰めるものを選んでいく。
医療関連の厳選アイテム
「大規模災害が起きると、怖いのはケガですね。その場では気が付かなくても、避難所まで逃げてきて、ひと心地ついたところで腕の切り傷などに気付くこともよくあります。そんな場合に焦らないため、傷テープや伸縮ネットなどを揃えておくといいでしょう」(渡辺氏)
多くの人が集まる避難所は感染症の病気が蔓延しやすい場所でもある。
「避難所はすべての人に平等であるべきです。あなたは風邪をひいているから来ないで下さい、なんて言えません。だから、そういった人のウイルスからの空気感染を防ぐためにマスクは必須です。また被災からしばらくは水が不足する可能性が非常に大きい。手洗い洗顔などがままならない。そんなとき便利なのが除菌ウェットティッシュです」(渡辺氏)
またちょっと大きめのタオル(ダイソーでは200円)は、医療の用途として使えるのだと渡辺氏は言う。
「濡れたものを拭く、という本来の使い方以外に、腕を骨折した場合はタオルを三角に折って首からかければ三角巾の代わりにもなるのです」
と、ここまでは常識の範囲。ここからが“防災の鬼”渡辺実氏の厳選ポイントだ。
「あと、生理用品も加えておきましょう。本来の使い方とは別に、圧迫止血用のガーゼとして使用することができるんです」
情報関連の厳選アイテム
とりあえずの安全を確保したらならば、次に必要となるのが「情報」だ。近所の避難所の収容状況、配給物資の配布場所、各種行政手続……などなど。これらをきちんと整理することで的確な行動が可能となる。
「阪神・淡路大震災のときも、東日本大震災のときもそうでしたが、被災現場は情報からシャットアウトされます。隣の避難所がどんな状況なのか全くわからない。そんなときに便利なのがラジオからの情報です」(渡辺氏)
コミュニティーFMと呼ばれる地域密着の放送局は全国に300近く存在する。こうしたメディアが地域限定の有意義な情報を流してくれるのだ。情報量も即時性もまだまだインターネットを凌駕している。
「ところがラジオからの情報は記録が残りません。ラジオから聞こえてきた情報を、書き留めておかなければならない。そうしたときに紙とペンが必要になってくる。でもこれがけっこう避難先にないんです。阪神・淡路でも東日本でも避難所で同じような光景を見たのですが、みなさん新聞の余白にメモするんですよ。だから非常用持ち出しグッズとしてノートとペンは必須です。これがあるとないとでは、天国と地獄ほどの違いがあります」
さらに鬼ならではのワンアイデア。
「老眼鏡も入れておくと便利です。近眼用のメガネはとっさの場合も忘れにくい。でも老眼鏡はうっかり忘れがちです。逃げるときは近くより遠くを見ながら行動しますからね。しかし、避難所などでの生活が始まったらすぐにでも老眼鏡が必要になります」
食関連の厳選アイテム
「食べる」「飲む」は生きるための基本。これを支えるために食器は必須だ。
「とにかく着の身着のままで避難してきた人はお箸にさえ不自由します。例えば配給されたお弁当についていた割り箸を、何度も洗って使っている人を被災の現場ではよく見かけます。あれは衛生的に非常によろしくない。ちゃんとしたお箸は必ず加えましょう」
「さらにスプーンとフォークも大切な道具です。例えば指先をケガしてお箸が使いにくい場合、介護が必要な方がいらっしゃる場合、そうしたときにスプーンとフォークが活躍するわけです」
そして「避難所では水が不足するからラップも必需品なんだ」と妙なことを言い出す渡辺氏。でも次の説明を聞いて納得。
「貴重な水を使って食器を洗うようなことはしません。紙皿にラップを敷いて、その上に食品をよそって食べる。食事が終わればラップだけ捨てて紙皿はまた使う。これが基本です。また、ラップはピッタリ密着させると非常に気密性が高い。だからケガをした場合など、ガーゼの上からこれを巻くことで患部の保護にもなります」
さらに、あるとないとでは大違いなのが「輪ゴム」と「ダブルクリップ」。
「袋に入った食品などが配給されることがあります。袋の口を閉じるのに輪ゴムやダブルクリップは大変便利。輪ゴムはこれ以外に、まとめる、縛る、きつく締める……などなど、ありとあらゆるシーンで活躍します。ダブルクリップに関しては女性のヘアピンとして使ったり、配布されたプリントなどを束ねておいたりするのに便利です」
サバイバル関連の厳選アイテム
災害発生後、しばらくはサバイバル生活のような毎日を過ごさなければならない。
「軍手やナイフはあったほうがいいでしょう。ダイソーには普通のナイフだけではなく多目的ナイフも100円で売っているのでお薦めです。また火を起こすためのライターも入れておきましょう。ただ停電したからといって明かり取りのためにむやみにライターを点けるのはNGです。ガス漏れの危険性があるので引火による火事の危険性がある。明かりはかならず懐中電灯を使って下さい」
「雨や寒さは避難生活の大敵です。傘(200円)や防寒着は絶対に加えましょう。ダイソーではスポーツ観戦などで使うための保温・防水ポンチョを取り扱っています。これなどは寒い季節に心強いアイテムです」
非常用持ち出し袋は家庭に置いておくだけのものではない。家庭と職場に1つずつ用意するのが理想だ。
「職場用の方には方位磁石も入れておくといいでしょう。大規模災害直後は交通機関が麻痺しがちです。道路案内や普段ランドマークになっている建物などが崩壊し、景色が一変して方向感覚が狂ってしまう。歩いて帰るとき、方位磁石があるとおおよその方向が分かるので便利です」
環境関連の厳選アイテム
大規模災害の被災地では停電する場合が少なくない。東日本大震災での広域停電は記憶に新しいところだ。
「生まれたときから全家庭に通電している環境で当たり前のように暮らしてきた現代の日本人にとって、明かりのない夜は思った以上に暗い」(渡辺氏)
懐中電灯と電池などはもちろん必須だが、ここで鬼のワンアイデア。
「懐中電灯の光は直線的です。足元だけを照らすのであれば事足りますが、ランプのようにあたりいったいを照らしたいような場合には向いていません。そんなときは懐中電灯の先にレジ袋をかぶせると、光が拡散してランプの代わりにできます」
レジ袋の使い方はこれだけではない。
「もちろんゴミ袋として使ってもいいし、中に丸めた古新聞を詰め込んでダンボール箱などに入れれば簡易トイレとしても使えます。あとは赤ちゃんのオムツとして使う方法もあります」
以前この連載で紹介した『東京防災(東京都が配布する防災ブック)』でもレジ袋を利用した簡易トイレと簡易おむつの作り方が掲載されているので参考のために紹介する(トイレは201ページ、オムツは202ページに掲載されている)。
レジ袋を使ったトイレとオムツを紹介したが、排泄については他の問題より深刻である。きちんと処理をしなければ環境衛生と精神衛生の両面に関わってくる。
ということで、おまけとして“防災の鬼”渡辺実氏が開発に参加した『ZiOトイレ』の紹介だ。『災害時はネコになれ!』と、廉価なネコ砂を災害時トイレに活用する方法を普及させていたアイデアを基に人間用の非常用トイレとして商品化した。
「ライフラインが破損して水を流すことができなくなったトイレに燃えるゴミ袋をかぶせて、その中へ投入して使う紙製の砂です。優れた消臭と吸水の効果があるので、小便も大便も苦なく処理できます」
興味のある方は総販売元のバルジオまで問い合わせてみることをお薦めする。
「繰り返しますが、人は突然被災者になります。後悔する前に、ご近所の100円ショップに行ってみるといい。今回ご紹介した27アイテムの合計金額は3000円を少し超える程度です。これで安全・安心が買えるのなら安いもの。それから100円ショップにはなかったが、やはり携帯ラジオ(電池つき)は必須なので、廉価なものでいいから入れておいてください」(渡辺氏)
すぐに実行できる27の商品リスト
“防災の鬼”が提案した今回のアイテムをベースに、自分なりのアレンジを加えてみるのもいいだろう。日ごろの生活を振り返り、どういったものが必要かを考えながら売り場を歩くと、これまでとは違った100円ショップが見えてくるに違いない。最後に、今回買いそろえた商品のリストを掲載するので、じっくり考えて今すぐに実行してください。
商品名 | 価格(税別) |
---|---|
カラーリュック | 300円 |
超吸水カラーフェイスタオル | 200円 |
折りたたみ傘 | 200円 |
アルコール除菌ウェットティッシュ | 100円 |
伸縮ネット包帯 | 100円 |
キズテープ Sサイズ30枚+Mサイズ30枚 | 100円 |
花粉 かぜマスク | 100円 |
生理用ナプキン DRYナイト 3個入り | 100円 |
ノートブック | 100円 |
油性ボールペン 黒・赤 | 100円 |
老眼鏡 | 100円 |
キャンピング スプーン・フォークセット | 100円 |
来客箸 三善セット | 100円 |
ペーパーカップ 18個入り | 100円 |
ペーパープレート 25枚入り | 100円 |
フードラップ 60m | 100円 |
コムバンド 100g | 100円 |
ダブルクリップ(コーティングクリップ) | 100円 |
軍手 Mサイズ | 100円 |
6得万能ナイフ | 100円 |
ガスライター 2個入り | 100円 |
簡易 保温・防水ポンチョ | 100円 |
方位磁石 | 100円 |
ミニランタン | 100円 |
LED懐中電灯 | 100円 |
ゴミ袋25L 20枚入り | 100円 |
単3型 アルカリ乾電池 5本入 | 100円 |
合計 | 3100円 |
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