累計発行部数270万部超。学習参考書として異例のベストセラーとなった「うんこ漢字ドリル」。「日本イノベーター大賞」(主催:日経BP社)の受賞者の素顔を紹介する連載の第5回は、勉強嫌いな子供たちが進んで机に向かい、実際に教材を買う親の世代までも「うんこ」の力で魅了した脚本家の古屋雄作氏だ。同シリーズに登場する3000以上の例文全てを一人で生み出した。

 教材とうんこを掛け合わせるというタブーを破って話題を呼び、後発商品が生まれる中でも他を寄せ付けない存在感を放つ。タブーを破ることに不安はなかったのか。3000にも及ぶうんこ例文はどのようにして生み出されたのか。うんこシリーズの誕生背景と今後の展望を聞いた。

(聞き手は、浅松和海)

<表彰式に読者の皆様を無料でご招待>
表彰式は12月5日(火)午後5時から「コンラッド東京」(東京都港区)で開催いたします。観覧ご希望の方は、以下のURLからご応募いただけます。定員(200人)に達し次第、締め切らせていただきます。

http://business.nikkeibp.co.jp/innovators/

<span class="fontBold">[ふるや・ゆうさく]</span><br />1977年生まれ。上智大学卒。撮り下ろしのオリジナルDVDを中心に、テレビドラマ、書籍、ウェブ動画など様々なジャンルで活動。主な作品にDVD「人の怒らせ方」シリーズ、連続ドラマ「神話戦士ギガゼウス」「ダイナミック通販」などがある。17年に大ヒットした「うんこ漢字ドリル」の生みの親。(写真:都築 雅人、以下同)
[ふるや・ゆうさく]
1977年生まれ。上智大学卒。撮り下ろしのオリジナルDVDを中心に、テレビドラマ、書籍、ウェブ動画など様々なジャンルで活動。主な作品にDVD「人の怒らせ方」シリーズ、連続ドラマ「神話戦士ギガゼウス」「ダイナミック通販」などがある。17年に大ヒットした「うんこ漢字ドリル」の生みの親。(写真:都築 雅人、以下同)

「うんこ漢字ドリル」はシリーズ累計270万部を超えるベストセラーとなりました。「教育×うんこ」という、ある種のタブーを破ったわけですが、なぜこれほどのヒットになったのでしょうか。

古屋雄作氏(以下、古屋):潜在的なニーズはあったんだと思います。「勉強=つまらない」というのは、勉強というものができた時からある課題でした。そこに「うんこ漢字ドリル」で多少風穴が開いたのかなと。

 日本ってちょっとヒステリックなところがあるじゃないですか。このドリルはそれまでの常識の基準というか、ハードルを3つくらい越えてきてると思うんですよね。「うんこ漢字ドリル」以前と以後で、この世間の基準がだいぶ変わったと思います。これは僕がすごいというより、出版元の文響社の英断だったと思います。

似たような言葉を使った後発商品も出ていますが、その中でもうんこ漢字ドリルが際立っています。

古屋:やっぱり「うんこ」はオーラが全然違いますね。その辺は申し訳ないですけど、他とは勝負にならないと思います。下ネタだから面白いというよりも、やっぱり「うんこ」だからなんですよね。

「うんこ漢字ドリル」(4年生)の例文。想像力をかきたてる
「うんこ漢字ドリル」(4年生)の例文。想像力をかきたてる
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子供や、特にその親から最初批判がくるのではという不安はありませんでしたか。

古屋:制作の段階で、子供と親御さんに集まってもらって見てもらうなどしていました。子供たちは、女の子も含めて結構みんな笑ってましたね。ただ結局買ってくれるのはお母さんなので、そこは不安がありました。

 でもやってみたら「いやいや、面白いね」と。この前会ったあるお母さんなんか、僕が作ったということを知ると、ジャニーズに会ったみたいなリアクションするんです、本当に。サインくださいも言えないぐらい。あわあわします(笑)。


源流はうんこ川柳「うんこを ぶりぶり 漏らします」

ドリルの発売より前から、「うんこ川柳」を自身のホームページで公開されていましたね。もともと、うんこに特別な思い入れがあったのでしょうか。

古屋:特別うんこに思い入れがあるわけでもないですけど、やっぱりそういうくだらない笑いとか、悪ふざけとかはずっと好きでした。大人になっていくにつれて普通はふざけなくなるじゃないですか。それは嫌だなという気持ちがあった。お笑いの番組を作ったり、笑いに関する仕事をしたりしていました。「うんこ川柳」もそのうちの一つですね。

「うんこ川柳」には基本ルールがある。(出所:<a href="http://yusakufuruya.com/?p=unko_senryu" target="_blank">「うんこ川柳」古屋雄作ホームページ</a>
「うんこ川柳」には基本ルールがある。(出所:「うんこ川柳」古屋雄作ホームページ
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川柳のご経験が?

古屋:いや。実はそもそも川柳でも何でもないんですよね。「うんこを ぶりぶり 漏らします」という4、4、5なので。5、7、5でもないんですよ。

「うんこをふわふわ飛ばします」とか「うんこがよちよち歩きます」とか、何かやっているうちに延々できるなと思って。飲み屋で男友達とかと、どっちが面白いうんこ川柳を言えるかみたいな勝負をしてました。コンパの時に女の子そっちのけでそれをやっていた記憶もある。女の子は一緒にやってくれなかったですけど……。

 というふうな感じで誕生して、めちゃくちゃいっぱいできたので、本にしたいと思ったんです。出版社の人に提案したり、企画書を送ったりして、でもその時は何も形にならなかった。そんな中、文響社社長の山本周嗣に再会したという。

山本社長とは同級生でしたね。

古屋:私立東海中学校・高等学校で6年間同じ学校にはいるんですけど、マンモス校なのでクラスが一緒になったことはないんですよ。中学時代僕は本当に落ちこぼれで。6年間勉強しなくていいという理由で中学受験をしたので、もう本当に6年間、8秒ぐらいしか勉強してないですね。

今回のうんこ漢字ドリルは小学生ですが、当時の古屋少年の前にこのドリルがあったらどうなっていたでしょう。

古屋:あったらやばかったでしょうね。でもやっぱり、悪ふざけ大好き少年だったので漢字を勉強するというより、ドリルと同じような面白いことを考える方にいっちゃっている可能性がありますね。小学校の時は「キン肉マン」の超人とか、そういうキャラクター募集にはだいたい応募していたので。よく考えたら、うんこ漢字ドリルは今、そういう子供たちを生んでいるのかもしれない。

面白いことを考えることが好きでも、今回3000以上の例文を作るのは大変だったのでは。

古屋:普段は自宅で考えているんですが、やっぱり行き詰まることもあります。3000個って相当なので。どこかで缶詰状態になって、集中しなくちゃいけないと思って沖縄に10日くらい合宿に行ったこともありました。朝だけホテルのビュッフェでめちゃくちゃ食って、あと1日中ずっとうんこ、うんこ。1学年か2学年分くらい作りました。はかどりましたね。

ちなみになぜ沖縄だったのですか。

古屋:缶詰状態で集中して、どうせホテルから出ないんだったら窓の外の景色が開放感のあるところに行こうと。あとやっぱりうんこのことばかり考えるので、ちょっと浄化作用というか(笑)。次はパリかガラパゴスに行きたい。ガラパゴスに行くとその辺にゾウガメとか歩いているので。何かアイデアが出てきそうな気がしません?

 あと、こうやって取材に来てもらった時とか、「今回はパリに行きまして。どうしてもパリじゃないとだめでした」みたいなのが面白いじゃないですか。やっていることがうんこなのに(笑)。実は今回の沖縄も、行く時点で何か面白いなと思ってました。


「うんこ」と叫べば誰もが解放される

例文を考える時は何か参考にするものがありますか。

古屋:どうやって作るんですか、とよく聞かれるんですけど、それは頑張って考えているだけという答えになっちゃうんです。特技ってそういうものなのかもしれないです。何かを参考にすることもなく、辞書で言葉の使い方を調べるくらいです。あとはイマジネーション勝負。

 自分でも笑いながら作ってますね。例文を思い付いて、書き出す前に先に笑っちゃったり。よく言われます。自分が一番笑ってるねと。例えばこの例文とか……。「昨晩どこでうんこをしたか、自分の目で確かめてみなさい」(笑)。

怒られるようなところでしちゃったんでしょうね(笑)

古屋:記憶にないんでしょうね、こいつは。酔っぱらっていたのか何か。これも面白いです。「まもなく、確実にうんこがもれますよ」(笑)。ちょっと脅し気味の(笑)。

シリーズ化してほしいという声も当然あると思いますが、次回作の構想はあるんですか。

古屋:そうですね。まずは「うんこ」は変えずに。個人的には英語をやってみたいですね。うんこ英会話。英語ってみんなしゃべりたいじゃないですか。でも英語の教科書の例文って特に面白くないし、当たり障りのないことしか言ってない。そこをやっぱりうんこでイノベーションしていきたいなと。

 あと範囲を広げるとしたら学年を中学や高校まで広げるとか。そこは多分、おじいちゃんおばあちゃんまでいける気がします。手紙でよく使うような時候のあいさつとかあるじゃないですか。あれをうんこにしたり(笑)。ネットでおばあちゃんが過呼吸になるくらい大爆笑している動画があるのを見て、いけるという可能性はちょっと感じています。

 うんこってみんな言いたいんですよ。言えば言うほどちょっと解放されていくんです、自分が。今それに日本が気付いている状態だと僕は思いますね。何か1回言ったらふぁーっと解放されていくというか、精神が。うんこセラピーもありですね(笑)。

それこそご年配の方にウケそうです。

古屋:うんこ健康法とか出しましょうか、じゃあ。「うんこー!」って大声で叫ぶ。朝6時ぐらいに、公園から聞こえてくるかもしれないですよ。うんこーって。

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