7月15日に発表された「機動戦士ガンダム」シリーズ最新作、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(10月4日放映開始)。従来のガンダムシリーズとは一線を画し、“歴史観”が異なること、そして、海外市場を強く意識していることが話題になっている。
ガンダムのビジネスを支えてきた柱、それは玩具メーカー、バンダイが作るガンダムのプラモデル、通称「ガンプラ」だ。
発売から今年で35年。2015年3月末累計で4億4500万個を出荷したガンプラ。実はガンプラは、すでに年間出荷数1100万個のうち、昨年の海外向けの出荷数がざっと330万個(本誌推計)にのぼる。
インタビュー中でも明らかにしていくが、「小中学生がプラモデルを作る」という行為が、いや、それどころか、「世の中に実在しないキャラクターのプラモデル」という概念自体が、世界的に見ても日本独特といえる特異なものだ。その象徴であり、超ドメスティックな商品と思われがちなガンプラが、ここ数年で急激に海外出荷比率を高めた背景は何か。現場担当者のお二人にお聞きした。今回のインタビューは新作発表を受けてのものではないが、「鉄血」にいたる道筋が、くっきり見えてくるように思える。
(聞き手は山中浩之)

ガンプラ35周年おめでとうございます。
高橋慶修氏(以下高橋):ありがとうございます。おかげさまで。
そもそも、ガンプラ全体としての今のビジネス的な状況はいかがでしょう。
高橋:日本でも緩やかに成長をしているのですが、海外が伸びているんです。すでに出荷数の3割は海外向けになりました。中でも特に、アジア市場が勢いがある。

これには、以前からテレビで放映されていたことによって、ガンダムのコンテンツとしての歴史的な土壌があること。そしてキャラクター模型という文化に関して、欧米に比べて日本周辺の国の方が土壌があるからではないかと思っています。
その中でも規模としては韓国が一番大きく、海外向けの中の3割を占めます。伸び率についても、日本からの輸出金額がこの5年間で約2倍になっています。間違いなくユーザーが増えてきていると我々も判断しています。
これは、個数ベースでもほぼ倍と考えてもいいのでしょうか?
高橋:若干の誤差はありますけれども、ほぼ比例しています。
何万個になるんでしょう。
高橋:約100万個となります。
「ビルドファイターズ」がアジアに刺さる
この5年間で韓国市場でガンプラが大きく伸びた、その背景なんですが。
高橋:アジア全体にも通じる話なんですが、さきほどの「機動戦士ガンダムビルドファイターズ」(放映はテレビ東京系列で2013年10月7日から2014年3月31日)という新作のテレビアニメがあって、それが日本でも大変好評だったのですが、それだけでなく、アジアの国ではさらに日本以上に“刺さった”んです。これが大きかったと判断しております。
ああ、ガンプラで子供たちがシミュレーション競技「ガンプラバトル」をする、という。「プラモ狂四郎」(作者はクラフト団・やまと虹、講談社「コミックボンボン」1982年2月号~1986年11月号連載)みたいなもの、といえば分かりやすいんでしょうか。
高橋:テレビアニメのガンダムシリーズは、1979年に初放映された「機動戦士ガンダム」以来の深い歴史があります。ガンダムのファンは、そういう最初のガンダム以来の“歴史”を踏まえた「コア層」と、“いま”放送しているガンダムシリーズのファンになってくれた「ライト層」の子供との2層に大きく分かれているのが特徴です。また過去ガンダムに触れていたが大人になった今は少し離れており、何かのきっかけでまた舞い戻ってくる潜在的な「休眠層」というセグメントも存在します。
高橋:この構造は海外でもそうなのですが、とはいえ日本のような36年前からの土壌というのはあまりない。現場の実感から、比較的過去のシリーズで言うと、十数年前にあった「機動戦士ガンダムSEED」というシリーズから入ってきた人たちが多い、と思われます。
海外では「ガンダムSEED」がマイ・ファースト・ガンダムなのですか。
高橋:はい。ガンダムSEEDをマイ・ファースト・ガンダムとしているファンは多いと思います。比較的日本よりも歴史が浅いので、若い層が多いというのがだいたい海外全般に言えている共通項なんですね。
そこに「ビルドファイターズ」はどう刺さったんでしょう。
高橋:ビルドファイターズという作品は、多くあるガンダムシリーズの要素がミックスされている作品です。それから、プラモデル自体が、アニメの主要要素として出ている。ガンダム各作品に登場してきたモビルスーツというメカがプラモデルとして活躍します。
そうでした。新旧の区別なく、ガンプラで戦うんでしたっけ。
高橋:つまり、ダイレクトに作品に出てきているものがそのまま買える。しかもプラモデルの要素として、自分で作って飾るだけじゃなくて、パーツをカスタマイズして自分のオリジナルを作ろうよ。それで自分のが強くなるんだよというイメージでやっていますものですから、プラモデルの遊びの幅がちょっと広がったわけですね。今までだったら、作ってポージングして終わりのところから、自分のオリジナリティーという、そもそも我々がやりたかったことをマーケティングに盛り込むことができました、プラモデルに込めた魅力が、非常に分かりやすく伝わった、ということだと思います。我々の言葉で言うと「つくろうガンプラ!」ですね。
一番人気は「ベアッガイIII(さん)」
日本でもこのアニメで若年層ファンが増えたとお聞きしていますが、海外でも同じことができたと。
高橋:ただ、日本の場合は、地上波のテレビにかかることが、子供に対する最大のリーチ、接点であるんですね。当然、海外の方ももちろんテレビ局に入ることが一番の理想なんですけれども、環境が年々厳しくなっていて、テレビにガンダムをかけたくても条件が合わないことが多くなっています。
テレビでは放映しにくくなってきた。では、どういう手を打たれたのでしょう。
高橋:今年で5年目になるのですが、「GUNDAM.INFO」という、ガンダムのポータルサイトを作りまして。ここで特に、アジア向けのローカライズをしているんですね。
その主要コンテンツの中に、無料で作品が見られる環境をつくって、そこで「ビルドファイターズ」を海外向けに、日本と同時に流したんですね。普通はちょっとブランクがあるんですけれども、そこを同時に。
最新作を日本と同時放映、それは喜ばれるでしょう。吹き替えもされたんですか?
高橋:いえ、音声は日本語で、翻訳を字幕で付けました。これが、非常にマニア…といいますか大人の方はもちろん、子供にも、うまく両軸に刺さったと思っています。
ビルドファイターズ自体、昔のガンプラが出てくるから、お父さん世代泣かせでしたよね。
高橋:ええ、両軸に刺さったという意味では日本も同じだったんですけれども、特に海外の場合はなかなかユーザーに接点が作れなかったんです。日本にはアニメや模型の専門誌が存在しますし、店舗も多い。でもアジアはそうではないので。でも、そういったものが「GUNDAM.INFO」と配信を通し、統一されてストレートに入って行けたんだと思います。これで非常に人気が出ました。特に小学生男女にもおそらく初めて入った、存在を認知してもらえたんです。
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