前回の「現地報告! 構想30年のスーパー望遠鏡『アルマ』がついに動き出す」に引き続き、2013年3月13日にチリで開催された史上最大のスーパー望遠鏡「アルマ」の開所式からの現地レポートをお届けする。

国際宇宙ステーションを超える参加国数

 開所式を迎えた「アルマ」は日米欧、正確には、「ヨーロッパ」と「北米」と「東アジア」の3グループによる国際共同プロジェクトだ。

「アルマ」の山麓施設にずらりと並ぶ参加国の国旗(撮影:山根一眞)
「アルマ」の立地。南米チリは南北に細長い国だが、その北部、ボリビアやアルゼンチンと接するアタカマ砂漠の標高5000メートル、チャナントール高原に建設された。砂漠のオアシスの町、サンペドロ・デ・アタカマは欧州の観光客に人気のスポット(地図:Google Map)

 「ヨーロッパ」は、ヨーロッパ南天天文台に加盟する15カ国(オーストリア、ベルギー、ブラジル、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス)、「北米」は、米国国立科学財団とその協力機関であるカナダ国家研究会議の2カ国、「東アジア」は国立天文台を傘下に持つ日本の自然科学研究機構とその協力機関である台湾中央研究院だ(ちなみに台湾は北米のパートナーシップにも参加するという日本では考えられない二本立てだ)。

 これに、用地や税制面などで便宜供与を担うチリが参加している。

 宇宙に関する国際共同プロジェクトでは、1998年に15カ国が締結した国際宇宙ステーションがあるが、「アルマ」の方が参加国・地域数では上回っている。「アルマ」のコストは国際宇宙ステーションより小さいが、「過去最大の国際共同プロジェクト」と言われるゆえんだ。

 この「アルマ」の利用を世界中の天文学者が待っているが、2011年6月の第1回目の観測希望公募では、申請数960件に対して観測が認められたのは111件、競争率は約8.6倍という狭き門だった。

 かつて、私に初めて「アルマ」の構想を話してくれた国際天文学連合会長の海部宣男さん(元・国立天文台長、国立天文台名誉教授)は、「アルマ」プロジェクトの意味をこう説明した。

 「アルマはインターナショナルを超えたグローバルなプロジェクトです。国際協力のプロジェクトとしては理想に近い。日本がそれを成し遂げたのは素晴らしいことだと思います。科学の進歩、文明の進化のための大きな仕事は、今後はグローバルで進めていくべきです。例えば日中関係は政治的には近視眼的になっているが、長い眼で見れば手を取り合っていかなくてはいけないし、そうなるでしょう」

開所式の日本の天文学者たち。左から岡村定矩さん(法政大学教授)、海部宣男さん(国際天文学連合会長)、中井直正さん(筑波大学教授)、小杉城治さん(国立天文台准教授、ALMAチーム)、山本智さん(東京大学教授)、小平桂一さん(後席・元国立天文台長)、阪本成一さん(宇宙科学研究所教授、国立天文台客員教授)。日本からは総勢66人が参列した(撮影:山根一眞)

ガリレオから400年、「電波で見る」とは?

 アルマは、各国が目指す電波望遠鏡のありよう、理想形が一致したからこそ国際共同プロジェクトとなった。

 では、そもそも電波望遠鏡とはどういうもので、「アルマ」は従来の電波望遠鏡とはどう違うのだろうか。

 私たちが思い描く「望遠鏡」は、大きなレンズがついた筒状のものか、大きな反射鏡がついたものだ。これらガラスレンズを組み合わせた光学望遠鏡は、ガリレオ・ガレリイが1609年(江戸時代の慶長14年)に作ったのが最初だから、まだ400年の歴史しかない。倍率がたった10倍の最初のガリレオ望遠鏡からわずか400年で、人類は宇宙の果てまで見える望遠鏡を手にしたことになる。

 私も子ども時代から小さな望遠鏡ではあるが、月のクレーターや土星の輪、木星の衛星、オリオン星雲などを見て感動してきたが、それは「可視光」で見てきたにすぎない。ハワイ島マウナケア山頂にある「すばる」望遠鏡も宇宙のハッブル望遠鏡も「可視光」(赤外光も含む)で天体を見ているが、「アルマ」は電波で見るのである。

450億円を投じて1999年に日本がハワイ島のマウナケア山頂に完成させた世界最大の反射望遠鏡「すばる」。2001年5月、4度目の現地取材時の山根(撮影:山根事務所)
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