毎年初め、世界中の市場関係者から注目を集める「びっくり(サプライズ)10大予想」。これを世に出し続けているのが、米著名ストラテジストで、ウォール街の御意見番の1人とされるバイロン・ウィーン氏だ。

 米モルガン・スタンレー在籍時の1986年から出し始めたこの“託宣”は、米買収ファンド大手ブラックストーン・グループのシニア・アドバイザーになってからも、世界中の投資家から信頼を集め続けている。

 そこで今回、足元で揺れ動く日本に関する「びっくり5大予想」をウィーン氏に直撃インタビューした。(聞き手は松村伸二)

安倍晋三政権の発足以降、日本の経済に動きが出始めています。

バイロン・ウィーン氏(以下、ウィーン):日本に対する世界の関心は確かに高まっています。安倍首相によるアベノミクス政策がうまく機能しそうだ、という意味合いでの関心です。ですが、それに対して100%の確信を持てるかというと、もちろん、そうではないわけです。

アベノミクスで緩やかな成長へ

アベノミクスは、うまくいくと思いますか?

バイロン・ウィーン(Byron Wien)氏
米買収ファンド大手ブラックストーン・グループのシニア・アドバイザー。米ハーバード大学学士取得。ハーバード・ビジネス・スクールMBA修了。米モルガン・スタンレー在籍時の1986年から「びっくり10大予想」を毎年発表している。1995年、ジョージ・ソロス氏との共著「Soros on Soros ― Staying Ahead of the Curve」を発表。1998年にFirst Callより「ウォール街で最も読まれるアナリスト」に、2006年に「New York Magazine」で「ウォール街で最も影響力がある16人」に選ばれるなど「米ウォール街のご意見番」の1人とされる。ニューヨーク歴史協会の理事も務める。(撮影:都築雅人)

ウィーン:安倍首相が取っている戦略は、ある意味、リスキーだと思います。しかしながら、勇敢にリスクのある行動を実行に移したという意味で評価しています。

 日本はこれまでの20年間、デフレ、そして景気の後退を経験してきたわけですが、ここからアベノミクスによる刺激を受け、緩やかな成長に転じていくと考えています。なぜ、緩やかかと言うと、欧州や米国と同じで、先進国がいきなりここから急成長に転じるとは考えにくいからです。

 当然ながら、円安の進行や、財政赤字の増大といったものを「リスク」要因として、これからも抱え続けることになります。金融政策と財政政策によって、日銀のバランスシートを大きく膨らませていくことが不安定な要素をもたらすわけです。しかし、このことが成長ももたらすということも間違いないと思います。そして、その後、安定へと向かっていくと考えます。

びっくり予想1:「ワン・イレブン(111)」

バイロン・ウィーンさんと言えば、毎年発表する恒例の「びっくり(サプライズ)10大予想」が世界の市場関係者から注目を集めます。今回、特別に、日本に関する「ビックリ予想」を5つ挙げてください。

ウィーン:1つ目の予想は「1、1、1」という、1の数字がちょうど3つそろうというものです。「ワン・イレブン(111)」と覚えてください。最初の1は「1%の成長」を意味します。それから「1%のインフレ率」、そして「1%の日本国債利回り」です。これらは、来年のどこかの時点で、そうなると思います。

日銀はインフレ率の目標を「2%」と設定しています。「1%」の予想値は、日銀による目標達成が難しいという意味ですか?それとも目標に向かうプロセス、つまり前向きな意味ということですか?

ウィーン:後者ですね。1%に到達しないのに2%は達成できません。目標達成への「途上」という意味です。

びっくり予想2:「農業規制緩和で経済活性化へ」

2つ目の予想は何でしょう?

ウィーン:日本の規制環境が緩和傾向に向かっていくと予想します。日本の規制では、小規模な零細企業、または農業といったところの保護政策が非常に手厚いものになっています。しかし、この分野の緩和傾向が続いて自由化されるようなことになれば、経済全体が活性化に向かっていくと考えられます。

日本の農業は特に“がんじがらめ”の世界です。規制緩和は本当に進むのでしょうか?

ウィーン:私が申し上げたのは、「サプライズ」予想ですから、その前提をお忘れなく。しかしながら、私はこうした規制の存在を長年、課題として議論の対象としてきました。これは日本だけのことではありません。

 政治的な意図が働いてしまうが故に、ある一定の業界、今は農業を例に出していますが、そういったところが、政治的・文化的な背景で“利権”を握ってきたという歴史は、どこの国でも見られるものです。そのことが全体の成長を阻害してきたというのは、他の国、中でも米国で見られてきたことです。

 日本がこれから前進しようとしているときに、これまでのような手厚い保護の仕方を農業政策で続ければ、成長を阻害すると思われます。今の保護政策というのは、必ずしも良いこととは言えません。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り2713文字 / 全文文字

【初割・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題