【1】時尾との再会
明治8年(1875)夏。
新島襄(役・オダギリジョー)がはじめて山本家で過ごした夜、庭に出て考えごとをしていた襄の姿を、みね(役・三根梓)、久栄(役・太田しずく)がお化けと見間違えて悲鳴をあげる。
そのころ、八重(役・綾瀬はるか)は、親が送ってきた許嫁の写真を友だちに見せて、うれしい悲鳴をあげている女紅場(にょこうば)の寮の女生徒をやんわりと叱る。
八重は「嫁入りか」とつぶやき、襄にプロポーズされたことを思い出し、「気になって眠れねえ」と吐き捨てるように言って部屋にもどっていく。
翌朝、襄は昨晩のことを食事の席で皆に詫びる。襄は、眠れなかった理由を八重にプロポーズしたためだと打ち明け、佐久(役・風吹ジュン)らを驚かす。というか、呆気にとられる。
食事のあと、食器を台所に運ぶ襄を、時栄(役・谷村美月)とみねが止める。だが襄は、早く片付くし、食いしん坊だから台所が好きなのだと言い、ふたりと談笑をはじめる。
そのやりとりを、遠くから覚馬(役・西島秀俊)と佐久が聞き、覚馬は襄の人柄を褒め、佐久は八重に結婚を申し込む男がいたことに苦笑いする。
女紅場で、八重が縫い物を教えている(!)ところへ、高木時尾(役・貫地谷しほり)が訪ねてくる。鶴ヶ城が開城して以来の再会だった。時尾のうしろには、かつて新選組だった斎藤一(はじめ)(役・降谷建志)がいて、「旦那さまです」と紹介される。その斎藤が女生徒たちの熱い視線を浴びる。襄のときといい、いい男を見たら目がハートになる女生徒たち。
襄は、京都府庁に槇村正直(役・高嶋政宏)を訪ね、学校設立届け出の書類を提出する。だが外国人教師の雇用は許可できないと書類を突っ返される。
京都は、開港地でも、外国人居留地でもない、しかも僧侶たちが学校設立反対の嘆願をしているからだという。襄が「話が違います」と抵抗すると、嘆願書の束を放り出し、自分で寺を回って口説けと言われる。
【2】懐かしい人々
八重は、時尾と斎藤を山本家に連れてきている。
昨年祝言を挙げ、山川浩(役・玉山鉄二)と佐川官兵衛(役・中村獅童)の取り計らいで、松平容保(かたもり)(役・綾野剛)が仲人をしてくれたのだという。
結婚式の回想シーン。結婚式の参列者が、容保、官兵衛、浩とは、なんと贅沢な。というか、綾野剛ファンのためのシーンですかね。
官兵衛が、斎藤に「穏やかな顔つきになった」と指摘すると、斎藤も「佐川さまもご同様では」と言い返す。たしかに、官兵衛役の中村獅童、怖くない。笑っている。
容保が、一日も欠かすことなく、戦で亡くなった者たちの供養をしていると聞き、山本家の者たちは涙ぐむ。
そこへ襄が帰ってくる。ああ、空気読めない男。
槇村が態度を変えた話を聞き、「なに!?」と反応する覚馬の顔が怖い。
夜、八重と時尾は縁側にすわって話をしている。
斎藤は、官兵衛の引き立てで東京の警視庁に勤めているという。
時尾は、斎藤とのなれそめを話し、尚之助(役・長谷川博己)と訴訟のことを八重に話して聞かせる。
八重は、辛いからこそ尚之助といっしょにいたかった気持ちに変わりはない。
だが時尾は、もし八重さんが尚之助さんの立場だったら、大事な人に辛い思いをさせたくないのでは、と諭す。
そこへ襄と斎藤が顔を出し、これから襄の部屋で飲み明かすという。斎藤は、襄から聞いたアメリカの話がおもしろいらしく、すでに、かなり酔っ払って楽しそうにしている。斎藤が笑っていることを時尾は驚く。
襄も愉快そうにしているが、じつはキリスト教に誓って酒を飲まず、素面(しらふ)なのだ。
それにしても襄は、山本家の人々のみならず、初対面の人をも籠絡(ろうらく)する、坂本龍馬並の「人たらし」ぶりを発揮している。
斎藤は、酒が進むにつれ、自分のことを襄に話しはじめる。斎藤は、自分が斬り合いに明け暮れていた京都を時尾に見せたかったのだと言う。
襄は、このとき、人は過去から逃げることはできない、受け入れるしかないと悟ったのかもしれない。
奇しくも、『八重の桜』の斎藤一(役・降谷建志)、『新選組!』の斎藤一(役・オダギリジョー)の対談となりましたね。NHKの大河ドラマファンへのサービスでしょうか。
【3】尚之助の死
川崎尚之助は、浅草の鳥越(とりごえ)にある町家(まちや)で、咳き込みながら書き物をしている。
惣菜を運んできた近所の女性(手習いを教えている子どもの母親かな)が机に突っ伏している庄之助を見つけ、肩に手をかけると尚之助は畳のうえに倒れる。死んでる? 女性が医者を呼びに行ったあと、仰向けに倒れた庄之助の口から「八重さん……」と漏れる。最期の言葉だったのだろう。
長谷川博己の人気があるため、ぶち込んだシーンですね。
八重が女紅場の教室で、英語の歌の本から歌詞を書き写していると、ほかの女性教師がやってきて、褒める、というか、冷やかす。そこへ舎監がやってきて、急ぎ帰宅するよう言われる。
襄は、寺の門前で僧侶と押し問答のすえ、突き飛ばされ、左の手のひらに怪我をする。
八重が山本家にもどると、覚馬と佐久が暗い顔をしている。
東京から報せが来て、尚之助が死んだ、と言う。胸を患(わずら)って病院に入院していたが、抜け出して、会津の戦いで見聞きしたことを自ら書いていたという。八重はその『会津戦記』の原稿を手渡される。籠城戦の途中で絶筆になっているという。覚馬が読めるはずがなく、『会津戦記』が手元に届いてから八重を呼ぶまでのあいだに、時栄が朗読して聞かせたのか?
今日は尚之助の供養をしようという佐久の言葉に反し、八重は女紅場にもどろうと家を出る。
そこへ襄が帰宅する。左の手のひらに怪我をしており、薬箱を出してほしいという。またも空気を読めていない襄。
襄の手のひらの傷を見て、八重は、かつて尚之助の怪我を手当したときのことを思い出し、「また一人で勝手に……」とつぶやく。
八重、襄の手当してやれよ。
襄が、覚馬から渡された『会津戦記』を読んでいる。覚馬は、襄に尚之助のことを話し、「ゆっくりと時をかけた戦死だ」と悔しがる。襄は、死を目前にした者の字とは思えぬほど力強い字で書かれていると言い、覚馬の手をとり、自筆原稿の最後のあたりの文字をなぞらせる。覚馬の目から涙が溢れる。
夜、八重は、女紅場の自室の文机(ふづくえ)の前にすわり、涙を流しながら、「わたしは、また、置いていかれた」とつぶやく。
【4】過去と向き合うピクニック
八重は、ゴードンに聖書を教わっていても、うわの空だった。ゴードンが授業を打ち切る。そこへ、アグネス夫人(役・シンシア・チェストン)といっしょに襄が顔を出す。
襄は、バスケットを手に八重をピクニックに誘い、ふたり乗りの人力車に乗せた。人力車が向かったのは、三郎(役・工藤阿須加)が戦死した場所。帰るという八重に、襄は「(過去と)向き合ったほうがいい。辛くても」と言う。
襄が八重の手をとり、地面に触れさせる。目を閉じた八重は、三郎、父権八(ごんぱち)(役・松重豊)、尚之助の、ありし日の姿を思い出し、涙を流す。会津時代の、あんなこと、こんなことの回想シーン。
尚之助の「あなたは新しい時を生きる人だ」の声が聞こえてきたような気がする八重。
八重が目を開けると、襄がバスケットからサンドイッチを取り出す。襄が作ったというサンドイッチを食べた八重は「美味しい」と言う。
【5】ともにホームを
襄の学校設立は好転しないまま秋を迎えていた。
覚馬が直談判に出向くと、槇村は問題がふたつあるという。ひとつは寺の反対、もうひとつは外国人宣教師を雇うこと。外国人宣教師が学校で教えることは法令違反だという。
京都のためではなく、自分の出世にこだわる槇村を批判すると、「会津の者に話してもしかたなかろう」と覚馬は言われてしまう。
襄が、寺の門前で押し問答したすえ、またも放り出されるところに、八重が通りかかる。八重を見上げる目は、まるで捨てられた子犬のよう。
八重は、山本家にもどり、襄の右の手のひらの傷の手当をする。
襄が、もういちど「わたしの妻になってください」とお願いする。
第35回のタイトル「襄のプロポーズ」は、ここから。
八重は「尚之助さまを忘れることはできねえから」とつぶやく。襄は「良いのです、それで。むしろ、忘れないでいて欲しい。わたしは、川崎さんに喜んでいただけるような夫婦になりたいんです。わたしの伴侶となる人は、あなた一人しかいない。あなたとなら共に歩んでいける。すばらしいホームが築ける。どうかお願いします」と言われ、八重は「はい」とうなずく。わが耳を疑って驚く襄に、八重は「新島さんは、ほんとうにおもしろい」と言う。
襄は、息ができないほど強く八重を抱きしめ、勢いあまって、ふたりとも倒れ、笑う。
ここで、第35回は幕を閉じる。
【まとめ】
襄の、空気が読めず、天然の入ったような、どこか憎めないキャラが出てきた回でした。このまま長谷川博己に負けぬくらいオダギリジョーの人気が高まればいいのですが。
今回、冒頭のクレジットですが、時代考証担当が、同志社大学教授の本井康博氏と山村竜也氏でした。山村氏と東京学芸大学教授の大石学氏(日本近世史)は交互で名前を出すことになったのな。また「作 山本むつみ」とだけで、やはり脚本家の名はありませんでした。
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