【1】  連載を始めるにあたって
      ―期待したい大河ドラマ「平清盛」


 時代劇の衰退が始まって久しい。ついに、2011年12月には、TBS系列の「水戸黄門」が姿を消してしまった。これでレギュラーで放送する時代劇は、ほぼNHKの大河ドラマだけになってしまった。

 

 ところで、大河ドラマは歴史的事実をベースとした時代劇である。しかし、良質の史料のみによって、ある人物や事件をすべて語りつくすことはできない。史料の欠ける部分については、作者が当時の情勢を十分に踏まえたうえで「豊かな想像力」により、「あったであろう」史実を描きだす必要がある。そして、それが視聴者を唸らせることができれば、何も言うことはない。

 

 ところが、最近の大河ドラマは史実の無視が目立ち、荒唐無稽な話で組み立てられることも多々ある。大河ドラマの「ホーム・ドラマ化」ということも指摘されて久しい。こうしたことが本来の視聴者である年配者層を遠ざけ、歴史ファンからも酷評を受けることになった。それでも、時代劇が不振な昨今、「平清盛」には大きな期待を寄せたいと思うのである。


 

【2】  第1話から第4話までの「あらすじ」と「みどころ」

 
「平清盛」の初回は1月8日に放映されたが、本連載の開始が2月1日という事情もあるので、まとめて4回分を掲載することにしたい。

 

 第1話から第4話までのみどころは、何といっても史料がほとんどない清盛の幼少期をいかに描くかにある。清盛の出生は神秘のベールに包まれており、幼少期の生活についても知られるところが少ない。したがって、幼少期の清盛を描くことは大変な困難であるし、今後のドラマの展開を大きく左右する要素となる。果たして、その点をいかに描ききるのだろうか。まず、ごく簡単にあらすじを述べておくことにしよう。

 

第1話「ふたりの父」のあらすじ

 第1話では、忠盛が白河院の子を身籠った白拍子の舞子と偶然出会う。白河院のもとを出奔した舞子は忠盛に匿われ、清盛を無事出産した。清盛の出生に関しては諸説あるが、白河院の落胤説を採用したのである。しかし、舞子の存在は白河院の知るところとなり、院の面前で殺害されてしまう。忠盛は子供に「平太」と名付け、自身の子として育てることになる。ここでは、舞子の扱いに注目しておきたい。

 

◎第2話「無頼の高平太」のあらすじ

 第2話では、青年に成長した平太の姿が描かれている。平太は日常的に博打場に出入りし、放蕩無頼な生活を送っていた。やがて、平太は元服して清盛と名乗る。一方で、海民の家人・鱸丸(すずきまる)の父が殺生禁断の法を破り、捕らえられたことに対し、清盛は白河院に激しい怒りを募らせる。ラストでは史実である石清水社での舞のシーンで、白河院に斬りかかるようなしぐさを見せる。ここでは、清盛と白河院の関係に注目しておきたい。

 

◎第3話「源平の御曹司」のあらすじ

 第3話では、相変わらず放蕩無頼な生活を送る清盛がついに朝廷に捕まってしまう。清盛は父忠盛に自ら責めを負うと申し出るが、逆に自らの生活の甘さを叱責される。一方で、父忠盛のライバルである源為義は、わが子義朝を「北面の武士」に採用してもらうため奔走する。落ち込んだ清盛は、義朝に競馬の勝負を申し込むも敗北。翌日、清盛は「北面の武士」になるべく伺候した。ここでは、清盛の放蕩無頼な生活に注目しておきたい。

 

◎第4話「殿上の闇討ち」のあらすじ

 「北面の武士」として仕える清盛は、失敗の連続であった。おまけに、武士の心を忘れた同僚たちに対しても失望する。父忠盛は殿上人(でんじょうびと)になるが、祝宴の際に舞を披露させられ、貴族たちから激しいイジメにあう。また、為義は昇進が遅いことを悲嘆し、子息義朝から叱責される。殿上の闇討ちのシーンは史実と異なるが、危機を脱した忠盛は清盛に「王家の犬にならない」と宣言する。ここでは、為義の行動に注目しておきたい。





【3】  疑問に感じる点

 
 
以上のように「平清盛」の第1話~第4話まではみどころ満載なのであるが、やはり疑問点が出てくるのも仕方がないところである。以下、その点を述べることにしよう。

 

●第1話「ふたりの父」の疑問点

 今回のドラマでは、基本的に清盛が白河院の落胤であるとの説を踏襲している。落胤説の当否は別として、ドラマの組み立てがいささか拙速である。白河院の子を身篭った白拍子の舞子が忠盛に救われるが、忠盛は父正盛の反対を押し切ってまで、舞子をかくまおうとする。その理由がはっきりしない。単に忠盛が舞子を好きになったからか。それにしてもすぐにばれそうなことでもあり、リスクが大きすぎる。

 

 ところで、舞子は白拍子にもかかわらず、なぜか「子」のつく貴族名である。召し出されて死罪を申し付けられるのはまだしも、白河院の面前でしかも大の大人数人が、か弱き女性に一斉に矢を放って殺害する。これでは貴族が嫌う穢れが生じてしまい、具合が悪い。せめて取り押さえて、のちに河原で処刑にすべきであろう。それよりも、落胤の存在がばれるのを恐れるならば、清盛が生きているほうが具合が悪いのではないか。余談であるが、かつて「電線マン」で名を馳せた伊東四朗が演じる白河院は、なかなかの怪演を見せている。

 

 また、少年期の清盛が、盗賊の朧月(おぼろづき)の遺児から白河院の落胤であることを聞かされる。ええっ、子供までみんな知っているの!という感じである。これもかなり腑に落ちないが、幼い清盛がその事実を確かめるため単身で院の御所に忍び込み、白河院に直接尋ねるシーンは理解を超えているといってもよい。孫がじいちゃんの家に遊びに行くのとはわけが違う。白河院は大人でもなかなか会えないのだ! ありえない話である。

 

●第2話「無頼の高平太」の疑問点

 清盛の政治批判は、少々度を越えているようである。殺生禁断が全国の隅々に行き渡り、瀬戸内海にいた鱸丸の父が捕らえられるというのも合点がいかない。日々の食生活はどうなるのか? せめて洛中の範囲が対象であろう。そして、清盛は鱸丸の父を解放してもらうため、白河院に直訴する。実の父だからか? これもありえない話である。清盛が民衆に肩入れするのは構わないが、まるでカール・マルクスが乗り移ったかのようである。

 

 元服という晴れがましい儀式で、清盛が小汚い姿であらわれ、はなから元服する気がないというのもいかがなものか。おまけに最後は、周囲に押さえつけられての元服である。いうまでもないが、武士にとって元服は重要であり、それを拒否する姿勢は首をひねらざるを得ない。

 

 最後は、石清水社での清盛の舞である。舞が何とも奇妙で美しくない。それに清盛が薄汚れて小汚い。顔くらい洗ってほしい。『中右記』によると、このとき清盛は数人の公達(きんだち)に混じって、華麗な舞を披露したという。それどころか、外から急に刀が飛んできて、最後は白河院に斬りかかるようなそぶりを見せる。いったい警護はどうなっているのか。このとき清盛のライバルとなる義朝が高見の見物をしているが、実際には数えで7歳の子供である。7歳の子供が玉木宏!? 違和感があるなあ・・・・・。

 

●第3話「源平の御曹司」の疑問点

 第3話でも、清盛は相変わらず放蕩無頼な生活をしている。これは織田信長を意識しているのか。若いころはぐれていて、子供じみた政治批判を繰り返す清盛。何だかスケールが小さいなあ。『平家物語』での清盛は、頭の切れ味がするどく、容姿端麗な美少年であったというではないか。それなのに、小汚い子供を引き連れて、「おれの郎党だ!」と息巻いている。ちょっとどころか、かなり違うようだ。

 

 実は承知のとおり、大治4年(1129)に清盛は12歳で元服したが、同時に従五位下になり、左兵衛佐に任じられている。『長秋記』によると、この破格の人事が発表されると、みな大いに驚いたという。事実は全く逆で、元服の段階から清盛は、栄達の道を歩んでいたのである。したがって、いつまでもくちばしの黄色いことを言って、子供愚連隊を率いている場合ではないのである。全然違うぞ・・・・・。

 

●第4話「殿上の闇討ち」の疑問点

 冒頭で清盛はヘマの連続であるが、これも「庶民的なイメージ」を植えつけるためか。和歌の講評ではトンチンカンなことを述べて、大恥をかく。アホ丸出しであり、いささか絶句してしまった。佐藤義清(のちの西行)との対比とはいえ、あまりに気の毒な印象を受けざるを得ない。本当は美麗な貴公子なのだから。

 

 義朝の父為義があまりに情けない。たしかに為義は検非違使(けびいし)として活躍するが、自分自身や郎党の失態によって、信頼を失っていた。出世には結びつかなかったが、武士としてはなかなかの者だったように思う。それでも息子義朝から激しい叱責を受けるのは、いかがなものか。おまけに清盛との会話の中で、「お父さんを交換しよう」とは・・・・・。 保元の乱の布石とはいえ、あまりに為義がみじめで情けないと感じてしまう。

 

 「殿上の闇討ち」では、お決まりの話ではなく、為義が単身乗り込んで忠盛を暗殺しようとするシーンである。少しがっかり。生活に困った人が、思い詰めて強盗するような印象を受けた。しかも一族・郎党を引き連れてではなく、なぜか為義は単身である。源氏の棟梁だよ。それを事前に清盛らが察知しているのも不可思議である(前のシーンで知ることになる)。最初からバレバレで、いくらなんでもがっかりである。このとき忠盛が初めて「王家の犬では終わりたくない」と清盛にいう。清盛は父の本心を知り、大喜びする。ええ、今までなんでずっと隠していたの? という感じ。無邪気に喜ぶ清盛をとても幼稚に感じてしまった。本当は賢いのに・・・・・。

 


●●むすび

 いろいろと書いてきたが、みどころは満載である。ちなみ私は、堀河局(つぼね)役のりょうと待賢門院璋子(たいけんもんいんたまこ)役の壇れいが大好きである。りょうはできれば、眉毛を少し濃くしてほしい(顔が怖いから)。それに壇れいは、ちょっとおバカさんみたいな感じかな。もう少し思慮深い女性にしてほしい。個人的な要望である。できれば「小汚い清盛」はお止めいただきたいと思う。大河ドラマは、連続時代劇としてほぼ唯一の存在である。今後に強く期待したい!