5日、ベルギーの首都ブリュッセルに拠点を置くシンクタンク、国際危機グループ(International Crisis Group)は、韓国の情報コミュニティーに見られる問題点について検討した報告書を発表した。
周知のように、最近、韓国において、インテリジェンス関係のスキャンダルが相次いで発生している。たとえば、2012年末に行なわれた大統領選挙では、国家情報院がネット上での世論操作に関与したという事件が発覚した。2014年4月には、北朝鮮が絡むスパイ事件において、裁判所に提出した証拠が国家情報院によって捏造されたものであることも明らかになっている。
また、同じ時期、韓国南西部沖で発生した旅客船沈没事故において、韓国政府の対応のまずさが槍玉に上がり、大統領府国家安全保障室の金章洙(キム・ジャンス)室長とともに、国家情報院の南在俊(ナム・ジェジュン)院長が引責辞任する事態となった。
不祥事があったのは、国家情報院だけではない。軍部もまた、2014年4月、北朝鮮から飛来した無人機が韓国大統領府の上空を旋回していたにもかかわらず、レーダーで捕捉することに失敗した。しかも、その無人機が帰還途中に墜落した残骸を見て、初めて無人機の到来を知るといったお粗末ぶりで、韓国軍の危機意識の低さを露呈する形となってしまった。
今回、発表された報告書は、こうしたスキャンダルを引き起こした、韓国の情報コミュニティーが抱える「病理(pathologies)」として、情報収集・分析能力の低さ、情報の政治化、情報機関による国内政治への介入を指摘している。その病理を生む根本的な要因としては、韓国の情報機関があまりにも政治的な動機に基づいて行動しすぎる点だ。したがって、報告書では、情報機関を政治から切り離し、議会や司法からのオーバーサイトを受ける制度に改めつつ、官僚や国会議員もまた、短期的な政治的利益のために機密情報をリークするようなことはやめるべきだと勧告している。
一方、情報収集・分析能力の向上に関しては、北朝鮮の軍事的脅威に対処するために、アメリカから無人機を導入し、偵察・監視能力を高めることを勧告している。また、北朝鮮に関するインテリジェンスを共有するために、日本との軍事情報包括保護協定(General Security of Military Information Agreement)を締結することも挙げており、韓国の情報コミュニティーにおけるパフォーマンスの向上にあたっては、日米からのサポートが必要であることが示唆されている。
実際、韓国の安全保障環境は、到底、安穏としていられる状況ではない。ここ数年、北朝鮮は、核開発だけでなく、ミサイルの発射実験を繰り返し行なっているし、2010年11月には、延坪島への砲撃によって、韓国軍兵士2人が死亡するといった事件も起きている。こうした軍事的な脅威に対処するには、正確なインテリジェンスとそれをきちんと政策プロセスに乗せるシステムが不可欠である。韓国政府は、この報告書で出された勧告を参考としつつ、情報機関の民主的統制に配慮しながら、情報コミュニティーの制度改革に取り組むことが望ましいだろう。
【関連資料】
Risks of Intelligence Pathologies in South Korea
International Crisis Group, August 2014.
Ys-K
周知のように、最近、韓国において、インテリジェンス関係のスキャンダルが相次いで発生している。たとえば、2012年末に行なわれた大統領選挙では、国家情報院がネット上での世論操作に関与したという事件が発覚した。2014年4月には、北朝鮮が絡むスパイ事件において、裁判所に提出した証拠が国家情報院によって捏造されたものであることも明らかになっている。
また、同じ時期、韓国南西部沖で発生した旅客船沈没事故において、韓国政府の対応のまずさが槍玉に上がり、大統領府国家安全保障室の金章洙(キム・ジャンス)室長とともに、国家情報院の南在俊(ナム・ジェジュン)院長が引責辞任する事態となった。
不祥事があったのは、国家情報院だけではない。軍部もまた、2014年4月、北朝鮮から飛来した無人機が韓国大統領府の上空を旋回していたにもかかわらず、レーダーで捕捉することに失敗した。しかも、その無人機が帰還途中に墜落した残骸を見て、初めて無人機の到来を知るといったお粗末ぶりで、韓国軍の危機意識の低さを露呈する形となってしまった。
今回、発表された報告書は、こうしたスキャンダルを引き起こした、韓国の情報コミュニティーが抱える「病理(pathologies)」として、情報収集・分析能力の低さ、情報の政治化、情報機関による国内政治への介入を指摘している。その病理を生む根本的な要因としては、韓国の情報機関があまりにも政治的な動機に基づいて行動しすぎる点だ。したがって、報告書では、情報機関を政治から切り離し、議会や司法からのオーバーサイトを受ける制度に改めつつ、官僚や国会議員もまた、短期的な政治的利益のために機密情報をリークするようなことはやめるべきだと勧告している。
一方、情報収集・分析能力の向上に関しては、北朝鮮の軍事的脅威に対処するために、アメリカから無人機を導入し、偵察・監視能力を高めることを勧告している。また、北朝鮮に関するインテリジェンスを共有するために、日本との軍事情報包括保護協定(General Security of Military Information Agreement)を締結することも挙げており、韓国の情報コミュニティーにおけるパフォーマンスの向上にあたっては、日米からのサポートが必要であることが示唆されている。
実際、韓国の安全保障環境は、到底、安穏としていられる状況ではない。ここ数年、北朝鮮は、核開発だけでなく、ミサイルの発射実験を繰り返し行なっているし、2010年11月には、延坪島への砲撃によって、韓国軍兵士2人が死亡するといった事件も起きている。こうした軍事的な脅威に対処するには、正確なインテリジェンスとそれをきちんと政策プロセスに乗せるシステムが不可欠である。韓国政府は、この報告書で出された勧告を参考としつつ、情報機関の民主的統制に配慮しながら、情報コミュニティーの制度改革に取り組むことが望ましいだろう。
【関連資料】
Risks of Intelligence Pathologies in South Korea
International Crisis Group, August 2014.
Ys-K