July 2012

インド情報部(IB)が初の公式史編纂に着手か

インドでは、国内の治安・防諜活動を担当している法務省直轄の情報機関、情報部(Intelligence Bureau、IB)において、公式史(official history)を編纂しようというプロジェクトが進行しつつあるようである。

きっかけは、2011年、インドの対テロリズム政策を改善するための提言を求める書簡において、ネーチャル・サンドゥ(Nehchal Sandhu)IB長官が、IBの歴史についても、これを機会に振り返りたいと言及したことだ。その後、周囲から促されたこともあって、元インド警察情報部長のアミヤ・サマトラ(Amiya Samantra)氏を中心に、IBのスタッフや学者によって構成されるチームが結成され、公式史編纂に向けた計画が着手されたようだ。

IBといえば、長い間、闇のベールに包まれてきた情報機関であった。現在においても、議会に対して活動報告の義務が課されていないので、その実態についてはよく分かっていないことが多い。それにもかかわらず、公式史編纂に乗り出したのは、IBのカウンターパートであるイギリスの情報局保安部(MI5)が、2010年、ケンブリッジ大学のクリストファー・アンドリュー教授によるMI5の公認史(authorized history)を出したことに影響を受けたからだとみられている。

もし公式史を世に出すとなれば、IBにとって、きわめて画期的な出来事である。闇のベールを自ら外すということでも十分、興味深いが、そもそもIBは、イギリス植民地の時代から続いてきた情報機関であり、その歴史は、世界の情報機関の中でも最も古いという説もある。1962年、中印国境紛争で中国の奇襲を許したことから、海外での情報活動は研究分析局(Research and Analysis Wing、RAW)という組織に移されてしまったが、治安・防諜活動を通じて、インドでは、相変わらず隠然とした政治的な影響力を持つと言われている。

公式史では、そうした歴史や転換点について、内容上、どこまで踏み込めるかが注目される。現時点において、いつ出版されるのかは決まっていないようだが、大きな期待を寄せておきたい。

【関連記事】
"Intelligence Bureau to take off cloak & bare the dagger"
Daily News and Analysis India, July 30, 2012.


Ys-K

防衛駐在官という「忙しすぎる」任務

防衛駐在官という任務 ~38度線の軍事インテリジェンス~ (ワニブックスPLUS新書)
防衛駐在官という任務 ~38度線の軍事インテリジェンス~ (ワニブックスPLUS新書)

ここ数年、インテリジェンスの任務を担当したことがある元自衛官の回顧録が相次いで出版されている。人づてに聞いた話だと、社会科学の分野において、インテリジェンスをテーマにした本は結構、売れるらしいので、それならば、実務経験者から現場でのエピソードを大いに披露してもらおうという企画が、出版社でも通りやすいのかもしれない。出版不況が長引く中で、少しでも売れ線を追求することは、企業努力として当然のことである。

もちろん、そうした回顧録が世に出ることは、出版社にとって経済的な利益につながるだけでなく、一般の読者にとっても、情報活動の内容や実態について知る機会を与えてくれる。信じ難いことだが、以前、ある会合で政治家を志す人たち、いわば「政治家の卵」と話した際、いまだに情報活動をジェームス・ボンドの世界で見られるようなものとして認識していることに、正直、驚きを隠せなかった。将来、政治家になって日本を改革しようと考えている人たちでさえ、エンターテイメントの影響を強く受けてしまっているのだから、一般の読者については、推して知るべしだろう。

その点で、本書においては、防衛駐在官という任務を通じて、インテリジェンスが普段、どのように実践されているのかを把握することができる。防衛駐在官とは何か。端的に言えば、在外公館に駐在して、軍事に関する情報収集を担当する職員のことである。戦前は、駐在武官と呼ばれていたが、敗戦によって、その制度は廃止された。しかし、1954年、自衛隊が発足すると、駐在武官と同じ趣旨で「防衛駐在官」制度が開始されたのである。

著者の福山隆氏は、1990年、韓国の日本大使館に防衛駐在官として派遣され、その後、約3年間にわたって、朝鮮半島情勢に関する情報収集や情報分析を担当してきた人物である。したがって、本書の内容は、基本的に福山氏自身の経験や視点を中心に書かれていて、防衛駐在官の任務全般を広く解説するものではない。だが、インテリジェンスの現場に立つ人間の感覚や雰囲気といったものを知るためには役立つものだと言えるだろう。

さて、防衛駐在官の情報活動とはどんなものなのだろうか。福山氏によると、その性格は外交官と同じで、情報を持っている関係者から密かに情報を聞き取ることが主体であるという。これは、いわゆる「人的情報収集(human intelligence、HUMINT)」と呼ばれるものだ。こう言ってしまうと、怪しげなスパイ活動に関わっていたのではないかというイメージを与えてしまうかもしれないが、早い話、政府高官やマスコミ、場合によっては、事情通といった人脈を地道に構築して、できるだけ精度の高い情報を入手することが目的である。組織に侵入し、機密文書を写真に収めて帰還するといった工作活動は行なわれていない。

集められた情報は、事前に決められた調査テーマや政府の要望などに応じて分析にかけられる。福山氏によると、このときに大事なことは、分析対象となっている地域の歴史や地政学を頭に入れつつ、起こり得る複数のシナリオを作り上げることだという。その上で、その後、入手される情報から裏付けが取れるシナリオを残していき、絞り込みをかけて、最終的に残ったシナリオがインテリジェンスになるのだとしている。

福山氏が韓国に派遣されていた時期は、ちょうど「民主化宣言」が出されて間もない頃であり、韓国の国内政治は安定化を模索する時代であった。一方、北朝鮮は国際的に孤立を深め、近いうちに内部崩壊するのではないかと見られていた。その場合、北朝鮮から難民が韓国に流入するかもしれなかったし、国内の不満を外に向けるために北朝鮮軍が韓国に攻撃を仕掛ける可能性も懸念された。

そうした中で、福山氏は、防衛駐在官として忙しい日々を過ごしていたのだが、実際のところ、インテリジェンスの任務で忙しいというよりも、たとえば、日本から政府高官が来韓した際の準備に追われるというのが真相といった感じだ。本書にも記されているが、3年間で1,000人以上の公式・準公式の韓国訪問者や旅行者のアテンドをこなしたそうである。総理や外務大臣が訪韓した時には、「配車係」を担当していたというから驚きだ。こんな状況では、インテリジェンスの任務に集中することは難しい。せいぜい何らかの事件が起きた時、新聞や雑誌などで客観的な事実を確認しながら、事情に通じた人に話を聞くといった程度のことしかできないだろう。

また、インテリジェンスの任務自体に関しても、非常に孤独な作業となっている。福山氏は、インテリジェンスに携わる人間には膨大な知識と教養が必要だと指摘しているが、現実として、それはなかなか難しいだろう。そのため、集合知として成立させるために、インテリジェンスの作成段階においては、分析官同士が積極的に議論して、シナリオの妥当性を検討するといった作業が求められるのだが、そういった場面は、本書においてまったく出てこない。

最大の原因は、人員不足である。1990年において、韓国に配置されていた防衛駐在官は、陸・空自衛官各一名のみであり、海上自衛官は派遣されていなかったそうだ。現在は、陸・海・空自衛官各一名が置かれるようになったようだが、現場でのインテリジェンス能力を向上させるのであれば、もっとスタッフを充実させる必要があるだろう。あるいは、防衛駐在官の任務が、情報分析ではなく、情報収集や情報交換に力点が置かれているとしても、上記のような体制では、貧弱と言わざるを得ないのではないだろうか。

特に朝鮮半島は、ちょうどアメリカと中国の勢力圏の境界上に位置しており、世界的に見ても、軍事上、最も危険な地域の一つといっても過言ではない。本書を通して、防衛駐在官の日常を垣間見ることができるのはよいとしても、幾分、そうした心許なさを感じずにはいられなかったのであった。


Ys-K

アメリカとイスラエルの微妙な関係

アメリカにとって、イスラエルは中東における重要な同盟国である。したがって、過去にイスラエルがアラブ諸国から攻撃を受けた際には、必ずアメリカは支援に動いたし、イスラエルが独自に軍事行動に踏み切った際も、結果として、それを容認し、厳しい制裁を加えるようなことはしなかった。

しかし、情報活動の分野では、そうした同盟国であっても、決して心を開かないというのがよくある光景である。アメリカとイスラエルもまた、そうした関係の一つだといえよう。

たとえば、あるCIA局員の話として、イスラエルに派遣された際、本部との連絡に用いる通信機器が入った箱を開いたとき、何者かがすでにいじった形跡を発見したという。また、別のCIA局員は、イスラエルで自宅に戻ったとき、冷蔵庫の中身が入れ替わっていることに気づいたという。CIAでは、これらはいずれもイスラエルの治安当局によって行なわれた仕業だと見なしている。

アメリカとイスラエルは、紛れもなく同盟関係である。しかも、その関係は堅固なように見える。もちろん、それは間違いないのだが、その一方で、イスラエルはアメリカにとって防諜上の脅威ともなっている。実際、CIAの中東部門では、防諜上、イスラエルが最大の脅威に設定されているらしい。これは、アメリカの国家機密を守る上で、イスラエルよりも他の中東諸国の方が安全であることを表している。裏を返せば、イスラエルはアメリカに対して積極的に情報工作を仕掛けているのである。

もちろん、アメリカもまた、同盟国だからといって、イスラエルを全面的に信用しているわけではない。とりわけイスラエルが周辺のアラブ諸国に奇襲を仕掛けることを警戒して、国家安全保障局(National Security Agency)は常時、イスラエルを監視しているし、情報協力のパートナーシップにおいても、イスラエルは「第二列(second-tier)」に置かれている。これは、「第一列(first-tier)」に位置づけられているイギリスに比べて、イスラエルが下位にあることを示しており、アメリカとイスラエルが決して「特殊な関係(special relationship)」ではないことを表している。

それにもかかわらず、アメリカがイスラエルとのパートナーシップを強く求めざるを得ないのは、中東地域での情報活動において、イスラエルが最も優れた実績を誇っているからだ。一方、イスラエルがアメリカに積極的に情報工作を仕掛けるのは、中東問題におけるアメリカの出方を探るとともに、その政策決定に影響を与えるためである。

元CIA局員のジョセフ・ウィップル氏は、その関係について、「イスラエルにはイスラエルの利益がある。アメリカにはアメリカの利益がある。アメリカにとって、それは差し引きするものだ」と表現している。すなわち、アメリカとイスラエルの関係は、この何とも言えない微妙な間合いを了解することによって成り立っているのである。

【関連記事】
"US sees Israel, tight Mideast ally, as spy threat"
U.S. News and World Report, July 28, 2012.


Ys-K

北朝鮮で相次ぐ粛清の背後に張成沢氏の存在あり

金正恩体制に移行してから北朝鮮内部で起こっているのは、国内の権力基盤を固めるための相次ぐ粛清だ。こうしたとき、粛清の理由として頻繁に持ち出されるのがスパイ容疑である。歴史をひもとくと、たとえばソ連や中国といった共産主義諸国やナチスなどの全体主義国家において、権力者のライバルを失墜させるために、スパイ容疑をふっかけて身柄を拘束し、最終的に処刑するといった光景は繰り返し現われた。北朝鮮においても、同様のことが今現在、進行しているのである。

ただ、一連の粛清は、金正恩第一書記自ら手を下しているわけではなく、どうやらその後見人である張成沢朝鮮労働党行政部長が主導する形で行なわれているようだ。先日、李英鎬総参謀長が解任された際も、崔竜海軍総政治局長側が李氏の金正恩批判を盗聴によって把握したことが理由に挙げられているが、その背後で糸を引いていたのが張氏であると見られている。

また、『朝鮮日報』によると、昨年初め、国家安全保衛部の柳敬副部長が銃殺された際、韓国を極秘に訪問した柳氏にスパイ容疑をかけて粛清に追い込んだ人物の一人として、張氏の名前が挙がっている。柳氏は、2010年11月の延坪島砲撃事件以降、急速に冷え込んだ南北関係を打開するため、韓国側に対して、南北首脳会談を実現する見返りに経済的支援などを要求するのではなく、無条件に会談を行おうと提案するなど、南北関係の改善などを積極的に建議したと言われている。

柳氏は2010年9月、金正恩氏が大将の階級章を付けたのと同じ日に上将(中将に相当)に昇進し、保衛部でスパイおよび反体制派を摘発する「反探」業務を総括した。実際、金正日総書記に随時上申できるほど重用され、保衛部の幹部の相当数も、頭の回転が速い柳副部長に従っていたという。

しかし、金正恩体制となって、保衛部に自らの人脈を受け付けるため、柳氏のラインを間引く必要性を感じた張氏は、護衛総局の親衛隊を動かして柳氏を逮捕し、処刑に踏み切った。韓国への極秘訪問は、その理由づけに利用されたのである。

金正恩体制になって、張氏は着々と自らの権力基盤を固めているように見える。だが、ある程度、権力基盤が固まってくると、粛清を進めていた人物そのものが独裁者にとって目障りな存在へと変わるものである。実際、粛清を主導した人間の末路は、権力によって最終的に処刑されるのが歴史のパターンだ。今のところ、金正恩氏は、国内の権力闘争において、張氏に頼っている状態が続いているが、必ず転換点が訪れる。金正恩体制の権力基盤が完成するのは、おそらくその瞬間であろう。

【関連記事】
「昨年銃殺された北の保衛部副部長、極秘来韓していた」
『朝鮮日報(日本語版)』(2012年7月28日)

「あのミスターX、銃殺?日朝首脳会談の交渉相手」
『YOMIURI ONLINE』(2012年7月28日)

「金正恩の“軍後見役”李英鎬…張成沢夫婦の力で解任か」
『中央日報(日本語版)』(2012年7月17日)


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消費者庁のセキュリティ・クリアランス

26日付『東京新聞』(電子版)によると、外交や防衛など重要な国の秘密を取り扱う国家公務員を対象に、情報をきちんと保全する適格性があるかどうかを確認する「秘密取扱者適格性確認制度」について、消費者庁の実施規定に関する文書を入手したという。

文書自体は、A4判3枚という短いものであり、調査方法としては、次長、総務課長、次長が指名する総務課員が担当し、総務課長が調査対象職員の名簿を作成すると記されている。また、調査項目については、「人事記録、勤務評定記録書その他次長が定める種類の資料」としか書かれていない。対象者が提示した情報が正しいかどうかは、関係機関などに「照会を行う」としている。

こうした実施規定は、基本的に政府の統一的なガイドラインに沿って作成されている。そのため、記事においては、消費者庁の実施規定を見れば、他の省庁においても、同様の規定が定められていると見なしているようだが、実際のところ、統一的なガイドラインを踏まえながら、各省庁が個別に実施規定を定めているのが実情ではないだろうか。外交や防衛に関する機密管理を扱う対象者には、経済的なデータを扱う者よりも厳しい基準が設定されているはずだし、そうでなければ、自衛隊情報保全隊といった組織を置く理由もないだろう。

記事では、消費者庁の実施規定において、調査方法や調査項目が具体的に記されていないこと、さらに対象者から調査への同意を得る手続きが盛り込まれていないことから、「恣意的に判断する余地が残されている」として、国が個人のプライバシーを著しく侵害する可能性を指摘している。もちろん、不当にプライバシーに介入することは避けなければならないが、実施規定に具体性が欠けているのは、それだけ消費者庁が国家の安全や外交上の秘密に関わる情報を扱っていない証拠である。妙に想像をたくましくする必要はないように思われる。

【関連記事】
「公務員の身辺 無断調査 秘密保全実施規程あいまい」
『東京新聞』(2012年7月26日)


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