2025-09-10

葡萄

ひとつの粒が言った。

わたしはまだ熟したい。

陽を浴び、夜を削り、

より濃く甘くなりたい」

別の粒が答えた。

「いや、陽はもう充分だ。

これ以上浴びれば皮は裂け、

実はただ腐れるだけだ」

また別の粒が囁いた。

わたしたちは房でつながり、

同じ蔓に支えられている。

だが熟す速さはそれぞれで、

遅れるものにも時がある」

ひとつの粒は反発した。

「怠けるな。

先に満ちるわたしの甘さを、

他の舌が讃えるのだ」

すると房の影から声がした。

「讃えも嘲りも

いずれ口に溶けて消える。

残るのは

ひと房としての重みだけだ」

そのとき風が過ぎ、

粒たちは揺れた。

だが答えを出すことなく、

ただ陽に透けて輝いた。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん