ひとつの粒が言った。
「わたしはまだ熟したい。
陽を浴び、夜を削り、
より濃く甘くなりたい」
別の粒が答えた。
「いや、陽はもう充分だ。
これ以上浴びれば皮は裂け、
実はただ腐れるだけだ」
また別の粒が囁いた。
「わたしたちは房でつながり、
同じ蔓に支えられている。
だが熟す速さはそれぞれで、
遅れるものにも時がある」
ひとつの粒は反発した。
「怠けるな。
先に満ちるわたしの甘さを、
他の舌が讃えるのだ」
すると房の影から声がした。
「讃えも嘲りも
いずれ口に溶けて消える。
残るのは
ひと房としての重みだけだ」
そのとき風が過ぎ、
粒たちは揺れた。
だが答えを出すことなく、
ただ陽に透けて輝いた。
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