今月から子ども手当が支給されます。
以前も書きましたが、「全ての子どもは等しく社会が育てる。従って所得制限は設けない」という子ども手当の理念には賛成です。
しかし、その政策は、格差が激しく所得の再分配機能がうまくいっていない今の日本社会では、富裕層ほど得をし、財源ばかり喰ってしまう悪制度になってしまうのではのないかと私は危惧してます。
貧困層では子ども手当は生活費に回ってしまう可能性が大きいのに引き替え、裕福な世帯では、もう一つよぶん塾に通ったり大学進学の貯蓄をふやせたり、と、かえって富裕層の子どもほど潤う結果にしかならない危険があると思うのです。
今もっとも大事な最優先課題は、
「子どもの貧困」を解消することでしょう。
ここでいう「貧困」とは単なる「格差」を指すのではありません。
どんな社会でも完全な平等はありません。多かれ少なかれ「格差」は存在するものです。
しかし格差と貧困は違います。
「貧困」は、格差が存在する中でも、社会の中のどのような人も、それ以下であるべきでない生活水準、そのことを社会として許すべきではない、と言う基準である。(阿部彩著「子どもの貧困」より)
これを子どもに当てはめると、「子どもの貧困とは、子どもにとって許容できない生活基準=貧困状態で生活すること」を意味します。
もちろん子ども手当の趣旨には賛成できるのですが、
子ども手当は貧困状態にある子どもをすくい上げることが目的ではありません。子ども手当は貧困対策ではないのです。 従って今最も焦眉の急である子どもの貧困を解消するのには全然役に立ちません。
政府が子どもの貧困をいかに無視しているか、前出の「子どもの貧困」p.95~から抜粋してみましょう。
社会保障の議論の中で、「貧困世帯」と言う視点が抜けたときに、最も被害を被るのが、子どものある貧困世帯であろう。なぜなら、子どものいる世帯はおおむね現役世帯であり、社会保障や税といった「負担」がもっとも大きい世代だからである。(略)
(私補足:本来なら、所得再分配後は所得再分配前よりも貧困率は下がるはず。そのための所得再分配なのだから。しかしOECDの資料を見ると・・・)
18カ国中、日本は唯一、再分配後所得の貧困率の方が、再分配全所得の貧困率のほうより高いことがわかる。つまり、社会保障制度や税制度によって、日本の子どもの貧困率は悪化しているのだ!
(注:本に載ってる表を見ると、2005年OECDの資料で、再分配前、約10%→再分配後、約12,3%に上がっています)
再分配前所得と、再分配後所得の差は、給付から負担を差し引いたネットの給付である。当然のことながら、ある世帯に於いて、受け取る給付よりも支払う負担が大きければ、ネット給付はマイナスとなり、その世帯の給付は下がる。先述の通り、子どもがいる世帯はほとんどが現役世代であり、社会保障の最大項目である年金の給付が始まっていないため、子どもがいる世帯全体の平均で見るとネット給付はマイナスとなる。このこと自体は問題ではない。何故なら、一つは、現役時代に保険料を払って。高齢期に年金や医療を集中的に受け取るという社会保障制度の構造上、現役世代の所得が下がっても、致し方ないからである。(略)
しかしながら、このような留意点を加味したとしても、再分配前に比べ、再分配後に子どもの貧困率が増加するのは問題である。貧困率の増加は、子どものある貧困世帯でネット給付がマイナスとなっていることを表す。また、貧困でなかった世帯も貧困に陥ってしまっているのである。
貧困であると言うことは、現在の最低限保たれるべき生活が満たされないと言うことである。ただ単に、「所得が下がって、ちょっと大変だけど、その分将来もらえるし、サービスも受けてるから」で済まされないレベルの問題なのである。
先に見てきたように、貧困世帯で育つと言うことは、子どもの現在および長期の成長に影響する。たとえ、将来の給付を受けるためだとしても、過度の負担を強いれば、現在の生活レベルが最低限度必要なレベル以下となってしまい、それが、子どもに影響してしまうのである。
先進諸国のほとんどは、税方式か社会保険方式かの違いはあるものの、公的年金や公的医療制度を持っており、現役世代から資金を集め、高齢世代に給付するという構造はどこも同じである。しかしながら、日本においてだけ、子どもの貧困率が悪化するのは、他の国では、子どものいる貧困世帯の負担が過度にならないように、負担を少なくしたり、また、負担が多くても、それを超える給付がなされるように制度設計しているからである。その結果他の国では、子どもの貧困率を大幅に減少させることに成功している。
たとえば出生率が上昇に転じたことで有名なフランスを見てみよう。再分配前の子どもの貧困率は25%近いが、再分配後は6%となっている。(略)
子どもの貧困を2020年までに撲滅すると公約したイギリスでは再分配前の子どもの貧困率は25%であるのに再分配後は14%にまで下げることに成功している。「貧困大国」と悪名高いアメリカでさえ、約5%の貧困率を減少させている。
貧困に対する政府の姿勢によってこれほどの差が出ているのである。
残念ながら、図3-4は、日本政府がいかに子どもの貧困に無頓着であるかを示している
何故こんな事がおこるのか、それは、負担と給付のバランスが悪いからです。
日本の「低所得者層」は、所得に不相応な負担を強いられており、「高所得者層」は所得のシェアに比べると負担が少ない。このような所得と所得と負担の配分の違いが、貧困率の「逆転」という現象を引き起こしているのである。(同著p.100より)
日本では所得再分配機能が働いていないのです。所得再分配機能を持つはずの社会保障制度のせいでに貧困層がより貧困になるんじゃ、一体何のための社会保障か、本末転倒甚だしいですね。
子ども手当の財源は早くも汲々としており満額を支払えない状態です。
新政権になって早々、「国の財源確保のために消費税を上げるとともに、法人税を下げなければ国際競争に勝てない」という論調が盛り上がってきていますが、それでは貧困世帯は再分配前より再分配後の方が貧困になってしまう逆転現象がますます酷くなってしまいます。
子ども手当の財源が足りないから消費税を上げるというのなら、子ども手当を貰うために貧困層ほど重い負担を強いられることになりますから、そんな子ども手当なんかない方がよっぽどマシ!ということになります。
激しい格差、貧困が解消されない状態では、微々たる手当を貰っても「社会が子どもを育てる」実感など感じられるわけがありません。
最優先すべきは子どもの貧困問題だというのに、せっかく貧困率を初めて調査したというのに、政府が貧困解消のニーズには応えられない子ども手当の断行にこだわったのは、マニフェストが次々挫折する中、とにかく目玉マニフェストだけは実現させねば沽券に関わるという焦りだったのでしょうか。
貧困対策にならない子ども手当を行いたいのなら、税制の見直しは緊急且つ必須の課題です。子ども手当は、あるところからゴッソリ取る推進課税や企業負担でまかなうという税制改革とセットで行うべきです。
そして、並行して児童扶養手当の充実や母子家庭のバックアップ、親が安定した収入を得られるよう雇用対策を行う、待機児童問題を解決する、という貧困対策も行わなければ、子ども手当は財政を圧迫するだけのただのバラマキと揶揄されても仕方ない結果になりそうです。
そうした結果がまた、子育てを社会で応援する仕組みを作ることに対する逆風を生み出してしまうのではないでしょうか 。
子ども手当は本来良い制度なのですから、そんなことになってしまっては残念です。
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