以前
子ども手当と子どもの貧困というエントリーで日本の所得再分配は機能していないことに少し触れましたが、今日はもう少し詳しく日本の所得再分配について見てみたいと思います。
内閣府経済社会総合研究所の太田清氏によれば、
「日本の税・社会保障の負担率は、低所得層では欧州並みだが、平均世帯の年収が500万円以上の層では、欧州より低い。たとえばドイツでは、再分配により低所得層の所得と平均所得の格差は20.5%も縮小したが、日本では、米国の5.4%より小幅の2.0%の改善にとどまる」ということです。
少し長くなりますが、その太田清氏の『日本の所得再分配ー国際比較でみたその特徴』から主要部分を要約抜粋してご紹介したいと思います。(尚、赤字等の強調は私)
http://www.esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis180/e_dis171.pdf
経済協力開発機構(OECD)が 2005 年に出した各国の所得格差に関する分析や、2006 年の「対日経済審査報告」では、日本は政府による(税、社会保障による)再分配の前の所得では比較的平等な方であること、しかし、再分配が小さいために、再分配後の可処分所得では不平等な方になっていることを指摘している。また、特に労働年齢層(現役世代)の低所得層に対する再分配が小さいことを指摘している。
日本では欧米諸国と比較して、
(1)再分配が小さいが、そのことには、社会保障給付のうち労働年齢層への給付が小さいほか、税による再分配が小さいことも量的にはかなり寄与している。特に中間層と低所得層の税率の差が小さいことが、相対的貧困率を高くする方向に影響している。
(2)労働年齢層への社会保障給付が小さい中で、昨今、少子化対策としても注目されている家族政策支出等が小さいことが、特に子供のいる世帯の相対的貧困率を高めにしている可能性があることが示唆された。
1.外国では再分配後、税・社会保障負担でジニ係数は大きく低下しているのに対し、日本は低下が大きくありません。(ジニ係数とは主に社会における所得分配の不平等さを測る指標。係数の範囲は0から1で、係数の値が0に近いほど格差が少ない状態で、1に近いほど格差が大きい状態であることを意味する。
ウィキペディアより)
例によって表を持ってこれないので(泣)文章で書いておきます。
日本の再分配前の市場所得のジニ係数は全年齢層でOECD14カ国中11位、労働年齢者層で12位です。
ところが再分配後の可処分所得は、全年齢でも労働年齢層でも、14カ国中5位にまで上昇してしまっています。
相対的貧困率については、再分配前では労働年齢層で14カ国中9位なのに、再分配後には14カ国中2位に上昇しています。
これをパーセンテージで見てみましょう。
OECD14カ国は平均して、ジニ係数を所得再分配後、全年齢層で34.3%下げていますが、日本では23.6%しか下げれていません。
労働年齢層では、OECD14カ国平均では26.7%ジニ係数を下げているのに、日本では8.6%しかジニ係数を下げれていません。(現役世代であるほど格差は再分配後も縮まっていないということですね)
また相対的貧困率は、OECD14カ国は平均で所得再分配前の18.2%を、所得再分配後には9.8%まで下げているのに、日本では、所得再分配前の16.5%を、所得再分配後でも13.5%までしか下げれていません。
(特に日本では子どものある世帯については再分配後の方が貧困率が逆に上がってしまうことが2005年のOECDの調査でわかっています)
つまり
日本では所得再分配を行っても、格差の縮まり方、相対的貧困率の低下度が、OECDの平均をかなり下回っているのです。2.このように所得再分配機能があまり働いていない原因は何かというと、太田氏は次のことをあげています。
●
日本は外国に比べて税率が全体として低く、所得が上の方になっても税率も上昇度合いが小さい。このことが、全体としての再分配効果(ジニ係数の低下効果)を小さくしている。 また、日本では負担率は、中央値でのそれと低所得層のそれとの差が小さい。特に、中央値付近での税率が小さいことが目立つ。
●
労働年齢層に対する社会保障給付(生活保護、失業給付、家族給付支出)が極めて少ない。また、その労働年齢層への支出(移転)のうち低所得層に向かうという累進性が小さいために再分配効果が小さい。
●家族給付支出は OECD23カ国平均で 1.8%(税控除を入れると 2.1%)、日本は 0.5%(同 1.0%)である。北欧諸国では現金で 1.5~2、サービスを入れて3%を超える。フランスもさらに税控除を含めては3%を超える。
日本では家族給付等が小さい一方、欧州諸国で家族給付・税控除の大きい国で相対的貧困率低下効果が大きい。それらのことも日本の所得再分配を他国に比べて小さなものとしている。(日本でも子ども手当が始まったが、どうなることやら・・)
●尚、阿部彩さん(「子どもの貧困」の著者)は、
国民健康保険加入世帯について低所得者の方が中位所得者よりも負担率が高いこと、被用者世帯を含めた全世帯でも低所得者の方が中位所得者よりも負担率が高いことを指摘しています。
具体的には、保険料/当初所得(税込み所得))は、国民健康加入世帯については、
年間所得50 万円未満・・・30%台、
50-100 万円・・・17%程度、
100-150 万 ・・・13%程度、
ほぼ所得中位である 500-550 万円・・・8%程度
また、被用者世帯を含めた全世帯では、
年間所得50 万円未満・・・28%程度、
50-100 万円・・・14%程度、
100-150 万・・・12%程度、
500-550 万円・・・8%程度
なるほど、低所得者層の国民健康保険料は大きな負担となるのですから、滞納もうなずけますね。
そして、海外では低所得者層の負担(直接税と社会保険料を合わせた負担)は中程度の所得者層や高額所得者の負担に比べて低くなっているのに対し、日本では高くなっていることが「子どもの貧困(p.99)」に示されています。
『
負担と給付のバランス人口を所得に応じて三つ(一番貧しい20%、真ん中の60%、一番豊かな20%)のグループに分けて、それぞれが、社会全体の総所得と、総負担(直接税と社会保険料)をどれくらいずつシェアしているか』
イギリスと日本を比べてみましょう(2006年)
イギリスでは、
〈社会全体の総所得におけるシェア〉
低位20%・・・
7.7%中位60%・・・52.9%
高位20%・・・39.4%
〈総負担(直接税と社会保険料)におけるシェア〉
低位20%・・・
2.5%中位60%・・・48.1%
高位20%・・・49.5%
所得が高位の人ほど負担が大きく、
低位の人は負担は軽くなってるのがわかります。
一方日本では
〈社会全体の総所得におけるシェア〉
低位20%・・・
6.7%中位60%・・・55.7%
高位20%・・・37.5%
〈総負担(直接税と社会保険料)におけるシェア〉
低位20%・・・
7.9%中位60%・・・52.8%
高位20%・・・39.3%
日本の低所得者層は、
所得に不相応な負担を強いられているのがわかります。
『「高所得者層」は所得のシェアに比べると負担が少ない。このような所得と所得と負担の配分の違いが、貧困率の「逆転」という現象を引き起こしているのである。』(『』内は著書からの抜粋)
なお、日々出費している消費税は逆進性がありますから、実際にはさらに低所得者層は負担が大きくなっているものと思われます。
3.従って、所得再分配を機能させるためには
・労働年齢層(現役世代)への社会保障給付(生活保護、失業手当、家族給付)を大きくする。
・所得に応じた税率を見直し、高額所得者の税率を増やす。
等、低所得者への負担を減らし給付を増やす(給付としてカウントできないものも含めて。たとえば教育費や給食費の無償化、給付型奨学金、子どもの医療費の無償化など)ことが必要ではないかと私は考えました。保険料負担のあり方も工夫する余地があると思います。
しかし、もしここで、逆進性の強い消費税を増税し、カネがいっぱいある企業の法人税を減税するという税制政策をとったらどういうことになるでしょうか?低所得者層ほど負担は増大します。格差が益々広がり相対的貧困率が益々あがることにこれ以上説明はいらないでしょう。
従って、税制に関しては、所得再分配が機能するように高額所得者や大企業の税率を上げ、逆進性の強い消費税を見直すべき、という結論以外ないと思うのです。
尚、菅首相は「消費税は社会保障費や少子化対策にあてる」といっていますが、こんなおかしな話はありません。
だって、アチコチから集められた税金は全部が一緒くたになって一旦国庫に入り、そこから各々に振り分けられるのですから、「消費税増税分を社会保障費にあてる」というのはありえないのです。(社会保障費を特別会計にし、消費税を特定の歳入にしてそれにあてるというならわかりますが)
消費税増税はいつも法人税減税とセットにされて行われてきました。つまり、消費税増税は単純に法人税の減税分を補う帳尻合わせに過ぎないのです。
このまやかしについて村野瀬玲奈さんと大脇道場さんがわかりやすく書いてくださってるので、是非お読みください。
◆
村野瀬玲奈の秘書課広報室「社会保障のための消費税」という表現に丸め込まれそうなあなたに。 (不定期連載『決まり文句を疑う』)◆
大脇道場NO.1703 消費税を考える重要情報 ところで、消費税増税について、「無駄を徹底的に排除しない限り消費税は上げるべきではない」という主張をみかけることがあります(一部民主党支持者やみんなの党がそうでしょう)
これは増税そのものを全否定する考え方です。現在担税力ある高額所得者の税率は不当に低いと思われるのですが、高額所得者や内部留保たっぷりため込んでる大企業に対して増税することも拒むのです。
私はこの考え方には二つの理由から賛成できません。
充実した所得再分配を行うには豊かな財源は必要ですが、これでは豊かな財源は期待できません。
また、
無駄を省くことのみを要求するだけでは、現在の不公平税制をそのまま維持しろと言ってるのと同じではないしょうか?財源が足りないのは全て「官僚の無駄遣い」のせいだという官僚=悪の神話にとらわれていて全体像が見えてない気がします。この考え方は、公務員の人員や人件費の削減にも繋がり、ひいては国会の比例定数議員の削減にも繋がりますから、なおさら賛成できません(残念ながら国民は比例定数議員の削減=無駄の削減として賛成に回ってる人が多いようです)
税金を取ることそれ自体が悪なのではありません。
そうではなく、
不公平のないように、担税力のある人や企業がたくさん税を納めることによって所得再分配は機能するのに、それがなされていないのが問題なのです。(この記事は修正して再アップしました)
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