バナナから酢酸イソアミルの抽出を試みる

本物のバナナからバナナフレーバーの抽出はできるのか?
それを日本酒に添加したら酢酸イソアミル高生産酵母を使った日本酒みたいになるのか?
ってのを実験。

バナナと酢酸イソアミル

まずはこの動画を参考にして、バナナと酢酸イソアミルの関係性を知ることにする。
動画の趣旨はこんな感じ。

バナナ味のラフィータフィー(アメリカのお菓子)は本当にバナナの味なのか。
人工的なバナナフレーバーが実際のバナナにも含まれる場合、どのバナナがそのフレーバーを最も多く含んでいるのか。
言い換えれば、どのバナナが最もバナナっぽい味なのか。

Why Doesn’t Banana Candy Taste Like Banana?

以下要約。

バナナの香気成分

人工的なバナナフレーバーを生み出しているのは、酢酸イソアミルという単一分子。
バナナには酢酸イソアミルは含まれている。
しかしバナナには酢酸イソアミル以外にも香気成分が多く含まれているので、人工的なバナナフレーバーとは一致しない。

バナナの品種

昔はGros Michelが主として栽培されていたが1950年頃からCavendishが主流になった。

バナナフレーバーの生い立ち

バナナ味や人工的なバナナフレーバーは、バナナがアメリカの市場で一般的になるよりも前から存在した。
なので多くのアメリカ人がGros Michelを味わう前に、合成化学版のバナナフレーバーを味わった可能性は十分にある。
人工的なバナナフレーバーは実在するバナナの香りから由来していない。
酢酸イソアミルは1800年代の科学者が炭素ベースの分子を実験していたところから生まれた。

酢酸イソアミル

酢酸イソアミルはエステルで、炭素と2つの酸素ともう1つの炭素を持つ分子。
イソアミルアルコールと酢酸を混ぜ触媒を加え加熱することで酢酸イソアミルが出来上がる。

バナナから酢酸イソアミルの抽出方法

モネル化学感覚研究所のDr. Pam Dalton曰く:
バナナを潰して純アルコールに入れ、しばらく蒸らして固形分を抜けば、本質的なバナナエッセンスのようなものができるはず。

動画内での方法:
10種類のバナナを10g、50g、100gと用意して、それぞれアルコール度数95度のエタノール60mlに浸す。
高濃度エタノールとしてEVERCLEAR GRAIN ALCOHOL 190 PROOFを使用。
浸した期間は不明。

バナナから酢酸イソアミルの検査結果

酢酸イソアミルを最も多く含む品種はGros MichelとCavendish。
また、検査したバナナのほとんどに酢酸イソアミルが全く含まれていなかった。

バナナ酵母

カプロン酸エチルの香りは単体で嗅いだことがあるので、どの香りがカプロン酸エチルなのか明確にわかる。
しかし酢酸イソアミルの香りは単体で嗅いだことがないので、どの香りがそれなのか明確にはわかっていない。
なので憶測と仮説。

以前、バナナ酵母で醸した日本酒「天吹 恋するバナナ 純米吟醸 生」を飲んだときに、本物のバナナではなく「明治 バナナチョコ」の味だと感じた。
飲んだ当初は、本物のバナナの酵母を使っているのになぜお菓子のような人工的な味がするんだろうか?と不思議に思ったが、上記のバナナと酢酸イソアミルの関係を見るにこの感覚は正しいのかもしれない。

バナナ酵母に以下のような特性がある場合、お菓子のバナナ味だと感じることが是となる。
・酢酸イソアミルを多く生成する。
・バナナを構成する香りのうち酢酸イソアミル以外の香気成分を多く生成しない。

もちろん日本酒は複数の香気成分や酸が混ざり合っているので複合的に本物のバナナの味のようだという感じ方もあるだろうと思う。

「天吹 恋するバナナ 純米吟醸 生」と「明治 バナナチョコ」

バナナと日本酒

さてここからは実験。
上の動画にもあるように、高濃度エタノールにバナナを漬けてエステルを抽出してみる。
うまくいけばバナナからアルコールに溶けやすい香気成分だけが抽出できるはず。

用意したもの。
・山梨銘醸 七賢 高濃度エタノール65
・生バナナ
・冷凍バナナ(1年くらい前に冷凍庫に入れて存在を忘れ去っていたもの)

漬け込み

30gの高濃度エタノールに30gのバナナを入れて潰して置くことでエステルを抽出した。
左は新鮮な生バナナ、右は黒くなった冷凍バナナ。
番外編としてバナナの皮でもやってみようかとも思ったけど、農薬がエタノールで溶けて身体に悪いと嫌だからやめておいた。
その分野にはさっぱり詳しくないので疑わしいことはやらないほうがいい。

漬け込み開始
濾過

大体20時間くらい漬けた。
これをティーパックに入れて濾過。

漬け込み開始から20時間後
アル添

濾過して出来上がったものを酢酸イソアミル系の純米酒に添加する。
バナナエッセンス本醸造の出来上がり。

左から、純米酒、生バナナエッセンス本醸造、冷凍バナナエッセンス本醸造
結論

漬け込み時間に関しては、時間経過と共に、エタノール感→アル添感→リキュール感、と変化していく感じがあった。
数時間置きに香りと味の確認をしてみたけど、後半になるにつれ普通にバナナが分解されていき香りよりも味が強くなり甘さも出ていた。
香りに関しては前半の方が強く香っていた。
4〜5時間も漬ければ十分だった気がする。

香気成分に関しては、やはり酢酸イソアミルだけという訳には行かず普通に本物のバナナだった。
バナナ酵母から感じたような人工的なバナナフレーバーを感じることはできなかった。
しかしアル添して本醸造として飲んでみると、まぁそっち系統の酢イソ系日本酒もあるよなぁという感じがしなくもない。
ただバナナのねっとりした雑味は強い。

味(甘みや雑味)を極力減らしてエステルを多く抽出するにはこんな感じかなと思う。
・熟していないまだ固いバナナを使う。
・バナナの繊維を壊さないために潰さずに包丁で切る。
・バナナの漬け込み時間は長くても4〜5時間。
・しっかり濾過する。(ティーパック→コーヒーフィルターと2重にするなど)

アル添酒における「醸造アルコール感」「アル添感」というのは、醪量と醸造アルコール量の比率や加水の具合、最終的なアルコール度数あたりで決まるものかと思っていたが、エステル成分量と醸造アルコール量の比率も関係しているのかもしれない。
まぁ単純にエタノール感をマスクする要素が他にあるかどうかという話だとは思うけど。

清酒醪へのアル添の場合、エステルが醸造アルコールに移り、且つ高アルコールによる酵母の死滅が起こらない程度の時間に留めるのがセオリー。
「エステルを醪に移す」「エタノール感(アル添感)を出さない」「酵母を死滅させない」の3点を最大限実現する醸造アルコールの添加量と絞りまでの時間を見極めるというのも杜氏の技量なのだろうと思う。