割烹料理。「藍」さんが割烹料理を目指しているかどうかは知らないが、小生が勝手に「藍」は割烹料理と位置付けている。前にもこのブログで述べたが、東京には割烹の名店はない。それは割烹が育ちにくい環境であるからだ。京都、大阪にいくと割烹の名店がたくさんある。それはやはりお客さんが割烹の食べ方、金の使い方を知っているからだ。お店にしたらコース料理で予約制にすれば、色々楽な面がある。簡単に言えば、コース料理にすれば余計な仕入れが必要ない。仕入れのロスは少ないし料理する側も効率が上がる。1週間に何度も来店するお客さんがいればかなり頭をひねる必要があるが、その欠点を除けば絶対にコース料理は店にとって良い。しかし割烹は違う。メニューに掲げた種類の料理の全てを仕入れなければならない。まあ居酒屋の様に冷凍食品でやればロスはないだろうが、それでは客はこないし金は取れない。仕入れた分は客がきても注文されなければ腐っていって、店のロスになる。魚は高い。割烹はいかに仕入れのロスをなくして料理のバラエティを豊富にするか。これが経営上非常に重要なのである。主人と料理人が知恵を絞る。これが割烹には求められる。
又、割烹を育てるのは客である。いい客がいなければ割烹は育たない。そういう意味で、京都や大阪には割烹馴れした上客が多い。これは食べ物に対する執着心が東京より関西人の方が旺盛である事、簡単に言えばケチなんだが、食べ物にはお金を惜しまない食べ方によるとも言えるのではないか。例えば3人で割烹にいく。サシミ、焼き物、煮物などを一品一品注文して3人で分けて、焼酎のボトルなんかを2、3時間かけて飲む。こんな客だと割烹は潰れる。成り立たない。京都の割烹の常連さんにこんな注文の仕方をする人はいない。そんな注文をしていれば、「そろそろ雨になるんとちゃいますか?」と言われて、「早く帰れ」と促されるであろう。割烹では3人でいけばサシミは3品食べる。そして色々なものを注文して自分なりにコースに仕立て上げて注文する。「今日はなにが美味しいんだ?」と聞きながら自分の好きなものを注文できるのが割烹の楽しみなのである。それには客も注文する力が必要なのである。しかし考えてみればフレンチへいけば自然に、前菜とメインを選ぶであろう。和食でも自然に選べるはずなのである。よくわからないからコースでというのであれば割烹にいかなきゃいい。コース料理の和食の名店はたくさん東京にある。
先日、「藍」さんで注文した料理は、「ハモ落とし」「鯛のさしみ」「おこぜの薄造り」「あわび煮」「太刀魚塩焼き」「あなごの白焼き」「蛸と小芋の煮物」「あわびのかりかり揚げ」「はも寿司」(お店のサービス)、シメは「稲庭うどん」である。これは小生が亭主の小口さんと相談しながら約1分で決めた注文である。追加で注文したのはシメのうどんだけである。まあ汁もんは注文しなかったが、ほぼOKではと思う。そしてこの日は焼酎に次ぐ、焼酎。「はなたれ」「中々」「悟空」と続いた。先日の料理でかなり上物の品は、「鯛のさしみ」「太刀魚塩焼き」。この鯛と太刀魚を仕入れる事ができれば、この店はもう安泰であろう。藍さんはどちらかと言えば最近のごちゃごちゃと手をいれた料理よりも、素材とダシで勝負の自然な料理が多いのも大変、気にいっている。是非、続けて頂きたい。そして土鍋で炊く「炊き込みごはん」も中々のもんである。後は是非、焼酎に「銀の水」と「兼八」を加えて頂きたい。日本酒は「ひがん」(新潟)があるので十分である。
この8年間、割烹を続けて、かなり御苦労があったと思う。しかし徐々に仕入れが安定、しっかりして、味も落ち着きがある。それよりも東京には割烹の名店がない。コースで食べさせる名店は多数あるが、割烹の名店はない。もっともっと上を目指して頂いて是非、東京割烹の名店第一号に藍さんが、と思っている。それにはもっと客が頑張らなければならない。客がたくさん注文して腹一杯に美味しいものを食べるのだ。
頑張らなきゃいけないのはお店でなく、我々、客かもしれない。
山村幸広
P.S. HPを発見したので一応、ご紹介しておく。
旬菜魚 藍
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