東京の粋な食べ物というか歴史的にも名物といえばこの「どぜう」。もちろん有名などぜう屋と言えば浅草は駒形どぜうであろう。義父は、日本橋は浜町で生まれ育った生粋の江戸っ子である。下町の色々な美味しい食べ物屋を連れて行ってくれる。浅草にもよく行くが、どぜうはこちらの深川どぜうの方がお気に入りのようである。
これほど京都出身の小生からかけ離れた食材はない。もちろん東京に出てくるまで食べたことはない。しかし食いしん坊であるが故、興味深い食べ物である。昔は貴重なたんぱく源であったであろう。
どぜう鍋は、「丸」か「裂き」。要するに丸ごとでてくるのが「丸」。骨を取り除いて食べやすくでてくるのが「裂き」である。お店では「骨抜き」と表示されている。通は「丸」らしい。小生はどちらも食べた事があるが、やはり「裂き」の方が食べやすいように思う。
鍋にたっぷりとねぎを入れて、割り下で煮込む。ねぎがなくなればおかわりをする。そして生卵につけて食する。これが中々旨いもんである。ごはんにとてもあうので、ご飯を食べ過ぎてしまう。(炊き立てのご飯がとっても美味しい。)駒形よりこちらの方が割り下が甘くないように感じた。昔は庶民の食べ物であったが、現在は中々しっかりしたお値段である。
こちら名店の伊せ喜さんはお客さんが絶えない。常時、客が待っている。若いブルーの制服をきたウエイトレスさんがたくさんいらっしゃる。まるで昔の喫茶店のようなイメージである。なんでも昔、こちらのお店で働けば、嫁入りの際にご主人が嫁入り道具を用意してくれるという事で人気の職場であったらしい。もしかして今もその慣わしが続いているもかも知れない。厳しい時代であっただろうし、とても心温まる慣わしである。
酒はもちろん「菊正宗」の常温。昔、日本橋浜町で料亭を営んでいたという義父によると、下町の旨い店、高級店は必ず、「菊正宗」であるそうだ。昔はこれをだせば皆、納得したという。確かにこの酒は、飲み飽きない。旨い酒である。スッキリした酒が流行の今に一石を投じるような酒である。義父の家に行くときは車では行かない。車で行くと悲しそうな顔をするし、会えば挨拶と同じタイミングで聞かれる。
「今日は、車できたのかい?」
「いいえ、飲みたいので電車できました。」
「いいねえ。」「おーーい、お酒頂戴。」
お江戸の真ん中で、酒を飲みながら昔の下町話に花が咲く。
いつまでも、長生きして元気でいてください。
山村幸広
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