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山村幸広の一日、一グラム

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京都 「ゆたか」 4月2日
 東京八重洲は京セラさんのビルにその店はある。この店の本店は、かつて京都の上七軒に看板も無くひっそりと存在した。現在、ご主人は引退され閉められている。上七軒といえば京都の着物関係、名士、又撮影所が近いこともあり俳優などが集う一流の社交場、遊び場である。一流のお客さんだけを相手にされてきたこのお店が、いわゆる支店として東京に出されたお店が八重洲に存在する。ここまでの展開だけでも、この店が本当の一流の店である事はご理解頂けるだろう。

 なんのお店か? 一言で言えばステーキ屋さんである。昔は牛肉の文化といえば関西であった。皆さんご存知の神戸牛、松坂牛というブランドはまさに関西のものである。そしてステーキ、すき焼はやはり関西のお店が旨い。それと比較すれば関東は豚の文化と言えないだろうか? 豚シャブは関西ではあまり食べないし、トンカツは関東の方が名店が多い。京都といえば京懐石料理を想像されるかもしれないが、すき焼の名店やステーキの名店が多くあり、牛肉の文化を感じ取れる。次回、京都へ行かれる時には一度試して頂きたい。「ゆたか」は上七軒は閉められたが、祇園にもお店がある。(小生はいった事が無いので説明できないが。)今度、エキサイトismで一度、「京都の肉の名店特集」なんぞやってみようかと今思った。「三島亭」さんなんかですき焼の歴史を、その家宝ともされる「すきやき鍋」で是非頂いて頂きたい。又三重県の「和田金」さんで頂く、自前の牧場の4歳の処女牛からしか使わない肉の限定「網焼き」なんぞはもうたまらない。いくら頼んでも1人2枚しか食べさせてもらえない。神戸、大阪のシャブシャブ、ステーキの名店も挙げるときりが無い。話が随分それてしまったが、「ゆたか」はそんな牛肉のお店の頂点である。

 その肉の旨さは言葉では表現できない。多分、今まで食べていた肉ってなんだったの? と言っても過言ではない。初めて「ゆたか」に行ったのは6年前であるが、約15年前に赤坂にあった名店「オリンピック」を思い出してしまった。前シェフの河村太郎氏(現在は辞められて独立準備中。)は完璧主義者の料理人。年もほぼ一緒という事で、鮨の小笹の佐々木茂樹を彷彿させる。彼が出す肉は市場で最高のものである。フィレとロースを選ぶが本当にどちらでもかまわないと思うのはこの店だけである。ステーキといえばロースである。しかしこちらのフィレはロースのジューシーさを感じながら楽しめるフィレを食べる事ができる。ワインで言えば、シャトーラフィット・ロートシルトである。ボルドーにしてブルゴーニュ(ピノ・ノワール)の酸味を感じられる、要するに両方の良いところを、一度に愉しめるのである。

 肉と一緒に牛の証明書を見せて頂ける。その証明書は、生産者はもちろん鼻紋(牛の鼻を指紋の様にとってある。)とサラブレッドの様に血統が3代にわたり書かれている。まさに牛のサラブレッドである。とりわけ最高の種牛「紋次郎(もんじろう)」の血統はまさに牛のサンデーサイレンス。運良く2回ほどその血統を頂いたが、その味は「旨い」の一言しかない。河村氏は、「今や産地は関係ない。もう育て方はみんなわかっている。牛の味は血統が決める。血統がよくてちゃんとした生産者なら産地にこだわらない。」と言い切る。又「魚と同様、一番いい肉は東京に集まる。」と言う。私は京都の本店に行ったことがないが、両方行かれた常連さんの中には「本店より東京のゆたかの方が美味しい」という声もきく。しかし是非書いておきたいのは、この店は肉だけではないという事。肉がなくても一流店としてやっていける。前菜のスコットランド産サーモン、千葉県房総産のあわび。天然のひらめは、鮨屋の佐々木茂樹も誉めたほどの物。そしてサラダはマヨネーズ風味のドレッシングと、ゆりねがポイントの絶品サラダ。そして京都らしく、ガーリックライスに付く4種類ほどの「お漬物」が最高である。その後のデザートも、フレンチの名店も驚愕する味である。要するに肉の名店は存在するが、魚も完璧、全てが完璧なステーキ屋を私はここしか知らない。サービスはもちろん言うまでもない。

 この店の元シェフ、河村太郎氏は現在、銀座七丁目あたりに出店する予定だそうだ。これも絶対行かなければならない。多分彼が温めていた全てが注がれるのであろう。しかし後を継いだシェフも素晴らしいし、店もスタッフもなじみがある。

 どっちの店に行けばいいんだろう。苦しい選択が待っていそうだ。

山村幸広

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  • by yamamura2004 | 2004-04-02 16:10
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