天に輝くモノ(ビビッドレッド・オペレーション 二次創作)
- 2021/11/13
- 20:12
「間に合ったか……」
どことなくカビ臭い椅子に座りながら男はしみじみと呟く。
薄暗く、狭い部屋だ。コンソールと∩字型に大小いくつものモニターがあるだけ。
そんな部屋で男は煩わしげな目を正面のモニターに向ける。そこに映るのは巨大な鴉の化物だ。
神話や伝承における鴉は神聖な神の使いとして描かれる事もあれば、不吉な悪魔の化身として描かれる事もある。だがあれは間違いなく後者だろう。
やれやれと溜め息を漏らしながらキーボードを操作する。
「遂に使う日が来てしまったか」
示現エンジンが実用化された際、中東などの石油産出国との戦争を見越して日本国防軍が極秘裏に開発した攻撃衛星アマテラス。
示現エネルギーの兵器利用の試作モデルでもあり、「精密射撃で艦隊や軍事基地をピンポイントに攻撃し、最小限の被害で戦争を終わらせる事が可能」
そのような謳い文句の元に反対を押し切って作られた大量破壊兵器。美辞麗句の裏では敵国の首都への攻撃も想定されていた。
気象衛星に偽装して打ち上げたものの、石油産出国が一向に開戦の気配を見せなかった事から開発推進派は後ろめたさや世論の非難を恐れて地球の周回軌道から外すという形で隠蔽を行った。
それでも専用の管理室をこうして残しておいたのは他国への不信感を捨てきれなかったからだ。その懸念は杞憂だったがこうして実戦運用する日が来たのだから世の中分からないものだ。
アローンが出現した事で対抗策として呼び戻され、つい先日衛星軌道に帰還した。もう何年も整備していなかったがモニターの表示は異常なしを伝える。
既に首相や軍上層部の認可は得ている。結果的に間に合わなかったが東京にアローンが出現した際に一度発射許可を取っていたので二回目は早かった。
と、複数のモニターに部下の姿が現れる。各地に分散する管理室に送った者達だ。頷きを合図とし、彼等と息を合わせて鍵穴にキーを差し込み同時に捻る。これで最終セーフティが解除された。
キーボードを操作して照準を合わせ、
「人間と戦う為じゃない。人間を守る為に使うんだ。許してくれるか、ましろさん?」
小さく呟き、正面モニターの化け鴉を睨みながら発射スイッチを押す。
直後、莫大な光量を帯びた一撃が大気を焼きながら天より降り注ぐ。エネルギーの奔流は化け鴉の全身を飲み込み、海上に多大な瀑布を生む。
その光景に部下が歓声を上げるが、
「……」
画面を凝視する男に喜びはなく、口がきつく結ばれる。巻き上がった海水と水蒸気の向こう側に巨大な影が見えたのだ。
間髪入れず化け鴉周辺の空間が震えて雲が消し飛び、赤の一線が天を穿つ。
途端にアマテラスからの反応が途切れ、搭載したカメラと繋がっていたモニターは砂嵐を映しながらノイズを発する。
「……駄目だったか」
椅子の背もたれに体重を預ける。
部下達が退避するように言ってくるが鬱陶しいので通信を遮断する。
「恩師の願いを踏み躙った挙げ句がこれだ。情けない」
自嘲し、不意に視線をモニターから外す。その先にあるのは壁に張られた一枚の写真。
数人の男女が笑顔で写ったものだ。
「――」
写真に手を伸ばそうと瞬間、轟音と真紅の閃光が部屋を貫いた。
あとがき
分かる人には分かると思うが終わりのクロニクルで至さんが言詞鉄槌を発射するシーンのパロディー。
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