絶ち切れぬ絆(ポケットモンスター 二次創作)
- 2024/01/18
- 21:00
注・ゲームとは異なる要素があります(技を四つ以上使用など)
セキエイ高原に存在するポケモンリーグ本部。
そこの最後のアリーナで二人の男が向かい合っていた。
一人は四天王の最後の一人にしてリーダー、ドラゴン使いのワタル。
もう一人は挑戦者の青年。
お互い残すポケモンは一体のみ。
ワタルのギャラドス、ハクリュー、プテラは倒れ、青年の方もフーディン、ラプラス、サンダース、ウインディ、ドードリオの五体が戦闘不能。
次の一戦で勝敗が決する。
フィールドには既にワタルのカイリューがその巨体を悠然と現わしている。
その威圧感に気圧されつつ、チャレンジャーたる彼は最後のモンスターボールを放った。
「いけ、ラッタ!」
モンスターボールから繰り出されたポケモンを見たワタルは思わず瞬きをして確認をした。
ワタルが驚いたのを見て取った青年は内心で仕方ないかと苦笑する。
この頂上決戦とも言える戦いには些か見劣りするかもしれない。事実これまでの旅の過程で青年はラッタより強いポケモンもゲットしていた。
しかし、土壇場で出すのはもっとも信頼するパートナーと決めていた。これで負けても後悔はない。
「最初のパートナーなんですよ。こいつ抜きでは有り得ない」
彼の言葉に何か感じ入るものがあったのか、ワタルは小さく頷いた。
「いや、君に失礼だった。……手加減はしない」
「痛み入ります」
不意に沈黙が生まれ、そして両者の間に一陣の風が吹き抜けた。
「いけ、カイリュー! とっしんだ!」
「ラッタ、かげぶんしん!」
左右への素早いステップが分身を生み、カイリューの突撃は分身を突き抜ける。
そしてラッタは即座に反転、無防備な背中に向け、
「かえんほうしゃ!」
わざマシンで覚え、ウインディと研鑽を重ねた炎の一撃が口から放たれる。
背中にモロに攻撃を受けたカイリューだが、その場でよろめくも踏み止まり、そして翼を広げて空に舞い上がる。
ラッタは追撃の火炎を見舞うが、大空は悠々と駆けるカイリューを捉え損なった。
「りゅうのいかり!」
「く……かげぶんしん!」
ラッタは上空から降り注ぐ衝撃波を分身で何とか回避。
「10まんボルトだ!」
ラッタの全身が紫電を帯び、雷速の一撃がカイリューを襲う。
電撃がカイリューの体を駆け巡り、体力を奪う。
翼の動きが乱れ、高度を落としたものの墜落には至らない。
「……」
一見すれば互角の攻防だが、青年の表情は優れない。
彼我の攻撃力の差は段違いだ。
一撃でも食らえばそれで一気に決められる。故に戦いを長引かせる訳にはいかない。
「……よし」
彼は床を靴で強く叩き、鼓舞するように指示を送る。
「とりあえずかげぶんしんだ」
「カイリュー、バリアー」
ワタルは攻撃の手を一度休め、カイリューを上空で待機させる。
分身が現れている間は攻撃が当たりにくい。今は防御体勢を取り、ラッタの動きをしっかりと見極めた上で攻撃に移る。
そういう判断だった。
だが、状況はワタルの思惑とは別に進行した。
ラッタの周囲の気温が一気に低下し、口から放たれた冷気の砲撃が光の防壁を突き破り、カイリューに直撃する。
「れいとうビームだと!?」
カイリューはバランスを崩して地面に降り立つが、それほどダメージを受けたようには見えない。
それに安堵しつつもワタルは内心で驚愕していた。
トレーナーの指示は明らかにかげぶんしんだった。
ポケモンの独断かと思ったが、相手の表情に予想外の出来事に対する驚きはない。
最初から織り込み済みだったのだろう。
自分に解らない意思疎通が行われた。ワタルはそう納得し、敵の手強さを再認識した。
「……これでも駄目か」
青年は全身からどっと冷や汗が噴き出すのを自覚した。
ドラゴンは一般的には冷気に弱いとされているが、向こうは地球を十六時間で一周する怪物だ。耐性は抜群という事か。
弱気が鎌首をもたげる。四天王を三人まで倒し、ワタルに最後の一匹まで出させた。ならもう十分な成果ではないか?
そんな時、ラッタの背中が微かに震えたのが見えた。
愕然とした。トレーナーが感じる焦りや恐怖など、実際に戦うポケモンの数分の一以下だろう。
これまで数多の挑戦者を蹴散らしてきた「強さ」の権化に対して、必死に親友が立ち向かっている。それに引き換え自分はなんだ。
励ましの言葉を送ろうとしたが、それより早く敵が動いた。
「はかいこうせん!」
「――! ラッタ!」
辛うじて避ける事に成功したが、膨大なエネルギーの奔流は当たらずともラッタを吹き飛ばす。
だがその威力ゆえ、発射したカイリューの体には大きな負担がかかり、動きを止めた。
彼はそれを好機、あるいは最後の機会と判断した。それでもラッタのダメージが大きいようならここで棄権する。
覚悟を決めて視線が交錯させると、親友はその目に強い輝きを宿していた。
「でんこうせっかからのひっさつまえば!」
ラッタは小さく頷き、アリーナを走る。
瞬時に距離を詰めて頭部に飛びかかり、鈍く光る前歯に全力を込める。
「……」
アリーナに低い音が響き、青年は固唾を飲むが、
「……カイリュー、たたきつける」
カイリューの大きな腕が頭に食らいついていたラッタを大地に叩きつける。
十倍近い体重差があるラッタは為す術なく地面に激突した。
それにて決着。ラッタはそのまま立ち上がる事は出来なかった。
「ラッタ!」
彼は慌ててラッタに走り寄る。
一方のワタルは満足感を覚えつつきずぐすりを取り出す。
彼の目の前でカイリューがその巨体を揺らし、片膝をついたのだ。
「いい戦いだった」
「ええ。ありがとうございます。……では、失礼します」
挨拶もそこそこに、青年はラッタを抱き抱えてポケモンセンターに向かった。
「ラッタが……!?」
ワタルとの一戦から一夜明けた昼。
ポケモンセンターで治療を受けていたポケモンの様子を見に来た青年は、ナースからラッタがいなくなった事を告げられた。
「あいつ……」
ポケモンリーグの本部から少し歩いた場所にある草原にラッタはいた。
その表情は曇っている。
ウインディからかえんほうしゃ、サンダースから10まんボルト、ラプラスかられいとうビーム、フーディンからかげぶんしんを習い、ドードリオを相手に対飛行ポケモンの特訓を積んできた。
それでも勝てなかった。
別のポケモンならこんな事にはならなかっただろう。
似たポジションのケンタロスならカイリューにも勝ち目が十分にあった。
パートナーの夢を奪ってしまったという後悔がラッタを蝕む。
青年はチャンピオンになるのが夢だと子供の頃から言っていた。
今までは何とか「役に立った」と言えるような結果を出してきたが、肝心な時に無力さを露呈してしまった。
もう会わせる顔がない。
「こんな所にいたのか」
背後からの声に振り向くとそこには青年がいた。
顔は平静でありながら、どこか憂いがあった。
「いきなりいなくなると心配するだろ」
そう言いながら彼が近付くが、ラッタは後ずさる。
そして力なく首を振り、鳴き声を漏らす
自分ではパートナーに相応しくない、と。
「……寂しい事を言うなよ。コラッタの時からずっと一緒だっただろ」
言葉が通じない筈だが、青年は完璧に意思を読み取っていた。
彼はペースを速めてラッタの元まで歩み寄り、傍らに座り込む。
「今回、あと一歩まで迫って駄目だったんだが、そこまで悔しくなかったんだよ。別に、そこまでチャンピオンになりたかった訳じゃないみたいなんだ。分かりやすい目標だったから目指しただけで。むしろお前を勝たせてやれなかった事の方がよっぽど悔しい」
そっと体毛を撫でながら彼は続ける。
「だからお前を抜きにしてでもなろうとは思わないよ。挑戦者を待つのも何か面倒そうだし」
手から伝わる温かさは心地よく、それだけでラッタは気持ちが安らいだ。
「今度はジョウト地方にでも行こうと思うが、以心伝心なのはお前だけだし、やっぱりお前がいると安心だ」
彼の言葉は真摯で、上っ面の慰めではなく、本心から自分を必要としているのだとラッタは理解した。
不思議とあれだけ心を苛んだ不安は消えていた。
「まあ、決めるのはお前次第だけどな」
そして彼は立ち上がって歩きだし、その後をラッタは追いかけた。それが答えだった。
つよいポケモン よわいポケモン そんなの ひとのかって ほんとうにつよいトレーナーなら じぶんのすきなポケモンでかてるよう がんばるべき
先日見た夢を元にしたSS。
多分ポケスペのサカキとスピアーに影響されてると思う。
この世界のワタルのカイリューはワタルが子供の頃にフスベシティのりゅうのあなでゲットしたミニリュウが進化したという設定があってぇ……
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