SNSで「不公平」と言われたスポーツクライミング、歓声と判定のギャップあったブレイキン…専門家が振り返る「難しさ」
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五輪競技に続々と採用されるアクションスポーツだが、なじみがない人も少なくなく、ルールや判定を巡り疑問が上がることもしばしば。パリ五輪で注目された場面を選手の証言や専門家の視点を交えて振り返る。(大舘司、井上敬雄)
課題が「不公平」?
スポーツクライミング女子複合決勝で森
森はボルダーで7位と出遅れ、後半のリードで盛り返したが、総合得点は4位でメダルに届かなかった。SNSを中心に「課題が(背の低い選手にとって)不公平では」「いじめにあった」などの意見が上がり、ルートセッターの課題設定を疑問視するメディアもあった。
ただ、自然の岩を登ることがルーツで、選手によって得意不得意に課題が分かれるのがスポーツクライミングの大前提。今回のように距離が遠い課題に対しては、跳躍力や腕や脚の筋力を鍛えて対応するべきだとの考え方がある。
日本代表の安井博志ヘッドコーチは「ルートセッターは選手の能力を予測し課題を作るが、その結果、選手間に有利不利が生まれても『不公平』とは言わない。森の脚力や筋力があと少し足りなかった」と話す。森自身、ジャンプなど豪快な動きは日頃から自分に必要な強化ポイントに挙げており、「技術やパワーがなかっただけ」と淡々と振り返った。
一方、一般のファンに向けて競技の魅力を伝えるという点では、改善する余地はあると安井コーチらは感じる。課題の難易度をホールドの位置や距離で調整することが少なくないが、「そもそもスタートができないのでは見ていておもしろくないのは確か。難易度をホールド間の距離だけで調整するのは、良い設定とは言えなくなるのでは」(安井コーチ)と指摘。ホールドの握り方や体全体の動き方などで攻略を競えるような壁を増やすなど、今後の設定のヒントにすべきだとしている。
盛り上がりと判定のギャップ
五輪新競技ブレイキン(ブレイクダンス)では、会場やSNSでの反応と実際の勝敗が分かれることが少なくなかった。顕著な例は、男子1次リーグで敗退した
五輪の採点は9人の審判が〈1〉技術〈2〉技の多様性〈3〉独創性〈4〉完成度〈5〉音楽との調和――の5項目で相対評価し、ポイントの多い選手が勝者となる。回転技の評価は主に「技術」に反映され、多くの審判が大能を評価した。その一方、回転技にこだわったことで演技が似た傾向となり、音楽と踊りの連携も不十分だった。「技の多様性」や「独創性」、「音楽との調和」でモンタルボに評価が集まり、判定で大差がついた。
「(回転技は)自分のやりたいことだったので全然、後悔はない」と大能。審判経験が豊富なダンサーは「自分らしさを表現する演技で競技の魅力は伝わったが、(全体の評価には反映されず)一般のファンに理解してもらう難しさも感じた」と言い、採点競技の奥深さも明らかになった。
ブレイキン復活は険しく
ブレイキンは次の2028年ロサンゼルス大会で競技から外れた。ブレイキン発祥の米国で実施されず、将来の復活への道のりは険しいとの見方も少なくない。
国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長らが若い世代に五輪への関心を高めてもらおうとの狙いで採用したが、パリ五輪中、米紙USAトゥデーが「恐らく夏の五輪では、二度と見ることはできない」と報じた。IOCはスケートボード、サーフィンなどは早々にロサンゼルス大会で実施することを決める一方、23年の総会で、インド市場の開拓を見据えたクリケットなどを追加競技として採用している。
ブレイキンの関係者からは、会場の盛り上がりと勝敗が一致しないことがあり、採点が相対評価で分かりにくい部分などが課題になっているとの声もある。さらに競技の普及も今後の鍵となりそうだ。
ブレイキンは26年の愛知・名古屋アジア大会やユース五輪(ダカール)で実施される。今月7日、自身がアンバサダーを務める小中学生対象の大会でパリ五輪代表の