鈴木淳也のPay Attention
第228回
新Suicaの試金石? 「えきねっとQチケ」を使って平泉に奥州藤原氏の栄光を見に行く
2024年12月27日 08:20
先日、今後10年先を見据えたJR東日本によるSuicaの最新施策についてレポートしたが、その先行的取り組みの1つである「えきねっとQチケ」を実際に体験するために、ローカル線を乗り継いで平泉まで行ってみることにした。
なぜ平泉なのか。
かつて奥州藤原氏の拠点であり、世界遺産で有名な中尊寺を中心とした平泉にある史跡を見てみたかったというのもあるが、あえてこの企画で平泉を選択した理由はその「エリア」にある。
Suicaの「エリアまたぎ」が可能な「えきねっとQチケ」
レポートにもある「Suica Renaissance」においてうたわれているのが「エリアまたぎ」の解消で、現状でJR東日本管内にある6つのSuicaエリアを2027年度までに統合し、Suicaカード1枚あればどの駅で乗車しても、どこの駅でも降車できるようになる。
今はまだSuica利用可能であっても、例えば東京駅にSuicaで入り、東北本線や常磐線を乗り継いで仙台駅に到着してもSuicaでは降車できない。これは両者が別のエリアで区切られているからだ。
そして今回のテーマである平泉だが、平泉駅は仙台エリアでも最北端の場所に位置しており、距離的にはそこまで遠くない盛岡エリアとは区別されているため、例えば盛岡駅にSuicaで入ったとしても、平泉駅ではSuicaで降車できないというわけだ。Suicaで入ってしまった場合、別途平泉駅で精算するか、最初から“磁気切符”を購入して乗車するしかないのが実情だ。
「盛岡からローカル線を乗り継いで平泉まで行くのは紙の切符を券売機で購入するしかないのか。Suicaがダメでも、できればスマートフォンさえあればペーパーレスで移動できないものか」……そんな要望をかなえるサービスが2024年10月1日にスタートしている。
それが「えきねっとQチケ」だ。
「えきねっとQチケ」は、現状で東北エリアで利用可能な「えきねっとアプリ」を利用したQRコードによる乗車サービスで、アプリ操作で切符がオンライン上で購入でき、自動改札機がある駅ではQRコードを読み取り機にかざすだけで、無人駅や簡易改札機しかないような駅では位置情報を利用したチェックイン/チェックアウトが可能になっている。
前述のようなSuicaのエリアまたぎの概念もないため、Qチケ対応エリア内であれば実質的に自由に移動が可能だ。今回の盛岡から平泉までの移動も例外ではなく、Suicaの代わりにスマートフォンアプリを使っての移動ができる。
というわけで、今回は東京にいる筆者がいったん盛岡まで移動し、ローカル線を乗り継いで平泉に行った後、やはりローカル線を乗り継いで仙台まで移動してから帰路につくという過程を体験レポートとしてまとめてみた。趣旨としては「現金を使わないキャッシュレスのみ」ということで、トライしている。
まずは東京から盛岡駅にアプローチ
スタートが東京なので、まずは盛岡駅に移動しないといけない。
移動時間の関係で飛行機を使う。本来であれば盛岡に最も近い花巻空港まで飛ぶのがベターなのだが、羽田空港からの定期便はないため、今回は青森県にある三沢空港を選択した。ルートとしては三沢空港からバスで三沢駅へと行き、八戸駅までローカル線で移動して、八戸から盛岡駅までは新幹線を使う。
八戸への最寄り空港でもある三沢空港だが、空港バスで八戸駅まで移動すると1時間以上かかってしまい、八戸での新幹線の接続が悪くなり、三沢駅を使うルートに比べて2時間後の新幹線を使うしかなくなるため、後の行程での時間的余裕がなくなるのがこのルートを選択した理由だ。
三沢駅から八戸駅までは「青い森鉄道」を使って移動する。
かつては東北本線と呼ばれた路線の一部だが、2002年から2010年にかけて東北新幹線の盛岡-新青森間が開通したことを受け、在来線だった同区間は第三セクターへと転換され「青い森鉄道」となった。
これが何を意味するのかといえば、JR東日本の施策の数々がこの区間へは反映されないということで、交通系ICカードも「Qチケ」のような仕組みも利用できない。
つまり、「現金で切符を買うしかない」というわけで、キャッシュレス縛りという本企画が最初からいきなり破綻している。唯一の例外ということで今回はご容赦いただきたい。
八戸に到着後は新幹線へと乗り換える。三沢駅で購入した磁気切符を自動改札機に入れて出札し、新幹線乗り場へと移動する。ここで「えきねっとアプリ」の出番となり、青い森鉄道の移動中に購入しておいた盛岡駅までの切符をモバイルSuicaへと紐付ける。えきねっとでは購入した新幹線の切符に対してSuicaのカード情報を入力しておくことで、以後は当該のSuicaを使って新幹線の改札を通過可能になる。
モバイルSuicaを併用すれば、すべての改札の出入りがスマートフォン1台だけで可能になるので非常に便利だ。券売機の行列に並んだり、切符の受け取りのためだけに窓口まで顔を出す必要もない。
東北本線で平泉まで(ゆっくり)移動する
盛岡駅からは在来線の東北本線へと乗り換えになるため、「Qチケ」の出番となる。
Suicaで改札に入ってしまうと平泉ではエリアまたぎで引っかかるため、本企画のメインの部分といえるだろう。
乗り継ぎ時間が1時間近くあったため、一度やってみたかった「わんこそば」を東家(あずまや)の駅前店で体験したり、以前から気になっていたキャッシュレスまわりの取材ポイントを手早くまわったりと過ごしつつ、Qチケの切符を購入して駅の改札へと向かった。
Qチケの購入方法だが、列車検索から切符購入という基本フローは新幹線の場合と一緒で、違いは結果表示のタブを「eチケ/チケットレス」から「Qチケ」に変更しておく必要がある点だ。こうしないと検索結果に列車候補が表示されるのみで購入ボタンが出現しないので、その点のみ注意すればそのまま即切符購入となる。
Qチケでは複数の切符を購入して同行者へとメールで送る仕組みもあるが、このあたりの解説は省略する。えきねっとアプリでは購入済みの切符をホーム画面で確認できるようになっており、それが複数ある場合は左右に“切符”をスライドさせることで選択可能だ。Qチケ対象の切符の場合には「QRコード」を表示するボタンが出現するため、ここで改札機に提示するためのQRコードを出力できる。
1時間半に及ぶ乗車を経て、“エリア”をまたいで平泉駅へと到着した。駅員こそいるものの、ここは簡易改札機しかない駅のため、QRコードを提示する場所がない。そのため、「セルフチェックイン/アウト」の機能を使って出札することになる。
先ほどのQRコードの画面を開くと、「利用開始」だったボタンの表示が「利用終了」になっている。これを押すことで「改札を出た」という状態にできる。注意点としては、このボタンを押すために位置情報が必要なことだ。
「そんなの当たり前じゃん」と思われたかもしれないが、えきねっとアプリについては「“常に”位置情報を許可」しておかなければならず、それ以外の選択肢では機能が利用できないので注意したい。
東北本線のこのエリアは1時間に1本程度しか電車が来ないため、日帰り帰宅を考えればそれも考慮して滞在時間を考える必要がある。
平泉駅から目的地の中尊寺まではそこそこ距離が離れており、最奥のエリアにある金色堂周辺までを考えると徒歩で片道40分ほど。拝観等を考慮すれば往復で1時間40分ほどを見ておかなければならないが、2本先の電車が来るまで1時間50分弱、それを逃すとさらに1時間以上先となるため、大急ぎで吹雪きが酷くなりつつある平泉の地へと歩き出すことにした。
実際に行くまで知らなかったのだが、中尊寺は標高130mの山の上に位置しており、寺社群にたどり着くにはかなり急な坂道を上らなければならない。大量の雪でどんどん足下が悪くなるなか、なんとか金色堂がある周辺のエリアにたどり着いて、ざっと主要部を拝観することができた。なお、金色堂と宝物殿に入るには有料チケットを購入する必要があるが、クレジットカードを含む主要キャッシュレス決済手段に対応しているので、その点は問題なかった。
必要な操作を忘れると遭遇するトラブル
当初の目的を果たしたので、後は帰宅するだけだ。
最速の移動手段としては平泉駅から2つ先の一ノ関駅まで移動して新幹線に乗り、そのまま東京駅に至るというのがあるが、本企画の趣旨は盛岡-仙台間でスマートフォンを使ってエリアまたぎすることなので、とりあえず仙台駅まで東北本線のローカル区間を乗り継いでいくことにした。
ただしこの区間は電車1本では移動できず、途中で一ノ関駅と小牛田駅を乗り継いでいかなければならない。特に一ノ関駅では乗り継ぎの待ち時間が40分近くあり、距離的には盛岡から平泉までとそう大差ないものの、トータルでは2時間半近くかかってしまう。とはいえ、新幹線でショートカットしまくるのも面白くないので、今回も仙台駅まで“ゆっくり”移動することにした。
その効果があったのかは知らないが、途中の一ノ関駅で面白いものを発見できた。一ノ関駅では新幹線がある側の東口と、在来線のプラットフォームに直結している西口の2つの出口があるのだが、西口がQRコードの読み取りにも対応した最新型の改札機なのに対し、東口が簡易改札機となっている。
つまり、Qチケで一ノ関駅に移動してきた場合、西口ではQRコードを改札機にかざすのに対し、東口ではえきねっとアプリ上でセルフチェックイン/アウト操作を行なう必要がある。在来線と新幹線の間の改札機はQRコード読み取りに対応しているが、同じ駅で違う方式が混在しているのは非常に興味深い。
一ノ関駅で乗り継いだ電車に揺られて40分強ほどで小牛田駅に着く。近くに高校があるのか大量の学生が乗ってきた車両で小牛田駅に到着したのだが、ここでの乗り換え時間は10分ほどで仙台行きの電車へと一斉に移動していく。三沢から小牛田まで、ずっと2両編成の電車でやってきたが、ここで初めて6両編成の電車となり、混雑度も高くなってきた。それだけ仙台周辺エリアに人が多いということなのだろう。
やはり40分強ほど電車で揺られていると、いよいよ仙台に到着する。移動中にえきねっとアプリで乗り継ぎのための新幹線の切符を購入済みなので、軽く夕飯でもするかと改札機へと向かったのだが、QRコードを読み込ませるとエラーが出て止められてしまう。
何度かトライした後に諦めて長蛇の列になっている有人窓口に並んだのだが、そこで押し問答となってしまった。いわく、セルフチェックインが完了していないためQRコードが有効になっておらず、これを有効化しようにも位置情報を元にチェックインを行なっているため仙台駅ではどうしようもないとのこと。チェックインのためだけに今さら平泉に戻るわけにもいかないので、駅員としばらく相談し、今回はエラーは無視して素通りさせてもらえることになった。
筆者が勘違いしていたのだが、平泉から仙台への切符を購入した際、アプリ上に「乗車予定の時間が近づいています」の表示とともに「セルフチェックイン(自動)設定済み」と出ていたので、勝手にチェックインが終了していたのだと思っていたのだが、よく説明を読むと「プッシュ通知でお知らせします」ということで、結局自分でセルフチェックイン操作をアプリ上で行なう必要があったようだ。特に戻りの切符は中尊寺から平泉駅に戻ってきてから購入したので、アプリのこの表示と通知が同時に出てしまい、通知メッセージを見逃していたことも大きい。
自分で失敗しておいて言うことでもないが、えきねっとの操作、特にQチケ関連は分かりにくいことが多く、正直現状のままでは多くの方にお勧めできない。将来的に位置情報を使っての改札システムを導入するとのことだが、現状だとアプリ操作のフローが煩雑すぎて、慣れた人か一度トラブルを経験した人でないと、筆者と似たようなトラブルに巻き込まれると思われる。
JR東日本では将来的にモバイルSuicaの改良版アプリをリリース予定だが(えきねっとアプリも合流すると思われる)、UI・UXは改めて全面的な見直しをお願いしたい。
改札でのトラブルがあったため、仙台駅で夕飯を食べる時間はなくなってしまったが、戻りの新幹線自体は1時間半で東京駅に到着し、無事に帰宅することができた。スマートフォン1台あればどこでもスムーズに移動できるという試みは面白いので、ぜひ既存の鉄道のみならず、タクシーやバスなど周辺交通も巻き込んで広げていってほしいところだ。