「ソロモンの栄華」、「ソロモンの知恵」という言葉で有名な古代イスラエル王国のソロモン王(在位:紀元前967年頃-前928年頃)が残した「格言」をもとに、後の時代に編まれたのが旧約聖書の「箴言」の書です。当時旧約聖書の人々はバビロン帝国によって捕囚された苦難の時代にありました。苦しい時に人間は自分のことで精一杯で、神さまの存在を忘れがちとなります。しかし、この「箴言」の書はそのような時こそ「神を畏れることは知恵の初め」であると教え、神さまとの関係の中にこそ人間の真の生き方があることを思い出させるために編纂されました。
この「箴言」の中から、2024年の桜美林学園の年間聖句として選ばれた「悪を耕す者の心には裏切りがある。平和を勧める人の心には喜びがある」という言葉においても、「神を畏れること」が根底に置かれているので、その平和も神さまから見た意味となります。それはたんに戦いが一時的に停止するとか、休戦する状態だけでなく、それを越えて、全ての人が満たされて和解し合うという、完全な平和の状態を意味しています。一方の側が勝利するだけではなく、最終的には敵も味方も両者を含む包括的な和解こそが神さまの平和なのです。このような平和を聖書では「シャローム」と言い、現代まで挨拶の言葉として人々の間で交わされています。
桜美林学園の創立者・清水安三もまたこの「神さまの平和」を生涯願い、実現しようとした人でした。清水は大学の卒業論文で文豪トルストイを論じたほど、トルストイの思想からたくさんの影響を受けていました。その一つにトルストイが聖書の平和を実現すべく、当時起こっていたあらゆる戦争に反対し、非暴力主義を唱えたことがあります。その主張は後にインドのガンジーや、アメリカの公民権運動のリーダーとなったキング牧師の精神となりました。そして、清水もそれを受け継ぎ、戦後、桜美林学園を創立し、再出発する際に学園の理念として平和主義を掲げたのでした。
今、世界では現実にいくつもの戦争が起こっています。また、私たちの身の回りでも人間関係のいざこざ、争いがたくさんあります。その中で、私たちはもう一度、清水が願った神さまの平和、全ての人が和解し合える平和を作り出す学園であることに立ち返って2024年を歩むことができるよう願います。そこには必ず「喜び」が伴うはずです。
シャローム!