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『ジャパネスク・アンコール!』氷室冴子 高彬側の視点から描いた外伝作品

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『なんて素敵にジャパネスク2』の次はこれを読むべき

1985年刊行作品。『なんて素敵にジャパネスク』『なんて素敵にジャパネスク2』に続くシリーズ三作目。表紙及び本文イラストは峯村良子。

ジャパネスク・アンコール!

『なんて素敵にジャパネスク2』を読んだ後は、『なんて素敵にジャパネスク3』を読みたくなるところだが、実は2巻と3巻の間には『ジャパネスク・アンコール!』と『続ジャパネスク・アンコール!』が刊行されており、お話のつながり的にはこちらを先に読むのが正解。

新装版は1999年に登場。イラストレータは後藤星に変更されている。新装版の刊行時は1巻と2巻、そして「アンコール!」と「続アンコール!!」の四冊が同時発売されており、版元側としてもまずはこの四冊を読んで欲しかったのだなと、その意向が伺える。

ちなみにAmazonの表記では「第 9 巻 (全 10 冊): なんて素敵にジャパネスク」と書かれてしまっているのだけれど、これなんとかならないのかな。実質的にこの作品はシリーズ3巻に相当すると思うのだが。

あらすじ

僧唯恵をめぐる騒動から五カ月が経過。許嫁の瑠璃姫は傷心からいまだに吉野に籠ったまま。都に遺された高彬だったが、訳アリとなってしまった瑠璃姫への風あたりは厳しい。母親はふたりの結婚に大反対。幼いころからの従者、守弥もその仲を裂こうと暗躍を開始。そんな中、高彬は唯恵を見たと語る目撃証言に出会う。唯恵は生きているのか?なぜ都に留まっているのか?事件の意外な真相とは?

ここからネタバレ

本作には二編の中編が収録されている。以下、それぞれのコメント書いていく。

高彬のジャパネスク・ミステリー の巻

唯恵事件をなんとかしてもみ消したい高彬。しかしあまりにインパクトの強い事件であったためか、いまだに宮中の噂話は収まらない。唯恵に似た僧形の男が目撃され、高彬は調査に乗り出すのだったが……。

ジャパネスクシリーズは、これまで瑠璃姫の一人称視点で物語が進行してきたが、ここで初めて語り手が高彬に変更される。本エピソードで登場するキャラクタはこちら。

  • 藤原高彬(ふじわらのたかあきら):右大臣の四男。右近少将。瑠璃姫の婚約者。17æ­³
  • 守弥(もりや):右大臣家の家司(けいし)。高彬の五歳年長で22歳。母親が高彬の乳母(めのと)
  • 大江(おおえ):守弥の妹。高彬の乳兄弟で、高彬つきの女房
  • 藤原実成(ふじわらのさねなり):前上総介。唯恵と思われる男を目撃
  • 融(とおる):瑠璃の弟。内大臣家の嫡子。
  • 善修(ぜんしゅう):僧侶。融の乳兄弟
  • 今上帝:鷹男(たかお)の名でかつて瑠璃姫と行動を共にしていた
  • 藤宮(ふじのみや):先々帝の第八皇女。先帝の異母妹。今上帝の叔母。当時の内大臣に降嫁するも現在は未亡人

前回の事件は八月の事件だったようなので、それから五カ月が経過。ってことで年が明けている。季節は冬。これまで描かれてこなかった、右大臣家の様子が描かれる。瑠璃姫との結婚をなんとかして破談にしたい母親。高彬の経歴に傷をつけた瑠璃姫をなんとかして排除したい養育係の守弥らが登場。特に守弥はシリーズを通じて、高彬側の重要キャラとなるので要チェックである。

高彬から見た瑠璃姫像が描かれているのも重要ポイント。癇癪をおこしてブチ切れられたり、池に突き落とされたり、相撲で投げ飛ばされ痣だらけにされたりと、幼少期エピソードが思っていた以上に悲惨だった。よくこれで瑠璃姫への愛情を保てたなと、高彬の懐の深さに驚かされる。

そしてまさかの黒幕は融!貴族の邸宅に潜入させるばかりか、右大臣家の子息(高彬)を襲撃させるとは、さすがにやり過ぎのような……。善修、捕らえられていたり、討ち取られていた可能性もあるのではないかと思うのだけど。

ジャパネスク・スクランブル の巻

なんとかして高彬と瑠璃姫との仲を裂きたい守弥は、一計を案じて、血筋は良いが経済的に行き詰っている宮筋の姫、煌姫との仲を取り持とうとする。高彬を煌姫邸に誘導し、計画は万全に思えたのだが思わぬ邪魔が入って……。

本エピソードで登場するキャラクタはこちら。

  • 守弥(もりや):右大臣家の家司(けいし)。高彬の五歳年長で22歳。母親が高彬の乳母(めのと)。学者一族大江家の末裔
  • 藤原高彬(ふじわらのたかあきら):右大臣の四男。右近少将。瑠璃姫の婚約者。17æ­³
  • 煌姫(あきひめ):先々代の帝の親王水無瀬宮(みなせのみや)の姫君。零落し困窮している
  • 下記(げき):守弥の叔母(母親の妹)。煌姫に仕える女房
  • 兼資(かねすけ):備中介。受領。煌姫に懸想している

二巻のラスト、高彬が瑠璃姫に会うために吉野に行っていた際、都ではこんなことがあったんだよ的なエピソード。今回は高彬の腹心の部下、守弥の一人称で物語は進行していく。時期的には二月の半ばくらい。お話の後半では、吉野から高彬も戻ってきている。高彬至上主義で、目的のためなら手段を選ばない、冷酷な男守弥。でも、策士策に溺れる系の詰めの甘さがあって、彼の目論見はだいたいが失敗に終わる。

本編で重要なのは煌姫の初登場エピソードであるという点だ。煌姫は、天皇家の血を引く高貴な生まれだが、今は見る影もなく落ちぶれている。屋敷はボロボロ、調度品は貧相で、毎日の食事すらおぼつかない。このまま赤貧の中で死んでいくくらいなら、何だってやってみせる。開き直った美人の凄み。「必ず、契ってみせます!」「白いご飯をお腹いっぱい食べてみせますわ!」など名言の数々。瑠璃姫に負けず劣らずの強キャラで、いかにも氷室作品といった感じで、再登場に期待がかかってしまうのであった。

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〇「なんて素敵にジャパネスク」シリーズ

『なんて素敵にジャパネスク』 / 『なんて素敵にジャパネスク2』 / 『ジャパネスク・アンコール!』 / 『続ジャパネスク・アンコール!』 / 『なんて素敵にジャパネスク3 人妻編』 / 『なんて素敵にジャパネスク4 不倫編』 / 『なんて素敵にジャパネスク5 陰謀編』 / 『なんて素敵にジャパネスク6 後宮編』 / 『なんて素敵にジャパネスク7 逆襲編』 / 『なんて素敵にジャパネスク8 炎上編』 

〇その他の小説作品

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〇エッセイ

『いっぱしの女』 / 『冴子の母娘草』/ 『冴子の東京物語』

〇その他

『氷室冴子とその時代(嵯峨景子)』

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