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コラム column

2024年8月28日

労働法エンタメ

「有期雇用における、労使双方が納得できる契約の在り方とは?    
 ~エンタテインメント企業のバックオフィスを例として~」

弁護士  北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

 エンタテインメントを支える人々には、表舞台に立つキャストやクリエイティブチームだけでなく、企業の運営や事務を支えるバックオフィスのスタッフもいます。
 企業は予算や定員の制限がある中で、雇用確保と事業存続とを両立させなければならず、これはエンタテインメント企業においても例外ではありません。したがって、雇用の柔軟性を確保するために、バックオフィスのスタッフについて有期雇用(期間の定めがある労働契約…契約社員やアルバイトなど)の活用が必要となる場合もあるでしょう。

 有期雇用の契約が5年を超えて更新された場合、労働者からの申込みにより、無期雇用(期間の定めのない労働契約…いわゆる正社員)に転換されることになります。これがいわゆる無期転換ルールであり、これに則ったスムーズな雇用継続が望ましいことは言うまでもありません。
 しかし、事業存続(あるいは新たな採用枠の確保)と両立させる必要上、常に全員が無期転換できるとは限らない現実も時にはあるでしょう。そこで、有期雇用を終了せざるを得ない場合でも労使双方が納得できるよう、法の枠組みをふまえつつ予測可能性のある、合理的な契約の在り方が求められるように思います。

➤ 有期雇用の終了をめぐる法的枠組み

 ここで法の定めをみてみると、(いわゆる実質無期状態の場合のほか)労働者側に「①契約更新への合理的期待」が生じている場合、使用者側が有期労働契約を更新させず終了させるためには、「②客観的に合理的で社会通念上相当な理由」(雇止めの正当理由)が必要となります(労働契約法19条2号)。

 ここにいう「②客観的に合理的で社会通念上相当な理由」の有無を判断する際には、例えば勤務成績を理由とする契約終了であれば(無期雇用の場合に適用される)いわゆる解雇権濫用法理と同様の判断基準に基づいて、勤務状況等を個別に吟味すべきとされています。そのため、事案によっては判断が容易でなく、労使間の見解の相違による紛争が生じやすくなり得ます。

 他方で、「①契約更新への合理的期待」の有無は、裁判例をふまえると、例えば以下の要素を考慮して判断されるようです。
- 当該労働者の業務が恒常的・基幹的か、あるいは一時的・補助的か
- 当該労働者及び他の同種労働者について、それぞれの更新回数・通算期間
- 採用時や更新時、使用者が労働者に雇用継続の期待を持たせる言動をしたか否か

 これらに加え、裁判例によれば、有期労働契約の更新回数・雇用期間の限度が、契約締結前から就業規則や雇用契約において明示され、そのことが契約締結の際に当該労働者に表示・説明されている場合には、「契約更新への合理的期待」が成立しにくいと解されるようです(菅野和夫『労働法』第13版(弘文堂)824頁)。
 また、契約締結時ないし更新時に「契約は今期限りとし、次期には更新しない」旨の条項(不更新条項)を明示していた場合には、使用者がそのことを締結時に人事管理上の理由とともに説明し、労働者の納得の上で合意していたと認められれば、「契約更新への合理的期待」が否定される理由になると考えられます(前掲書825頁)。

➤ 「明示」の重要性と実務対応

 これをふまえれば、有期雇用を終了せざるを得ない場合でも労使双方の納得や予測可能性を確保するためには、「契約更新への合理的期待」について見解の相違による紛糾を防ぐことができるよう、雇用契約における「更新回数・雇用期間の上限」および「不更新条項」の明示が実務上重要と考えられます。
 具体的な明示の方法については、近年の裁判例をみると、例えば以下のようなケースで「契約更新への合理的期待」が否定されているようです(令和3年3月30日横浜地裁川崎支部判決)。
- 採用時の契約書(契約期間1年)に「更新上限は通算5年」の旨が定められていた
- 採用時に、当該労働者が「更新上限は通算5年」との説明を受けた上で、契約書に署名押印し、当該説明を受けた旨の確認票にも署名押印した
- その後、各回の契約更新時にも、更新について同様の定めがあった
- 最終更新時の契約書に、不更新条項が定められていた
- 最終更新時に、当該労働者が不更新の説明を受けた上で、当該説明を受けた旨の確認票に署名押印した

 このようなプロセスが、全てのケースにおいて必須といえるかは別論ですが、前述のような明示の趣旨からすれば、このように「契約書における明示」だけでなく「更新回数・雇用期間の上限」および「不更新条項」の内容を労働者本人に説明した上で、本人が説明を受けたこと(および、内容を理解したこと)を証する署名押印文書(上記のケースにいう確認票)を取り交わすことが有益と考えられます。その場合、契約書および確認票等の取り交わしは、契約更新の都度、毎回行うのがベターといえましょう。この点を含め、企業側が必要な説明を充実させることで、労使双方の納得度を高めることが望まれます。

以上

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