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コラム column

2024年7月31日

著作権商標肖像権・パブリシティ権名誉・プライバシー改正IT・インターネットルールメイキングプラットフォーム・プラットフォーマー

「概説情プラ法」

弁護士  小山紘一 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1.はじめに

2024年5月10日に「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(いわゆる「情プラ法(情報流通プラットフォーム対処法)」)が成立し、同年5月17日に公布された1

情プラ法の施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされているが2、本コラムの執筆時点では施行日は未定である。

本コラムは、情プラ法について、①必要性、②沿革、③概説を論じたい。

情プラ法の内容を知りたい方は、「2.情プラ法の必要性」、「3.情プラ法の沿革」を飛ばして、「4.情プラ法の概要」からお読みいただくことをお勧めする。

2.情プラ法の必要性

情プラ法は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(いわゆる「プロ責法(プロバイダ責任制限法)」)の改正法として成立した法律である。

もともとのプロ責法は、インターネット上での情報の流通によって権利の侵害があった場合について、①プロバイダの損害賠償責任の制限と、②被害者の発信者情報開示請求の権利を定めるものであったが、新たな内容が加わり、法律名も変更となった。

プロ責法は、2001年に制定されたが3、プロバイダが一定の条件の下で権利侵害情報を削除する作為義務を負うことを論理的な前提としつつも、実際の法形式としては、責任制限規定を置くことで作為義務が生じ得る場合を間接的に明確化するという手法を採用し、作為義務自体を直接的に規定することはしなかった。

また、制定時の議論では、プロバイダに対して、被害の拡大の迅速な防止を図るための公法上の義務を課すことも検討されたが、最終的には、そのような義務付けも見送られた。

これらの判断がなされた背景には、当時、インターネットがまだ普及段階にあり、ほとんどのプロバイダが設立間もない中規模の企業等であったため、そのようなプロバイダに対して法律上の義務を課すことには特に慎重であるべきとの産業政策上の考慮があったと言われている。

それから20年、インターネット利用があらゆる年代や地域に浸透し、インターネットを利用して情報を発信する人も大幅に増加した。また、SNSの普及により、権利侵害情報が短時間で広範囲に共有されるようになり、名誉毀損やプライバシー侵害などの権利侵害が顕著に増加し、被害も深刻化した。

このような社会情勢の変化を受けて、被害拡大防止のため、権利侵害情報の削除を求める声が高まったが、プロバイダの対応が十分であるとは言えない状況が続いた。

そして、被害者やその支援者などは、①削除要請の窓口が分かりにくい、②窓口が適切に機能していない、③対応が遅い、④結果・理由の通知が行われない、⑤体制が不十分であるといった不満を募らせていった。

他方、近年、SNSは、公共的なインフラとしての重要性が高まっている中、寡占・独占が進んでおり、発信者によるサービス選択の余地が狭まっている状況にある。そのため、SNS事業者によるアカウントの凍結や投稿の削除は、表現の自由や知る権利を制約する度合いが高まっている。そのような状況において、根拠や理由が分からない自主的削除が目立つようになってきた。

規約などで削除の基準を公開しているプロバイダも少なくないが、①基準が抽象的で具体的に何が禁止されているのかわからない、②削除の理由が通知されないため基準がどのように適用されているのか分からないといった批判の声が多い。

その結果、ユーザーは、プロバイダによる恣意的な自主的削除を不安視するようになり、表現の萎縮が指摘されるようになった。

以上のように、権利侵害情報の増加・深刻化への対策、恣意的な自主的削除への対応等の必要性が生じてきた中、今やSNS事業者等のプロバイダの多くは世界的にサービスを提供する巨大企業となっており、プロ責法制定時の「設立間もない中規模の企業等であるプロバイダに対して法律上の義務を課すことには特に慎重であるべき」との産業政策上の考慮も妥当しなくなっていたことから、大規模な情報流通プラットフォームに対して、権利侵害情報の速やかな削除を実現するとともに発信者等に対する削除の透明性の確保を図るための法律上の義務を課すこととしたのが情プラ法である。

3.情プラ法の沿革

前述したとおり、情プラ法はプロ責法の改正法として成立した法律である。

2001年の制定当時、プロ責法は、プロバイダの損害賠償責任の制限と、被害者の発信者情報開示請求の権利を定めるものであった。当初の法律の章立ては、「第一章 総則」、「第二章 損害賠償責任の制限」、「第三章 発信者情報の開示請求等」となっていた。

しかし、インターネット上での誹謗中傷等が社会問題となり、有名人に限らず、多くの被害者が発信者情報開示請求を行うようになる中、発信者を特定する場合には、コンテンツプロバイダ(SNS事業者等)に対する発信者情報開示仮処分によってIPアドレス等の開示を受けた後、別途、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟を提起する必要があることに対して、時間がかかりすぎること、被害者の金銭的負担も大きいこと等が問題視されるようになった。

迅速な被害者救済のため、それらの問題に対処したのが、2021年のプロ責法改正である。その改正では、発信者情報の開示を一つの手続で行うことを可能とする「新たな裁判手続」(非訟手続)を創設するため、「第四章 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」が設けられた。

そして、2024年のプロ責法改正では、法律名が情プラ法に変更となり、大規模な情報流通プラットフォームに対して、権利侵害情報の速やかな削除を実現するため及び削除の透明性の確保を図るための法律上の義務を課すことを目的として、「第五章 大規模特定電気通信役務提供者の義務」が設けられた。また、これらの義務の違反に対して罰則を科すため、「第六章 罰則」も設けられた。

表:情プラ法の沿革(プロ責法の章立ての変遷)

2001年プロ責法 2021年改正プロ責法 2024年情プラ法
第一章 総則
総則
総則
第二章 損害賠償責任の制限 損害賠償責任の制限 損害賠償責任の制限
第三章 発信者情報の開示請求等 発信者情報の開示請求等 発信者情報の開示請求等
第四章 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続 発信者情報開示命令事件に関する裁判手続
第五章 大規模特定電気通信役務提供者の義務
第六章 罰則

4.情プラ法の概説

4-1.情プラ法が定める義務の全体像

上述のとおり、情プラ法は、大規模な情報流通プラットフォームに対して、権利侵害情報の速やかな削除を実現するとともに発信者等に対する削除の透明性の確保を図るための法律上の義務を課すものである。

主たる義務の内容は、大きく2つに分けられ、⑴権利侵害情報への対応の迅速化の義務、⑵運用状況の透明化の義務となっている。それぞれに分類される主な義務は以下のとおりである。

表:情プラ法が定める主たる義務

権利侵害情報への対応の迅速化の義務 運用状況の透明化の義務
削除申出窓口や手続の整備と公表(22条) 削除基準の策定と公表(26条)
削除申出への対応体制の整備(24条) 削除した場合の発信者に対する通知(27条)
削除申出に対する一定期間内の判断と通知(25条) 削除の実施状況についての公表(28条)

このように情プラ法は、大規模な情報流通プラットフォームに対する作為義務を規定するものであるが、投稿の削除に関する権利(及び権利)について、実体法上の新たな根拠を定めるものではないことに注意が必要である。情プラ法は、どのような情報を削除すべきかについての判断に行政が関与することは適当ではないという考えのもと、手続的な義務を中心として構成されている。

4-2.情プラ法上の義務が課される対象:大規模特定電気通信役務提供者

4-2-1.大規模特定電気通信役務提供者

上記のような義務が課される対象は、情報流通プラットフォームのうち一定規模の要件等に該当し、総務大臣が「大規模特定電気通信役務提供者」(20条1項柱書)として指定された者に限られる。

「大規模特定電気通信役務提供者」の定義は、大規模特定電気通信役務を提供する特定電気通信役務提供者とされており(20条1項柱書)、具体的には以下の要件に該当するSNS事業者や電子掲示板の管理者・運営者等のことである。

① 発信者等の数が一定規模以上であること(20条1項1号)
② 侵害情報送信防止措置を講ずることが技術的に可能であること(20条1項2号)
 ≒ 侵害情報の削除が技術的に可能なサービスであること
③ 権利侵害発生のおそれが少ないサービスではないこと(20条1項3号)

上記②の「侵害情報送信防止措置」については、「侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る」と限定されている(20条1項2号括弧書き)。侵害情報送信防止措置は広い概念であり、サービス自体の停止やウェブサイト全体の閉鎖、侵害情報の削除等が含まれる。しかし、「侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る」と限定された場合の侵害情報送信防止措置は、事実上、侵害情報の削除に限られることとなると考えられている。そのため、上記②の要件は、「侵害情報の削除が技術的に可能なサービスであること」と理解してよい。なお、ここでいう「削除」は、侵害情報を「見えなくすること」という意味であり、「サーバー上からデータを削除すること」までを意味するものではない。

上記③については、チャット機能を有するオンラインゲームの提供者等を除外する趣旨のものである。オンラインゲーム内の利用者間でのチャット機能は、定義上は「特定電気通信役務」に該当する場合があり、利用者数等の点でも大規模な場合があるが、用途が限定されており、このようなサービスを利用した権利侵害発生の可能性は低いと考えられたことから、このような要件が設けられた。

上記①の発信者等の数が一定規模以上であることという要件については、具体的には、以下のように定められている。

ⅰ SNSのような利用者登録を要する登録型サービスの場合 平均月間発信者数が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること(20条1項1号イ)

ⅱ 電子掲示板のような利用者登録を要しない非登録型サービスの場合 平均月間延べ発信者数が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること(20条1項1号ロ)

上記の要件では、「平均月間発信者数」においても「平均月間延べ発信者数」においても、「日本国外にあると推定される者を除く」とされている(20条1項1号イ括弧書き)。これは、海外の利用者向けに提供されるサービスについては、たとえ大規模なものであっても我が国の法律上の義務を課す必要性は低いためと判断されたことによる。「日本国外にあると推定される者」か否かについては、登録型サービスの場合は発信者等の登録上の利用地国等、非登録型の場合は投稿に使用された言語や接続元IPアドレスの所在地国等を判断基準とすることが想定されている。

4-2-2.平均月間発信者数が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること
「平均月間発信者数」については、該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者及びこれに準ずる者として総務省令で定める者の数の総務省令で定める期間における平均とされている(20条1項1号イ)。

このうち「これに準ずる者として総務省令で定める者」については、該特定電気通信役務を利用して一月間にリポストやいいね等の発信に準じた拡散行為等を行った者等とすることが想定されている。

端的に言えば、「平均月間発信者数」とは、平均月間アクティブユーザー数のことである。

また、「総務省令で定める期間」については、月単位の発信者数について生じる季節変動等を捨象するため、各年度の一年間とすることが想定されている。

そして、「総務省令で定める数」については、少なくとも約1割以上の国民に利用されることを目安に、原則「1000万人」とすることが想定されている。なお、特定電気通信役務の種類に応じた数値の細分化については、市場環境の変化等を踏まえ、必要に応じ検討することとされている。

4-2-3.平均月間延べ発信者数が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること
「平均月間延べ発信者数」については、当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者の延べ数の総務省令で定める期間における平均とされているが(20条1項1号ロ)。

端的に言えば、「平均月間延べ発信者数」とは、平均月間投稿数のことである。

ここでの「総務省令で定める期間」については、月単位の延べ発信者数について生じる季節変動等を捨象するため、各年度の一年間とすることが想定されている。

そして、「総務省令で定める数」については、一日当たり平均して約3万以上の投稿が行われることを目安に、原則「100万件」とすることが想定されている。ただし、長尺の動画投稿サイトにおいては、一日当たり平均して約1万以上の投稿が行われることを目安に、「30万件」とすることが想定されている。

表:情プラ法上の義務が課される対象(大規模特定電気通信役務提供者)として指定される条件(想定)

条件① 発信者等の数が一定規模以上であること
登録型サービスの場合 非登録型サービスの場合
投稿・リポスト・いいね等を行ったアクティブユーザー数の1か月平均が1000万人以上 投稿数の1か月平均が100万件以上 (長尺の動画投稿サイトの場合は、30万件以上)
※ 1年間の合計数から算出
※ 海外の利用者は除く
※ 1年間の合計数から算出
※ 海外の利用者は除く
条件② 侵害情報送信防止措置を講ずることが技術的に可能であること
侵害情報の削除が技術的に可能なサービスであること
条件③ 権利侵害発生のおそれが少ないサービスではないこと
オンラインゲーム内の利用者間でのチャット機能等ではないこと

4-2-4.平均月間発信者数及び平均月間延べ発信者数の把握方法
平均月間発信者数及び平均月間延べ発信者数の把握は、原則として、プロバイダに月間の発信者数や投稿数を報告させることによって行うこととされている(20条3項)。

しかし、プロバイダが指定を逃れるために報告に協力しないこと、そもそもプロバイダ自身が当該数値を把握していないため報告できないこと等も予想される。そのため、総務大臣は、報告による当該数値の把握が困難である場合には、総務省令で定める合理的な方法により当該数値を推計することができるとされている(20条3項)。ここでの「総務省令で定める合理的な方法」については、国内のインターネット利用者に対するアンケート調査等が想定されている。

4-3.大規模特定電気通信役務提供者として指定された情報流通プラットフォームに生じる義務

4-3-1.全体像
前述のとおり、大規模特定電気通信役務提供者として指定された情報流通プラットフォームには、⑴権利侵害情報への対応の迅速化の義務、⑵運用状況の透明化の義務が課される。

以下、それぞれについて見ていく。

4-3-2.権利侵害情報への対応の迅速化の義務
権利侵害情報への対応の迅速化の義務としては、①削除申出窓口や手続の整備と公表(22条)、②削除申出への対応体制の整備(24条)、③削除申出に対する一定期間内の判断と通知(25条)が規定されている。

①削除申出窓口や手続の整備と公表(22条)としては、被害者からの削除要請を受け付ける方法を定め、公表する義務が課されている。このうち、被害者からの削除要請を受け付ける方法については、以下の条件に適合するものでなければならないと定められている(同条2項)。

ⅰ オンラインで申出可能であること(1号)
ⅱ 申出者に過重な負担を課すものでないこと(2号)
ⅲ 申出受付日時が申出者に明らかとなるものであること(3号)

②削除申出への対応体制の整備(24条)としては、上記①の手続に従った削除申出があった場合に、裁判例の調査等の専門的な知識経験を要する対応を適正に行うため、インターネット上で発生する権利侵害への対処に関する十分な知識経験を有する人員(侵害情報調査専門員)を社内又は社外に一定数以上確保する義務が課されている。ここで注意が必要なのは、侵害情報調査専門員を社外に確保する場合、権利侵害情報該当性の調査が法律事務に当たる可能性があり、弁護士法72条違反のおそれが生じ得る点である。この点については、何か明確な基準が示されているわけではなく、各自が、個別の事案ごとの具体的事情を踏まえ、弁護士法72条の趣旨に照らして判断しなくてはならない。また、侵害情報調査専門員の数は、「平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数及び種別に応じて総務省令で定める数」とされているが(同条2項)、ここでの「総務省令で定める数」については、以下のようにすることが想定されている。

ⅰ 登録型サービスの場合
 平均月間発信者数1000万ごとに1人
ⅱ 非登録型サービスの場合
 平均月間延べ発信者数100万ごとに1人(ただし、長尺の動画投稿サイトにおいては、平均月間延べ発信者数30万ごとに1人)

③削除申出に対する一定期間内の判断と通知としては、上記①の手続に従った削除申出があった場合に、
必要な調査を行った上で、要請に応じて情報を削除するかどうかを判断し、十四日以内の総務省令で定める期間内に、その結果及び理由を削除申出を行った者に通知する義務が課されている。ここでの「十四日以内の総務省令で定める期間」については、7日から10日程度とすることが想定されている。具体的な期間が法律に書き込まれなかったのは、技術の進展により業界の標準的な所要日数が長くなる可能性(例:メタバース空間においてアバターの動作を用いた権利侵害が行われ、アバターの動作の解析・再現や、非言語的情報による権利侵害の成否について判断に時間を要するようになるケース)や、短くなる可能性(例:AIの活用により短時間での判断が可能になるケース)を考慮したためである。

4-3-3.運用状況の透明化の義務
運用状況の透明化の義務としては、①削除基準の策定と公表(26条)、②削除した場合の発信者に対する通知(27条)、③削除の実施状況についての公表(28条)が規定されている。

①削除申出窓口や手続の整備と公表(26条)としては、自主的削除を行う場合に、削除の対象となる情報の種類をできる限り具体的に定め、事前に公表する義務が課されている。この義務を果たさないと、情報の削除ができるのは、以下の場合に限られることになる(26条1項)。

ⅰ 自らが発信者であるとき(1号)
ⅱ 侵害情報送信防止措置を講ずる法令上の義務があるとき(2号)
ⅲ 通常予測することができない緊急の必要があるとき(3号)

プロバイダによる情報の削除には、義務的削除(条理上の作為義務等に基づく権利侵害情報等についての義務的な削除)と自主的削除(自社の方針に照らして不適切と考える情報についての自主的な削除)がある。このうち、義務的削除については、条理や法令の規定を根拠とする義務に基づき当然に行われるものであり、削除基準の策定・公表義務の対象とはなっておらず、削除基準に掲げていなくても当然に削除することができる(26条1項2号)。

②削除した場合の発信者に対する通知(27条)としては、自主的削除と義務的削除の双方について、削除の事実及び理由を発信者に対して通知し、又は発信者が容易に知り得る状態に置く義務が課されている。

③削除の実施状況についての公表(28条)としては、毎年一回、上記の各義務に基づき講ずべき措置の実施状況を公表する義務が課されている。この義務は、発信者等に対する削除の透明性を確保するための義務の実効性を高めること、権利侵害情報の速やかな削除に向けたインセンティブを高めること、制度の施行状況を明らかにし、将来的な制度の見直しに向けた検討に役立てることを目的とするものである。また、公表すべき内容は、具体的には、以下のとおりである。

ⅰ 削除申出の受付の状況(1号)
ⅱ 削除申出に対する通知の実施状況(2号)
ⅲ 削除した場合の発信者に対する通知の実施状況(3号)
ⅳ その他総務省令で定める事項(4号)

このうち、「総務省令で定める事項」(4号)については、25条1項但書きの規定に基づき削除申出に対する通知を実施しなかった場合の件数や、27条各号の規定に基づき削除した場合の発信者に対する通知を実施しなかった場合の件数等が想定されている。

4-3-4.罰則

削除申出窓口や手続の整備と公表(22条)、削除申出への対応体制の整備(24条)、削除申出に対する一定期間内の判断と通知(25条)、削除基準の策定と公表(26条1項、3項)、削除した場合の発信者に対する通知(27条)、削除の実施状況についての公表(28条)の義務の違反に対して、総務大臣は、その違反を是正するために必要な措置を講ずべきことを勧告することができる(30条1項)。

そして、正当な理由がなく当該勧告に係る措置を講じなかったとき、総務大臣は、措置命令ができる(同条2項)。

この措置命令に違反した場合は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処することとされている(35条)。

また、ⅰ大規模特定電気通信役務提供者の指定を受けた者の届出(21条)に関して届出をせず、又は虚偽の届出をした場合、ⅱ業務に関する報告(29条)に関して報告をせず、又は虚偽の報告をした場合、五十万円以下の罰金に処することとされている(36条)。

上記の措置命令への違反又は大規模特定電気通信役務提供者の指定を受けた者の届出義務違反については、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して行われたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して一億円以下の罰金刑を科することとされている(37条1号)。

また、業務に関する報告義務違反については、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して行われたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して五十万円以下の罰金刑を科することとされている(37条2号)。

その他、ⅰ平均月間発信者数及び平均月間延べ発信者数の報告(20条3項)に関して、報告をせず、又は虚偽の報告をした場合、ⅱ侵害情報調査専門員の届出(24条3項)に関して、届出をせず、又は虚偽の届出をした場合、三十万円以下の過料に処することとされている(38条)。

表:情プラ法の義務と違反した場合の罰則

  義務の内容 勧告 措置命令 罰則 両罰規定
権利侵害情報への対応の迅速化の義務 削除申出窓口や手続の整備と公表(22条) 一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金 一億円以下の罰金刑
削除申出への対応体制の整備(24条) 一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金 一億円以下の罰金刑
削除申出に対する一定期間内の判断と通知(25条) 一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金 一億円以下の罰金刑
運用状況の透明化の義務 削除基準の策定と公表(26条) 一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金 一億円以下の罰金刑
削除した場合の発信者に対する通知(27条) 一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金 一億円以下の罰金刑
削除の実施状況についての公表(28条) 一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金 一億円以下の罰金刑
その他の義務 指定を受けた者の届出(21条) 五十万円以下の罰金 一億円以下の罰金刑
業務に関する報告(29条) 五十万円以下の罰金 五十万円以下の罰金
発信者数に関する報告(20条3項) 三十万円 以下の過料
侵害情報調査専門員の届出(24条3項) 三十万円 以下の過料

5.おわりに

情プラ法は、権利侵害情報の増加・深刻化への対策、恣意的な自主的削除への対応等の必要性が生じたことから制定されたものであり、大規模な情報流通プラットフォーム(大規模特定電気通信役務提供者)に対して、削除対応の迅速化と運用状況の透明化に関する作為義務を課すことを内容としている。

重要なのは、権利侵害情報から名誉やプライバシー、著作権や商標権等を保護するためだけではなく、プロバイダの恣意的な自主的削除から表現の自由等を保護することも目的としているという点である。

情プラ法の適切な運用によって、上記2つの目的がバランスよく達成されることを期待している。

また、情プラ法の法律案が国会に提出された後に注目されるようになった新しい問題もあるが、情プラ法がそれらの問題にどこまで対応できるのかは重要な課題である。具体的には、ただちに権利侵害情報と言えるかが難しいSNSでのなりすましの問題、多くの被害者がいるものの削除申出にほとんど応じてもらえないGoogleマップの口コミの問題等である。

国会審議においては、SNSでのなりすましの問題については、情プラ法の制定によって「一定の効果は期待できるのではないか」との総務大臣の答弁があった。

しかし、Googleマップの口コミの問題については、Googleを大規模特定電気通信役務提供者とするか否かについて明確な答弁はなく、政府参考人から、「総務省の有識者会議の報告書では、特に権利侵害情報の流通やその拡散が生じやすいものとして、不特定者間の交流を目的とするサービスであってほかのサービスに付随して提供されるものではないサービス、こういった二つの条件を提供する…事業者を対象とすることが適当であるとされている」との答弁がなされた。この基準によれば、Googleマップの口コミは、Googleマップに付随して提供されるサービスと判断された場合、情プラ法の対象外になってしまうが、影響力の大きさを考えると、妥当ではないと思われる。

情プラ法は総務省令に委任している事項が多いが、それはこういった新しい問題にも柔軟に対応できることをも意味する。情プラ法の趣旨に則って総務省令を定め、適切な対応がなされることを願っている。

以上

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